500万円の新薬より“6000歩”が有効──認知症専門医が最新研究を解説

500万円の新薬より“6000歩”が有効──認知症専門医が最新研究を解説

こんにちは。認知症専門医の長谷川嘉哉です。今日は、少し刺激的なタイトルでお話しします。
「500万円の新薬より“6000歩”が有効」──これ、決して誇張ではありません。

目次

1.レカネマブという“希望の薬”

2023年に日本でも承認された認知症治療薬「レカネマブ」は、アルツハイマー病の進行を遅らせると話題になりました。この薬は、脳内に溜まる「アミロイドβ」というタンパク質を減らし、認知機能の低下を遅らせる効果が報告されています。しかし、臨床試験の結果を見ると──効果は平均で約27%の進行遅延。数字に直すと、認知機能低下を約4カ月遅らせるという結果でした。それ自体は素晴らしい科学的成果ですが、治療費は年間約500万円。しかも、対象は「軽度のアルツハイマー型認知症」まで。中等度以降の方には使えません。さらに、脳浮腫や出血などの副作用も報告されており、慎重な経過観察が必要です。要するに、レカネマブは“希望の光”である一方、万能薬ではないのです。

2. 一方、“歩く”だけで認知症が7年遅れる

ここで驚くべきデータがあります。イギリスやアメリカの研究チームが行った大規模調査によると──
1日6000歩前後歩く人は、認知症の発症や進行を平均7年遅らせる可能性があるというのです。
具体的には:
• 1日3800歩で認知症リスクが25%低下
• 1日6300歩でリスクが57%低下
• 7000歩を超えると、心疾患やがんの予防効果も顕著
つまり、お金をかけずに、誰でもすぐ始められる“最強の治療”が歩行なのです。

3.なぜ歩くだけで脳が守られるのか

歩行には、脳にとって理想的な刺激が詰まっています。
• 血流が良くなり、脳への酸素と栄養供給が増える
• 海馬(記憶を司る部位)の萎縮を防ぐ
• ストレスホルモンが減少し、睡眠の質が向上
• 糖尿病・高血圧・肥満などの生活習慣病を予防し、結果的に脳を守る
つまり、「歩くこと」は脳を“動かす筋トレ”なのです。医療的には「有酸素運動が神経新生を促す」というエビデンスもあり、認知症の予防・進行抑制に確実な効果を持つことがわかっています。

4.薬と歩行の比較

(スマートフォンの方は横向きにしてご覧ください)

項目 薬(レカネマブ) 歩く(1日数千歩)
コスト 非常に高額(数百万円と言われるケース) ほぼ無料(靴・歩数計くらい)
リスク・副作用 脳浮腫・出血など重大な副作用あり 基本的に低リスク(膝・足関節の問題がある場合注意)
発効タイミング 早期介入が前提。進行した段階では効果減 誰でもすぐ始められる。予防的にも効果がある可能性大
効果の大きさ 認知・機能低下を“数ヶ月”から“1〜2年”程度遅らせる可能性あり 認知症リスクを数年単位(3〜7年形で遅らせたという報告)で遅らせる可能性あり
アクセシビリティ 医療機関・専門施設要・診断・モニタリング必要 日常動作として可能。誰でも取り組みやすい
補完し合えるか? はい。薬+生活習慣改善で相乗効果が期待される はい。薬を使うなら、歩行習慣必須と言っても過言ではない

結論として、レカネマブは「特定の患者にとって価値ある選択肢」ですが、
社会全体で見れば「歩く」という生活習慣こそが最大の予防薬です。


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5. 6000歩を習慣にするコツ

• 通勤や買い物を“歩き時間”に置き換える
• エレベーターより階段を選ぶ
• 夜の散歩を日課にする
• スマホの歩数アプリで“見える化”する
特別なジムも不要です。むしろ「毎日少しずつ続けること」が、レカネマブにも勝る“脳への投資”です。

7.医師として伝えたいメッセージ

薬を否定するつもりはありません。ただ、薬は「補助輪」であり、生活習慣こそが本体です。たとえば、もしあなたが高齢の親を心配しているなら、「検査を受けよう」よりも先に「一緒に歩こう」と声をかけてください。
1日30分の散歩が、将来の“介護7年分”を先延ばしするかもしれません。

8.まとめ

500万円の新薬が4カ月遅らせる認知機能低下を、歩くだけで7年遅らせる可能性がある。
この差は「お金」ではなく、「行動」で生まれます。
今日から、まずは4000歩。1カ月後に6000歩。そして1年後には、“歩くことが当たり前の人生”にしていきましょう。
頼むから、歩いてください。あなたの未来の脳は、今の“一歩”が決めます。

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