認知症の外来をやっていると、かなり認知症が進行していても車の運転をしている人がいます。詳細に話を聞くと、お孫さんなどは怖がって、“おじいちゃんが運転する車には乗らない”とまで言っているケースもあります。それでも運転をしているから恐ろしいものです。
このような場合、医師は“運転をやめるよう”指導する責任があります。以前、てんかん患者さんの交通事故が多発した際に、主治医の説明責任も問われました。私も医師会の講演では、積極的に本人、家族に運転をやめるように指導することと、カルテに説明した事実を残すように説明しています。
ここまで指導しても、ご家族の反応には差異があります。
1) 事の重大さをご家族も理解して、家族総出で患者さんを説得して運転を止めてもらうケース。
2) 説得しても本人が納得しない場合は、強制的に車を処分するケース
以上のように、ご家族が必死になって対応すると、車の運転を止めてくれるものです。しかし、中にはどうしても、納得しない患者さんが見えます。このようなケースは、単純なアルツハイマー型認知症でなく、人格が崩壊する前頭側頭葉型認知症であるケースも認められます。ある意味、家族の必死の説得にも関わらず、運転するということ自体が症状なのです。このような場合は、平成25年6月に公布された改正道路交通法により、認知症などの患者について、医師が任意で診察結果を都道府県の公安委員会に届け出られる仕組みが盛り込まれました。医師の守秘義務違反の例外とされたのです。届けると、公安委員会が自宅を訪ね、免許書を無効にしてくれます。さすがにここまでやるとしぶしぶ納得してくれます。
以上の段階でほぼ対応が可能となります。但し、もっとも困るケースがあります。私が車の運転を止めるように指導すると、『車の運転をしないことで、認知症が進むと困ります』と言って、運転を黙認する家族がいることです。そのような家族にあまり厳しく指導すると、受診自体を止めてしまうのです。認知症患者さんの車の運転は、被害者になること以上に加害者になります。高齢者の方には免許を返上する勇気を、ご家族には免許を返上するよう説得する勇気を持ってもらいたいものです。