高齢者に多発する爪白癬(爪水虫)を治療すべき理由を、病歴35年の医師が解説

高齢者に多発する爪白癬(爪水虫)を治療すべき理由を、病歴35年の医師が解説

爪白癬(つめはくせん)という病気をご存知でしょうか? 爪水虫というと分かりやすいと思います。カビの一種である白癬菌は、皮膚では痒みや皮のめくれといった水虫の症状を引き起こします。その白癬菌が爪に入ると、爪白癬を発症します。実は、私は学生時代から、爪白癬を持っており、細菌学の実習の題材になり、教授から「典型的な白癬菌です」とのお墨付きを頂きました。それ以来、約35年爪白癬をもって生活しています。

そんな爪白癬ですが、私のように放置すると高齢になった時に、生活に支障をきたす原因になるとこともあります。今回の記事では、自ら爪白癬を持つ長谷川が、爪白癬の治療を行うべき理由をご紹介します。

1.爪白癬(爪水虫)とは?

fungal nail infection. Onychomycosis or tinea unguium
足の指の爪(特に親指に多い)が、変色、肥厚し見た目にも歩行機能としてもデメリットとなる状態です

爪白癬は、白癬菌が爪の中に侵入することことで発症します。その経路は、足の指の間や、足の裏の足白癬(水虫)から感染します。そのため、一般的には、足白癬を放置することが、爪白癬の最も大きな原因と言われています。しかし、私などは、特に治療をしなくても足白癬は全くなく、爪白癬だけ35年飼っています。

爪白癬が発症すると、爪が厚くなり、色も白っぽくなり、変形してきます。放っておくと、靴下が引っかかったり、隣の指を傷つけることもあります。また、長距離の歩行やランニングの際は痛みを引き起こすこともあります。そのため、定期的に爪を切る必要がありますが、これがなかなか切りにくいのです。そのため、ふろ上がりに、爪を削るように整えています。「夜に爪を切ってはいけない」という言い伝えに反していますが、やむを得ません。

*「夜に爪を切ってはいけない」:日本に古くから伝わる風習やタブーのひとつ。「夜に爪を切ることは縁起が悪く、親の死に目に会えなくなる」と言われている。

2. 爪白癬の現状

私だけでなく、爪白癬には、思いのほか多くの方が罹患されています。

2-1.患者数

10人に1人が爪白癬であるという報告があり、単純計算すると1000万人以上の爪白癬患者がいるのです。少し、私も勇気づけられました。

2-2.年齢別罹患率

爪白癬は、年齢とともに増える傾向があります。男性では70歳代、女性では60歳代が、年齢別分布のピークです。海外では、60歳以上の40%がかかっているという研究報告もあります。実際、外来でも高齢者の方には、かなりの頻度で見受けられます。

2-3.基礎疾患でさらに、爪白癬になりやすくなる

白癬自体が、基礎疾患の影響も強く受けます。糖尿病や透析患者さん、免疫抑制剤を服薬している患者さんは、足白癬や爪白癬にかかりやすくなります。

3.爪白癬を放置すると

爪白癬は、爪が厚くなったり変形する以外の問題があります。

3-1.他の爪や他人への感染源となる

爪白癬は、白癬菌の巣のようなものです。これを放置すると、足白癬を引き起こします。そんな、足白癬から、再度他の爪への爪白癬を引き起こし、負のスパイラルを引き起こしてしまいます。もちろん、他人への感染源にもなってしまうのです。

3-2.歩行障害による転倒リスク増

爪白癬になって、肥厚した爪は歩行の際の妨げになります。地面から身体を支える力が不安定になって、すり足などの歩行障害を引き起こします。爪白癬により、過去1年間に転倒した割合が、男性で1.37倍、女性で1.29倍に増加するという報告も見られています。

