親を施設に預ける罪悪感は心配無用!認知症専門医が伝える7つの話

親を施設に預ける罪悪感は心配無用!認知症専門医が伝える7つの話

認知症介護も限界を迎えると、多くのご家族が施設入所を考えます。そんなときに、家族を襲うのが「罪悪感」です。できれば、自宅で介護をしたいがそれも不可能。だからといって入所させるのは可哀そう。その葛藤に家族は苦しむのです。

ご自身を育ててもらった親御さんに対して、今度は自分が面倒を見ている番。なんとか親孝行を、と思ってもあまりできないうちにここまでになってしまったのではないでしょうか。

しかし、施設に預けることは決して親不孝ではなく、本人のためでもあるのです。何より介護に限界を迎えられているのであれば、介護者の方が救われる必要があります。

今回の記事では、認知症患者の元家族であり、現在は認知症専門医である長谷川嘉哉が、そんな「罪悪感を和らげる話」をご紹介します。介護生活に限界を感じられている方の参考になれば幸いです。

1.入所を考える理由

多くのご家族が入所を考えるときはどんな時でしょうか?

1-1.認知症の周辺症状が出現している

認知症の代表的症状は「物忘れ」ですが、家族をそれほど困らせるわけではありません。さっき話をしたことを忘れようが、同じ質問を繰り返そうが、家族にとってストレスにはなりますが、生活に大きな影響を与えるほどではないでしょう。

しかし、認知症が進んできて、幻覚・妄想・暴言暴力・介護抵抗といった症状が出るようになると家族を苦しめます。これらの症状を周辺症状もしくはBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)といいます。行動・心理症状ともいいます。この症状が出てくると家族の介護負担は重くなります。

Various Reminders Attached With Magnetic Thumbtacks
いろいろなことを思い出せなくなってくると、周辺症状の発生が近づいているかもしれません

1-2.身体介護も必要になっている

認知症介護とともに、身体介護が必要になると家族の介護負担はさらに重くなります。歩行が不安定になり、ちょっとした移動でも手伝いが必要です。もちろんトイレや入浴の際も介助が必要になります。さらに、転倒してひどく顔を打ったり、骨折をすれば通院の負担まで加わるのです。

その結果、介護者が腰を痛め、自宅での介護自体が不可能になることもあるのです。「体力さえあれば」「この痛みさえなければ」もっとしてあげられるのに、と思われる方は少なくありません。

1-3.失禁が大きな決断になることも

頑張ってきた介護者の緊張の糸が切れる出来事の一つが失禁です。紙パンツを使っても、自分で脱いでしまって、布団が尿や便だらけになることもあります。トイレが床どころか壁にまで便がついていると掃除も大変です。時には、廊下や部屋にも便が落ちていて、家族が踏んでしまうこともあります。こんなエピソードがきっかけになって入所を決断されるご家族が多いのです。

2.罪悪感の正体とは

それほどの状態でも被介護者を入所させる前に立ちはだかる「罪悪感」とは何でしょうか?

2-1.親を捨てるという気持ち

自分自身を育ててくれた親を捨てるという気持ちが第一でしょう。特に、片親で苦労して育ててくれた親の場合はなおさらです。以前に私のグループホームの家族会で、「父親を早く亡くし、女手一人で育ててくれた母親を入所させて申し訳ないと思っている」と言われた方がいらっしゃいました。

2-2.気になる世間体と離れて暮らす親せきの一言

「〇〇さんの家では親の面倒を見切れなくて施設に預けた」と言われることを気にする人がいます。「あれぐらいだったら、まだ家で看られるのでは?」と本人を看ていない人ほど安易に言います。そんな言葉が介護者を傷つけるのです。特に認知症の患者さんは、たまに会う人の前ではしっかりするものです。

親せきなどから「施設に入れるなんてかわいそう」などとなじられたりすれば、家族の罪悪感は追い打ちをかけられます。介護に手を出していない人間は、口を出してはいけないのです。

2-3.自分はベストを尽くしたのかという自責の念

できるだけ自宅に住み続けたいと願う親はやはり多くいて、それをできれば叶えてあげたいと努力する家族が多いものです。そのため、「まだ自分で介護できるのでは?」と最後まで悩まれる方がいます。しかしそういった真面目な方は、すでに介護の限界を超えていることが多いのです。

Mother and daughter
自分が育ててもらった恩返しは施設入所後も可能なのです

3.入所は罪ではない

認知症介護や身体介護が重くなった場合、在宅介護は不可能です。したがって入所自体は決して罪ではありません。

3-1.介護負担がゼロになるわけでない

多くの介護者が勘違いしてることがあります。入所させると、自分の負担がゼロになり、楽をすることになると思っているのです。実は、入所しても家族は大変なのです。定期的に顔を出す必要がありますし、病気やケガの場合はすぐに呼び出されます。入院ともなれば、付き添う必要さえあります。

