夜間や運動の後に「足がつる人」は結構いらっしゃいます。特に高齢者では毎日悩んでいる人もいらっしゃいます。さすがに初診、主訴で足のつりでくる人はいませんが、他の病気の相談の際に、申し訳なさそうに「足がよくつるので、それにも悩んでいます」という人が、2、3日に1人はいるのです。
「足のつり」はいろいろな原因で起こります。中には、重篤な病気が潜んでいることさえあります。是非、遠慮なく医師に相談してください。
診察にて重篤でなくても「足のつり」は、日常生活で不快なものです。医師が適切に診断して治療をすれば「足のつり」は容易に改善が可能です。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、「足のつり」の治療対応についてご紹介します。
目次
1.足がつるとは?
「足のつり」は、意志とは関係なしに起こるふくらはぎの筋肉の痙攣で、強い痛みを伴う症状です。その際、足は尖足位という爪先立ちの形をとります。こむら返りと呼ぶこともあります。ちなみに医学用語では「有痛性筋痙攣」や「筋クランプ」と言います。
人間の身体は筋肉の収縮と弛緩を調節することによって、バランスのとれた動きをします。この調節の仕組みは、脳や脊髄などの中枢から信号が神経を通って筋肉に送られ、これにより筋肉の収縮が起こり、次に筋肉や腱のセンサーから逆方向に信号が中枢に送られ、どれくらい収縮するか弛緩するかが決められているものです。「足のつり」は、この仕組みのなかで起こる異常収縮です。
2.足がつる原因
「足のつり」がおこす筋肉の異常収縮が起こる理由は次の2つが考えられています。
2-1.神経や筋肉が刺激を受けやすい状態になっている
利尿剤等の薬の副作用、アルコール摂取、スポーツなどで多量の汗をかいたとき、妊娠中のカルシウム不足、下痢による脱水、人工透析により電解質バランスが崩れたときなどに神経や筋肉が興奮しやすくなります。
2-2.筋肉や腱のセンサーがうまく働かない
寝ているときや水泳のときに起こる「足のつり」は、この理由が考えられます。寝ていると下肢の温度が低下しセンサーの感度が鈍くなります。またふとんの重みや重力のために足は尖足位になっています。尖足位で膝や足を伸ばし、ふくらはぎの筋肉が収縮しても収縮の程度が少ないためにセンサーがうまく働かず、尖足位が強調されこむら返りが起こりやすくなるのです。
2-3.睡眠中に足がつりやすい理由
夜間睡眠中の「足のつり」を訴える患者さんはたくさんいます。50歳以上ではほぼ全員が一度は夜間の「足のつり」を経験しており、60歳以上の6%が毎晩「足のつり」に襲われているという報告もあります。
睡眠中は、ご紹介した2つの条件が揃うことで足がつりやすくなります。
つまり、睡眠時は汗を多くかいており脱水傾向にあり、筋肉の細胞のイオンのバランスが崩れ、「神経や筋肉が刺激を受けやすい状態」になっています。さらに睡眠中は、全身をほとんど動かさないため、心拍数も減り、血行は低下しています。足が一定の姿勢になっており、筋肉が冷え血管も収縮し、血行は悪くなりがちです。つまり、「筋肉や腱のセンサーがうまく働かない」状態といえるのです。
3.治療は必要?
「足がつる」といった症状の多くは一過性のもので、治療の必要は特に無いことがほとんどです。ただし、頻繁に足がつる症状を繰り返すようなら病気の可能性も考えられます。お困りでしたら医療機関での受診を視野にいれることをおすすめします。
3-1.足のつりは何科?
