当院では、約1年前から歯科衛生士さんを採用。定期的に認知症患者さんの口腔ケアを行っています。従来から研究レベルでは、口腔ケアと全身疾患の関連は指摘されていました。しかし、認知症専門クリニックに本格的な歯科チェアを配置したケースは全国でも珍しいものです。お陰様で、患者さんの口腔内環境が改善されるだけでなく、認知症自体も改善するケースが続出しています。
そんな経験が「認知症専門医が教える! 脳の老化を止めたければ 歯を守りなさい!(かんき出版)」になり、多くの方に手を取っていただき増刷を重ねています。そんなこともあって、平成31年1月22日(水)にTBSラジオの「生活は踊る スーさんこれいいよ!」に出演させていただきました。今回の記事では、ラジオでは十分に伝えられなかった内容を、認知症専門医の長谷川嘉哉がご紹介します。
目次
1.歯の磨き方で、脳の老化は止められる?
番組は生放送でした。番組のパーソナリティは、ジェーン・スーさんとアナウンサーの小倉弘子さんでした。生放送直前にも関わらず、「どうして歯を磨くことで脳の老化が止められるのか?」を執拗に聞かれました。やはり、知的労働を生業にしている二人には関心が高いようでした。番組では3つの理由を紹介しました。
1-1.歯周病菌がアミロイドβに関与
歯周病菌の毒素がアルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドβを増やし、認知症の症状が悪化することが実験で証明されました。歯周病のマウスの脳内では、歯周病菌から出ている毒素や、免疫細胞が細菌を攻撃するために出すサイトカインが増殖。それによって、アミロイドβが作られる量が増えていたのです。
1-2.一噛み、3.5㎖の脳血流が増える 歯を残そう
歯は歯根膜というクッションのような器官にめりこんでおり、噛むと30ミクロン沈み込みます。その圧力で、歯根膜にある血管が圧縮され、ポンプのように血液を脳に送り込むのです。1回噛むごとに3.5mlの血液が脳に送り込まれるとされています。噛むことで脳への血管に圧力が加わり、血液が流入するのです。その結果、反射神経・記憶力・判断力・集中力が高まる効果があるのです。そのためには、歯周病を予防して歯を残すことがとても大事なのです。
1-3.脳全体の1/3が口腔内を支配する
歯を綺麗にすることは、脳を広範囲を刺激します。私の著書「おや指を刺激すると脳がたちまち若返りだす」では、表面積では1/10すら占めない指が、脳の中では1/3を占めることを指摘しました。実はそれ以上のことが口腔内ではいえるのです。表面積では、1/10以下の口腔内が、脳の中では、指以上に運動野と感覚野のそれぞれ半分以上を占めているのです。まさに、「口腔内を刺激すると脳がたちまち若返りだす」原理がおわかりいただけると思います。
2.脳の老化を防ぐ歯のケア方法
番組の中では、具体的な歯のケア方法をご紹介しました。
2-1.3分じゃ足りない!まずは5分の歯磨きを習慣に!
歯の汚れは、いずれ歯垢になります。「歯垢=プラーク」は、食べカスではなく歯に付着した細菌の塊です。白っぽくてネバネバしていますが、丁寧に歯磨きをすれば落とすことができます。しかし、歯と歯の間など歯ブラシが届きにくいところの歯垢は落としにくく、次第に唾液中のミネラルと結合して固まっていきます。これが「歯石」です。歯石は文字通り石のように硬いため、歯磨きでは落とすことができません。
プラークは食後4〜8時間ほどで生成され、そこから24時間ほどで歯石になると言われているので、歯磨きは回数より、1日に1回は徹底して歯の汚れを落とすことが大事です。そのためには、口の中のプラークを落とすには歯磨きには10〜15分必要です。とはいえ、10分〜15分を習慣にするのは困難ですので、まず続けて5分間、しっかり磨いて下さい。
2-2.唾液で洗い流してしまう「舌回し」
唾液は非常に強力な浄化液です。舌回しを行い、唾液をたくさん分泌することで、口の中の細菌を減らして、歯を守ることができます。具体的には、唇を閉じたまま、舌先で「歯の外側と唇の内側の間」を大きくなぞるように、ぐるりと1周させます。2〜3秒で1周する速さが理想。めいっぱい舌先を伸ばして、ぐるりと1周させる。これを右回り、左回り、それぞれ20回ずつ。これを朝、昼、晩3回行うと効果的です。
番組中も、二人のパーソナリティが唾液の分泌が増えることに驚かれていました。
2-3.歯間ブラシを使わないのははトイレのあとに拭かないのと同じです
35歳を過ぎると歯周病発症リスクが高くなります。歯ブラシではどんなに丁寧に磨いてもプラークを60%程度しか落とせません。そのため、35歳以上は歯間ブラシが必須です。ぜひ、歯間ブラシを習慣にしましょう。
実は、人によってはサイズがあることをご存じない方がいらっしゃいます。サイズは、SSSSからLまでの幅があります。初めて使用する場合は、小さいサイズから試してみてください。
ある歯医者さんは、「歯医者では、歯間ブラシを使わないのは、お風呂に入ってシャンプーしないのと同じこと」と言われていました。私は、あえて、「歯間ブラシを使わないのはトイレのあとに拭かないのと同じです」と言わせていただきました。結構、インパクトがあったようです。
3.番組で紹介できなかった両手磨き
番組では、二人のパーソナリティとの話が盛り上がりすぎたため、予定していた話ができませんでした。それは、私自身も実践している「両手での歯みがき」です。まず、利き手で歯ブラシを握って全ての歯を磨き、逆の手でもう1度全ての歯を磨きます。このことで、歯ブラシに異なる角度がつくため、磨き残しが少なくなります。さらに、利き手と逆の手を使うことで、脳に適度な負担がかかり、まさに脳トレになるのです。
4.ラジオ出演による影響
ラジオ出演で以下の気づきがありました。
4-1.意識の差
パーソナリティの2人でも意識に差がありました。ジェーン・スーさんは歯間ブラシを使いこなしており、一方で小倉弘子さんは歯間ブラシの重要性を知られませんでした。
私の周囲でも、1日1回しか歯みがきをしない人から、1日3回3種類の歯ブラシを使いこなしている方までいます。こんな違いが、認知症になるか否かにまでつながるのかもしれません。
4-2.ラジオの影響
一時期ラジオの影響力が低下した時代がありました。しかし、最近ではリスナーがTwitterを介して情報を広げるため、番組の内容が広く拡散しました。お陰様で多くの方に、歯の重要性が広まったようです。
4-3.さらなるマスコミからの依頼
おかげさまで、平成31年2月2日には、地元CBCラジオに生出演予定です。さらに3月2日にはTBSテレビに出演予定です。より多くの方に歯の重要性が伝われば嬉しいです。
5.まとめ
- TBSラジオの「生活は踊る スーさんこれいいよ!」に出演させていただきました。
- 知的労働に携わる方は、脳の機能を維持することにはとても関心を持たれます。
- 歯への意識には、かなり個人差があるようです。