そのため、私は「入所してもご家族の負担は半分程度になるだけで、結構大変ですよ」とお伝えします。そうすると、不思議とご家族は嬉しそうな表情をされるのです。


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3-2.患者さんの良いところだけを見れる

日々の大変な介護のなかで、介護疲れが限界を超えれば、介護者の愛情が憎しみに変わることがあるかもしれません。早くこの介護が終わってほしいと思い、それが介護されている親に伝わる可能性もあります。そうなると、親のほうが家族に対して「介護をさせてしまっている」という罪悪感をもつこともあるでしょう。

しかし、入所すると面会の際には、良い所だけを見ることができます。好きなお菓子をお土産に、楽しくおしゃべりもできます。入所して久々に、親の笑顔を見る余裕ができたといわれたご家族もいらっしゃいました。

3-3.介護は社会全体で行うという時代

そもそも介護保険制度は、介護を家族の力だけで行うのではなく、社会全体で行うために生まれた制度なのです。要介護状態になれば、訪問介護やデイサービスを誰もが利用できます。介護施設に入所して受けるサービスも介護保険サービスの一つです。利用するのに罪悪感を持つ必要は本来ないのです。

4.入所は本人にもメリット大

実は、入所は要介護者さん自体にもメリットがあるのです。

4-1.入所で認知症が進行することはない

入所という環境変化で、認知症の進行を心配されるご家族がいます。しかし、私の経験では入所自体で悪化することはありません。多くの場合は、自宅にいる時よりも刺激が多くなります。そのため、認知症の進行予防にさえなるのです。

ただし、病気自体の進行が早いケースがあることも事実です。その場合は、自宅にいても施設にいても症状は進行します。決して、入所が原因ではないのです。

4-2.多くの刺激が与えられる

介護者にもそれぞれの生活があります。自宅で介護しているご家族がどれだけ患者さんに関われるでしょう? 入所すれば、朝の挨拶だけでも多くの人とかわします。要介護者同士でも会話はします。例えば、「今日は良い天気だね」に対して、「そうだねお腹すいたね」といった、かみ合わない会話でも当事者同士では意味があるんです。もちろん施設も、多くのレクリエーションを用意しています。

入所して自分より介護が必要な方がいると、人間は不思議としっかりするようです。認知症の方が、自分より進行している方のお世話をしているうちに、入所時とは見違えて認知機能を取り戻されることもあるのです。

4-3.自宅よりも良い生活環境

自宅に比べ、施設では冷暖房が完備しています。そのうえ、栄養の計算がされた食事におやつまで用意されています。私が献立を見ると、我が家の夕食よりも充実した昼食が用意されているほどです。

Female doctor interacting with senior man in nursing home
施設入所で改善されることも少なくありません

5.入所後に家族に協力してほしい3つのこと

専門医としては、入所に際して、ご家族にはできるだけ罪悪感を持たないでもらいたいと思っています。しかし、代わりに協力をいただきたいことがあります。

5-1.できるだけ顔を出す

できるだけご家族には面会に来ていただきたいのです。ときに、「家に帰りたがるといけないから、面接を控えるご家族」がいますが、無用です。帰宅願望に対しては施設が対応します。心配せずに、面会に来てください。

5-2.ときには外に連れ出してあげる

施設では、集団生活のためどうしても不自由な点が残ります。好きなものが食べられなかったり、おしゃれができなかったりです。ですから、時々外に連れ出し、外食をしたり、理容・美容院に行くこともとても喜ばれるものです。

5-3.介護施設側と良好な関係を

もしも施設に要望や不満があったら、きちんと話してみましょう。施設側が単に気が付いていないこともあり、意外とあっさり解決することもあります。将来の看取りについては、適宜施設の考えを聞き、家族の希望も伝えましょう。できれば施設で看取りをしてくれるようにお願いしたいものです。

Patient and caregiver spend time together
できる限り面会に訪れていただきたいものです

6.すぐに入所を検討すべき状態とは

私は、以下のような場合は、自宅での介護についてドクターストップをかけることがあります。

6-1.介護者の人生に制約が課せられているとき

昔のように、介護のために誰かの人生を犠牲にする時代ではありません。介護者にも人生があるということを忘れずに、親の介護もできる範囲でやればいいと考えることが大切です。人の手を借りることも「自分ができるだけのことをすること」に含まれています。そしてその延長線上に施設入所があると考えてください。

6-2.介護者が病気になる危険があるとき

高齢者の男性に多いのですが、毎晩何度も奥さんを起こすような人がいます。本人は昼間は寝ていれば良いのですが、介護者は昼間も寝ているわけにはいきません。そんな生活を続けていれば、病気になってもおかしくはありません。介護者が倒れたら元も子もありません。そのような時は、専門医としてドクターストップをかける必要があり、実際にそうしています。

6-3.介護力が乏しいとき

そもそも介護者が一人しかいないようなケースは介護力が乏しいと考えます。そんな状態で自宅介護を進めても破綻することは当たり前です。この場合は当初から施設入所を検討するべきです。

7.まとめ

  • 介護は社会で支える時代です。入所に際して罪悪感を持つ必要はありません。
  • 要介護者にとっても、入所のメリットはたくさんあります。
  • 罪悪感に悩むよりも、入所後に家族ができることやってあげましょう。
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