ジャニー喜多川さんが発症!高齢者のクモ膜下出血を専門医が解説

ジャニー喜多川さんが発症!高齢者のクモ膜下出血を専門医が解説

2019年7月1日ジャニーズ事務所はジャニー喜多川氏が解離性脳動脈瘤によるクモ膜下出血で入院中であることを発表しました。ジャニー喜多川氏は87歳と高齢で、6月18日に体調の異変を訴えて救急搬送、解離性脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血と診断されて治療に専念しているということです。

クモ膜下出血は、突然死の原因でもあるため、早期発見が何よりも大事で、必要があれば手術も必要です。しかし、高齢者の場合は、その対応は少々異なってきます。今回の記事では、高齢者に発症したクモ膜下出血に特有の対応方法について解説します。

目次

1.クモ膜下出血とは?

脳の表面には、「クモ膜」と呼ばれる薄い膜が張っています。脳の血管は、クモ膜と脳の間を走っています。脳の血管が破れた場合の多くは、くも膜と脳の膜の間に血液が広がるため、クモ膜下出血と呼ばれています。

Subarachnoid hemorrhage
クモ膜の下で出血を起こすものです

1-1.突然発症する

クモ膜下出血は突然発症します。多くの家族が「前兆もなく突然起こるのですか?」と聞きますが、突然発症するのがクモ膜下出血の特徴ともいえます。

1-2.原因

原因としては、ジャニー喜多川さんのように解離性脳動脈瘤といって、脳の血管にできた「コブのような動脈瘤」が破れて発症することが最も多いです。その他にも、頭部外傷で起こることもあります。

Cerebral aneurysm
脳動脈瘤のイメージ

1-3.特有の症状

クモ膜下出血の特徴は頭痛です。その頭痛も、患者さんの言葉を借りると「バットで殴られたような痛み」と表現されます。同時に、強い悪心と嘔吐を伴います。そのため、クモ膜下出血による突然死の患者さんの多くは悪心のためトイレにたどり着き、そのまま亡くなる患者さんもいらっしゃいます。但し、発症しているのにも関わらず、頭痛が軽く、自身で歩いて来院される患者さんもいらっしゃるので、注意が必要です。

Sick senior woman with headache
突然の激しい頭痛を伴うことが多いです

2.予後は年齢による差が大きい

動脈瘤破裂によるクモ膜下出血は、50歳前後の働き盛りに最も多いのですが、若い方から高齢者まで全年齢で発症します。そして、発症年齢によって予後が大きく異なります。

2-1.全体の平均

クモ膜下出血の発症後、1か月以内で死亡される方は30%、元気に退院される方は60%で、10%の方には重い後遺症が残ります。突然死の主要な原因の一つですので、怖い病気であるのです。

2-2.60歳以下の方の予後は良好

若い人は、やはり基礎体力があり、回復が良好です。そのため、くも膜下出血術後5年経っても80%の方の生活が自立されております。

2-3.70歳以上の予後は悪い

70歳以上になると、合併症も増え、回復力も弱くなります。そのため、くも膜下出血術後5年経つと自立している方は40%以下になり、半数以上の方は死亡または介助を要する状態です。高齢者ほど予後は悪くなるのです。


長谷川嘉哉監修の「ブレイングボード®︎」 これ1台で4種類の効果的な運動 詳しくはこちら



当ブログの更新情報を毎週配信 長谷川嘉哉のメールマガジン登録者募集中 詳しくはこちら


3.クモ膜下出血後の対応

一般的にクモ膜下出血には、以下のような治療を行います。

3-1.クリッピング

全身麻酔の元、開頭して、破裂した動脈瘤に対して、金属製のクリップを動脈瘤の根元にかけます。このことで、動脈瘤の再破裂を予防します。しかし、この手術は、あくまで再発予防です。出血によってダメージを受けた脳が元に戻ることはありません。そのため、若い方であれば積極的に行うべきですが、高齢者の場合は全身状態・体力も考慮して、クリッピングを行うか否かを検討すべきです。

3-2.血管内手術

開頭せずに、脳動脈瘤にプラチナ製のコイルを詰めて、動脈瘤を固めてしまう治療です。局所麻酔で行えるため、高齢者でも可能ですが、すべての動脈瘤が対象ではありません。

The endovascular treatment
脳動脈瘤の血管内治療

3-3.内科的保存療法

上記のように高齢者の場合は、手術をしないことが多くなります。そのため、内科的対処療法を中心に行います。具体的には血圧を管理、脱水を補正、栄養の維持を行い、可能なら早期にリハビリも導入します。

4.高齢者の場合…後遺症は

以上のように、高齢者の場合、内科的保存療法を選ぶことが多くなりますが、以下の点に注意が必要です。

4-1.呼吸抑制の際の、挿管・人工呼吸は慎重に

クモ膜下出血の場合、脳の広範な障害を伴うことがあるので、呼吸が抑制されます。その際に医師からは、気管支に管を入れる「挿管」および「人工呼吸器」について希望を聞かれます。高齢者の場合、多くの医師は「自分の親なら挿管や人工呼吸はしない」と思っていますが、患者さんの家族には意向を確かめます。一度、挿管をして人工呼吸器につなげると、途中離脱はできません。慎重な選択が望まれます。

Patient do tracheostomy and ventilator in hospital
一度人工呼吸を開始すると、天寿を全うするまで外すことはできません

4-2.食事が摂れない際の、胃ろうは慎重に

クモ膜下出血の場合、いったん命を取り留めても、食事を摂れるほどには回復しない場合があります。そんな場合には、医師からは「胃ろう」を薦められます。しかし、胃ろう導入後の介護は、10年を超えることさえあります。慎重な選択が望まれます。胃ろうについては、以下も参考になさってください。

4-3.自宅での対応が難しければ、施設入所も検討

呼吸抑制もなく、食事も取れれば、自宅への退院が可能です。しかしクモ膜下出血の場合、運動障害や、高次脳機能障害が残ることがあります。その場合、介護者への過剰な負担にならないように施設入所も検討する必要があります。

*高次脳機能障害:脳の機能のうち、言語や記憶、注意、情緒といった認知機能に起こる障害をいいます。注意が散漫になる、怒りっぽくなる、記憶が悪くなる、段取りが悪くなる、などの症状があります。

5.まとめ

  • クモ膜下出血は、発症年齢により予後に差があり、高齢者ほど予後は悪くなります。
  • 高齢者の場合、再発予防のクリッピング術を行わないこともあります。
  • 内科的保存療法の場合、挿管・胃ろうについては慎重に検討する必要があります。
長谷川嘉哉監修シリーズ