血液でわかる認知症のヒント ― PTAUとアミロイドの不思議な関係

血液でわかる認知症のヒント ― PTAUとアミロイドの不思議な関係

アルツハイマー病といえば「アミロイドβ」という物質が脳にたまる病気、という説明を聞いたことがある方も多いと思います。長年、この「アミロイド仮説」が研究の中心でした。しかし最近は、単にアミロイドがたまるだけでは説明できないことが数多く見つかってきています。
一方で、血液検査で測れる「PTAU(リン酸化タウ)」という新しいマーカーが注目されています。今日は、この二つの視点からアルツハイマー病を少しわかりやすく解説してみたいと思います。

目次

1.PTAUとは何か?

アルツハイマー病の脳では大きく二つの変化が起こります。ひとつはアミロイドβというタンパクが脳に沈着すること。もうひとつはタウというタンパクが異常になり、神経細胞を壊してしまうことです。

特にタウは、もともと神経の骨組みを支える役割を持っていますが、「リン酸化」という化学変化を受けすぎると性質が変わり、細胞に悪影響を及ぼします。これを「PTAU(リン酸化タウ)」と呼びます。

近年、このPTAUが血液の中に流れ出してくることがわかり、血液検査で測れるようになってきました。脳の変化を血液で手軽に推測できるのは大きな進歩です。しかも、PTAUの数値はアルツハイマー病の進行や症状と強く関係していることがわかってきており、診断や治療効果のチェックに役立つ可能性があります。

2.アミロイド仮説の限界

では、なぜアミロイドβだけでは説明できないのでしょうか。実は、健康な高齢者でも脳にアミロイドがたくさんたまっている人は珍しくありません。ところがその人が必ずしも認知症になるわけではないのです。逆に、認知症が進んでいてもアミロイドがそれほど多くない人もいます。

また、アミロイドを取り除く薬の研究もたくさん行われてきましたが、多くは思ったほど効果が出ませんでした。PET検査でアミロイドが減っても、記憶力や生活のしやすさが改善するとは限らなかったのです。このように、「アミロイドがたまる=認知症になる」という単純な図式は成り立たないことが明らかになってきました。

3.病気の本当の引き金は?

最新の研究では、アミロイドβの蓄積は「きっかけ」にはなるものの、それだけで病気が進むわけではないと考えられています。むしろ、タウの異常や脳の炎症、血管のトラブルなどが重なって初めて神経細胞が壊れていき、記憶障害などの症状が現れるのです。

そのため、「今どれだけアミロイドがたまっているか」よりも「タウの異常がどのくらい進んでいるか」を知ることの方が、実際の病状に近いといえるでしょう。

 4.PTAU測定の魅力

ここでPTAUの出番です。血液中のPTAUを調べると、タウの異常の進み具合を知ることができます。研究によれば、PTAUの数値は記憶障害の進行やアルツハイマー病のリスクを予測する力が強いとされています。

つまり、「アミロイドがあるかどうか」ではなく、「病気が実際に動き始めているかどうか」をチェックできる、より実用的な指標といえるのです。これが世界中で注目されている理由です。


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5.これからの課題

もちろん、PTAU測定も完璧ではありません。まだ研究段階であり、検査のやり方を統一したり、他の病気との区別をどうするかといった課題があります。また、認知症はアルツハイマー病だけでなく、血管障害や別のたんぱく質が原因になるケースも多いため、PTAUだけで全てが説明できるわけではありません。

それでも、「血液検査で脳の変化をとらえる」という発想は、これまでの医療に大きな変化をもたらす可能性を秘めています。将来は健康診断のように、気軽に認知症リスクをチェックできる時代が来るかもしれません。

6.まとめ

アルツハイマー病は、アミロイドβの蓄積だけで説明できる単純な病気ではありません。アミロイドは「舞台装置」を用意するようなもので、実際に物語を動かすのはタウの異常や炎症などの要素だと考えられます。

そして、その「病気が動き始めたサイン」を血液でとらえられる可能性があるのがPTAU測定です。まだ発展途上の技術ですが、認知症の早期発見や治療の進歩につながる大きな希望でもあります。

私たちが認知症を正しく理解し、恐れるだけでなく備えるために、こうした研究が今後ますます重要になっていくでしょう。

 

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