3-3.細菌感染症の源になる

爪白癬があることで、他の病気のリスクも増大します。例えば肥厚した爪が、指に食い込むことで傷を作ると、そこから細菌感染を引き起こすことがあります。基礎疾患に糖尿病があると傷口から潰瘍ができて治りにくくなることもあります。爪白癬が引き金となって細菌感染をおこすと、蜂窩織炎を発症します。詳しくは、以下の記事も参考になさってください。

4.診断には顕微鏡検査が必須

介護の現場などでは、爪が白くなると「爪白癬」と思われがちです。しかし、爪が白くなる疾患は、爪白癬以外にも多数あります。そのため、診断においては、顕微鏡検査が必須です。皮膚科医の先生でさえ、見た目だけで爪白癬を診断すると、7割弱しか正答できないそうです。

顕微鏡検査自体は、内科医でも可能ですが、「白癬が確実に存在する検体を採取する」には、ある程度の経験が必要です。やはり、皮膚科専門医への受診がお薦めです。

5.治療方法は

治療には以下のものがあります。

5-1.塗り薬

2014年9月に塗り薬のクレナフィンが発売されました。爪の表面に塗って、薬がしみ込んで白癬を治療します。内服薬に比べて、全身の副作用がない点が魅力です。しかし、軽症例には有効ですが、1年間塗り続けても20%しか治らず、完治に至るのは数%と推測されています。実際、私も半年程度、塗りましたが殆ど効果はありませんでした。

5-2.飲み薬

本当に爪白癬を治癒するためには、経口薬が必須です。2020年7月現在、最も効果が優れているのは、ホスラブコナゾール(商品名:ネイリン)です。1日1回1カプセルを12週間服薬することで効果があります。但し、薬価が817.1円のため、3割負担であれば、薬代の負担だけでも4週で7,353円かかってしまいます。

薬剤費を安くしたい場合は、テルビナフィン(ラミシール)を1日1錠使用しますが、内服期間が6か月から1年間と長期になります。ラミシールの後発品の値段は51.7円のため、3割負担であれば、薬代の負担は4週間で465円で済んでしまいます。

5-3.治るまでの期間は

爪白癬の治療は、爪の根元の白癬菌を除去することです。除菌された爪の根本が、指先まで伸びた時に治癒となります。通常、その期間として、6か月から1年程度かかります。高齢になると、爪の伸びる期間も遅くなるため、治癒までの時間を要します。

また、治療によって、白癬にかからなくなるわけではありません。治療終了後も、再感染には注意が必要です。

6.薬が飲めない場合の対応方法

高齢者の場合は、治療を諦めざるを得ないケースもあります。実際、私も経口薬では下痢がひどかったため、保清と保湿に努めています。

6-1.高齢者は服薬できない患者さんも

爪白癬の飲み薬の副作用としては、胃腸障害や肝機能障害が起こることがあります。そのため、元々肝機能障害がある場合は使用できません。また、治療中は、副作用のチェックのため、定期的な血液検査が必要になります。そのため、高齢者の場合は服薬をあきらめるケースも多くあります。

6-2.保清も大事

経口薬が飲めない患者さんには、看護の世界では、フットケアの概念から、足や爪を柔らかめの歯ブラシなどを使って洗うことが薦められています。その際には、抗真菌効果のあるミコナゾール硝酸塩が配合された洗浄剤を使用するとより効果的です。

6-3.保湿は有効

爪白癬で肥厚した爪は乾燥しがちです。その結果、痛みを感じたり、他の指に傷をつけたりします。そのため、ヘパリン類似物質ローションやワセリンなどを使って、爪を保湿することはとても有効です。私個人は、医薬品として処方できるヘパリン類似物質油性ローションの泡状(フォームタイプ)を使用しています。爪白癬自体は治癒できなくても、爪が保湿され、弾力を持つことで、とても快適です。

7.まとめ

  • 爪白癬患者さんは、1000万人以上いらっしゃり、高齢者の40%がかかっています。
  • 爪白癬は、歩行障害や細菌感染の原因になるため、可能であれば治療がお薦めです。
  • 爪白癬の治療の基本は、飲み薬ですが、服薬できない場合は、保清や保湿も効果的です。
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