【お薦め本の紹介】板上に咲く MUNAKATA: Beyond Van Gogh

【お薦め本の紹介】板上に咲く MUNAKATA: Beyond Van Gogh

私は絵画の収集が趣味です。その中でも棟方志功さんの釈迦十大弟子の両脇を飾る、普賢菩薩と文殊菩薩を時間とお金をかけて購入できたことは人生に彩を与えてくれています。今回の原田マハさんの小説では棟方志功さんの奥様の視点から描かれています。釈迦十大弟子にまつわるエピソードがまさにこの小説のメインになっています。小説としてもとてもほっこりして心地よいものでした。

  • ゴッホにならうとして上京した貧乏青年はしかし。 ゴッホにはならずに。 世界の。 Munakataになった。
  • 作品の胎動を感じられるのはあの人だけ。板画をこの世に送り出してやれるのは世界中にたったひとり、自分だけ。臨月の母親みたいなもんです。
  • あの日からずっと、夫が亡くなるまで、四十年以上。  棟方と一緒にいる限り、墨を磨る。それが私の大切な仕事になり、生きていく理由になっていた気がします。
  • 版画ではなく「板画」です。戦時中、棟方が自分の仕事を自らそう名付けました。板を彫る、墨で 摺る画。世界にたったひとつ、板上に咲く絵。だから板画なのだと。
  • 西洋人の目、色眼鏡をかけずにまっすぐに向けられたまなざしが、日本の木版画の新しい価値を見出した
  • 棟方は、あるとき気がついたんです。  ──自分は、日本人だ。もともと日本で生まれた仕事を、日本人の自分が日本で産んでこそ、本当のものなんじゃないか。
  • 自分が憧れに憧れて神とも崇め奉っているゴッホは、日本に憧れに憧れて崇め奉っていたんじゃないか。
  • いかにしてゴッホがあんなにも情熱的で革新的な絵画を創作するようになったか。──浮世絵があったからだ。
  • ゴッホが勉強して勉強して勉強しきった木版画の道へ進もうと、その入り口に立っている。  この道こそが、自分が進むべき道だ。ゴッホのあとを追いかけるのではなく、ゴッホが進もうとしたその先へ行くのだ。──ゴッホを超えて。
  • かつて浮世絵は絵師・彫師・摺り師の共同作業で作られていたが、棟方はこの三つの作業のすべてをひとりで担った。
  • 一方で棟方は、西洋では「色」と見られていない「黒」と「白」の魅力に気づいてもいた。
  • 「白樺」の主宰者、柳宗悦。彼が提唱する「日本民藝運動」の仲間、陶芸家の濱田庄司。  棟方にとって神仏にも等しいふたりが、目の前にいる。
  • どうしても「油絵よりも格下」という既成概念が邪魔をする。それをなんとか覆せないかと棟方はこの八年もがき続けてきた。そこへ柳たちが既成概念を取り払った「民藝の目」で棟方の版画を見出してくれた。棟方にとって、それはとてつもない 僥倖 となった。
  • 次なる一手を棟方はすでに決めていた。かねてからの課題となっていた「釈迦十大弟子」である。
  • 〈二菩薩釈迦十大弟子〉がこの世に生まれ落ちた。  大判の朴の版木六枚の裏表に彫り上げられた釈迦の十大弟子── 迦旃延・羅 睺羅・阿難陀・大 迦葉・優波離・富 樓 那・舎利弗・阿 那 律・須菩提・目犍連 と、二菩薩──文殊・普賢の立ち姿である。
  • それは、〈釈迦十大弟子〉の板木をウィンザーチェアの周りに縄でくくりつけ、さらにその上から布で梱包して「家財道具」として送り出す、というアイデアだった。 〈十大弟子〉の五枚の板木はチェアにくくりつけるのにぴったりの大きさだった。何かに導かれているとしか思えない機転だった。
  • 大空襲の前日に、ウィンザーチェアにくくりつけて福光へ送り出した「家財道具」……〈釈迦十大弟子〉の板木。あの大混乱の中で、奇跡的に届いたんです。
  • 命拾いをした大切な板木。無駄にするわけにはいかないと、棟方はあえなく帰天した二菩薩を彫り直して、再び六枚の板木を揃えました。
  • 見る人によるとは思いますが、私は、新しく命を吹き込まれた二菩薩のほうがちょっとだけ今様な気がするの。いっそうきりっとして、凜々しくて。
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長谷川嘉哉監修シリーズ