「足のつり」は自分の意志とは関係なしに起こるふくらはぎの筋肉の痙攣です。こういった治療に最も慣れている診療科は脳神経内科です。(平成30年より学会によって、従来の神経内科が脳神経内科に呼び名が変わりました。)
脳神経内科がない場合は内科になりますが、あまり丁寧対応してもらえない場合は、「この医師は足のつりに対する知識・治療経験が少ない」と思いましょう。そして、脳神経内科医を探しての受診をお勧めします。
3-2.治療は頻度次第
治療をするか否かは、頻度次第になります。足がつっている時に、薬を飲んでも間に合いません。そのため治療の基本は予防投与になります。
通常、月に数回程度であれば様子を見ます。しかし、これが週に数回であれば生活の快適性が損なわれていますから、予防投与を行います。この点は、絶対的なものではなく、患者さんとの話し合いになります。患者さんによって「週に数回でもできれば薬は飲みたくない」、「月に数回の頻度だが、できれば避けたいので薬を飲みたい」というようにかなり差があるものです。
4.治療は
予防および発作時の治療として内服薬を使うこともあります。
4-1.芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
よく使われるのは漢方の芍薬甘草湯で、10分くらいで効いてきますので速効性もあります。しかし、10分立てば、「足のつり」は殆ど改善しています。また甘草による副作用が出やすいので、毎日3包も内服するのは避けたほうが無難です。そのため私はあまり使用しません。
4-2.ミオナールの凄い効果
私は、脳神経内科専門医として、ミオナール錠50mg(一般名:エペリゾン塩酸塩錠)で「足のつり」は殆ど対応できています。ミオナールは鎮痙剤の一つです。脳血管障害後遺症の患者さんの麻痺側の緊張を和らげる際に使用します。しかし、その効果は大変弱く、多くの医師は「大して効かない薬」と認識しています。しかし、作用機序は明確ではないのですが、「足のつり」には著効します。
通常は、就寝前にミオナール錠50mgを1錠服用すれば、殆ど「足のつり」は起きなくなります。副作用も殆どありませんので、大変お薦めの薬です。
5.病気で足がつることもある
隠れた病気が原因で、「足がつる」ことがあります。
5-1.糖尿病
糖尿病の合併症に神経障害があります。ふくらはぎの運動神経の障害によって、足がつりやすくなるのです。さらに血糖値が高いと、手先や足先などの冷えが起きますので、より足がつりやすい環境になってしまうのです。
5-2.腰椎ヘルニア
椎間板ヘルニアは、腰椎の中の骨と骨の間の椎間板と呼ばれるクッションが、なんらかの原因で飛び出したり腫れたりしている状態のことをいいます。椎間板ヘルニアでは、椎間板が正しい位置にないため、神経を圧迫し、その結果、運動神経の異常反応が出て足がつる症状が出るのです。
5-3.脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症は脊椎の中にある神経が通る部分(脊柱管)が狭くなる(狭窄症)病気です。狭くなるということは、通りにくく神経が圧迫されるようになり、その結果、運動神経の伝達が上手くいかなくなり、筋肉の緊張状態を作り出すことになり、その結果、足がつりやすくなります。
5-4.閉塞性動脈硬化症
閉塞性動脈硬化症とは、足の血管が詰まる病気です。血行が悪くなり、運動神経が誤作動を起こしているような状態になるため、足がつりやすくなります。
6.再発防止策
できれば、「足のつり」は避けたいものです。再発予防策をご紹介します。
6-1.日々の生活の中で気をつけること
「足のつり」が起こりにくくなる予防法としては、規則正しい生活、バランスの良い食事、適度な運動および運動後のストレッチ、ミネラルの入った水分の積極的な補給、アルコール・タバコの減量、ヒールが高いような疲れやすい靴を避けるといったことが基本となります。
また、仰向けで重い掛け布団を使うと足首の関節が伸ばされ、こむら返りが起こりやすくなってしまいますので、横向きで寝たり、軽い掛け布団にしたりするのも有効です。
6-2.ミオナールの予防投与
夜間の「足のつり」には、就寝前のミオナールが有効です。しかし、ゴルフやハイキングなど運動することが分かっている場合は、朝食後、さらには昼食後にもミオナールを服用しておくと著効します。ゴルフの際には、予防的に必ずミオナールを服薬されることで、「足のつり」が全く起きなくなった患者さんもいらっしゃいます。
6−3.それでも足がつった場合の対応法
「足がつった場合の対処法」については、原則としてはつったところをストレッチの要領で伸ばすことになります。他のサイトになりますが、以下の記事で解説されていました。参考になると思います。
足の指がつる!今スグ痛み軽減法と再発を防ぐための全方法(ストレッチポール®公式ブログ)
7.まとめ
- 足のつりも頻度が多い場合は、専門である脳神経内科医に相談しましょう
- 特に、ミオナールという薬は、副作用もなく著効します。
- 足のつりの原因に、疾患が隠れていることもあります。頻度が多い場合は、一度チェックしてもらいましょう。