我々、医師にとっては衝撃的な事件が起こりました。有名私立医科大学が組織ぐるみで裏口入学を行なっていた疑いが深まっています。
さらに、以下のような報道が続いています。
文部科学省の私立大学支援事業をめぐる汚職事件で、前科学技術・学術政策局長の佐野太(ふとし)容疑者(58)=受託収賄(じゅたくしゅうわい)容疑で逮捕=の息子を不正に合格させたとされる東京医科大学(東京都新宿区)が、数年前まで毎年10人前後の受験生を不正に合格させていた疑いがあることが14日、関係者への取材で分かった。東京地検特捜部は不正合格者のリストを入手しており、裏口入学の常態化が事件の背景にあるとみて調べている。出典:産経新聞
私は以前から「私立大学の医学部についてはなにかあるのでは?」と疑問に思っていました。それは、「補欠合格制度」についてです。現在、私立大学の医学部において補欠合格の順位を公表していない大学がたくさんあります。「何やら不正の温床になるのでは?」と疑問を持っていました。今回の記事では、多くの方に補欠合格の「謎」を知っていただき、一つでも多くの大学が補欠合格の順位を公表するようになることを希望します。
目次
1.医学部すべて難易度が上がっている理由
医学部を目指す受験生が急増しており、それに伴い医学部の難易度が上がっています。私が国公立の医学部に入った35年前などは、私立の医学部の中には、偏差値が50以下の大学がいくつもありました。現在では中部地区で有名となった難関私立大学の医学部も、当時は英語の試験において「辞書持ち込み可」というふざけた入試をしていたほどです。
ならば、医学部受験はなぜここまで過熱し、難易度が高まっているのでしょうか? まず、理由として挙がるのが、医師になれば、食いっぱぐれがないことです。資格の中でも弁護士や税理士でさえ将来が不安な時代、その気になれば70歳になっても働くことができるし、激務とはいえ勤務医であっても平均年収は1,000万円を超えてきます。それに加えて、2008年以降、有名私立大の医学部が相次いで数百万円単位で学費を値下げし、受験しやすくなっているのです。
その結果、難易度が高い大学は昔も今も変わらず難しいいのですが、難易度が低かった医学部ほど、難易度上昇は激しくなっています。1985年と2017年と比較してみると、順天堂大学が50.0から70.0、関西医科大学が55.0から67.5、帝京大学が47.5から65.0、川崎医科大学が47.5から65.0、聖マリアンナ医科大学が47.5から62.5と軒並み急上昇しているのです。(Kei-Net/河合塾より)
このように、現在、医学部受験において「誰でも入れる」というところは一つもなく、「滑り止め」という概念もないのです。(人の命を預かる医師になるのですから当たり前ですが・・)
2.私立大医学部合格の実態
一部の難関私立大学は別として、通常は国公立の医学部が上位にあり、その下に中堅以下の私立大学の医学部がランクされます。合格発表は、私立大学から始まり、その後に国公立の発表があります。そうすると以下のようなことが起こります。
2-1.正規合格者は入学しないことが多い
国公立大学を志望校とする学生も、滑り止めに私立大学を受けます。通常私立大学において、定員100名前後のところに、20倍以上の志願者が受験します。彼らは、学力も高いため、正規で合格します。しかし、本命の国公立が合格すれば私立大学の合格は辞退します。倍率20倍以上の私立に合格するような正規合格者がそのまま入学するケースは少ないのです。
例えば、2017年度の某私立医科大学を例に取り上げてみましょう。入学定員は110名ですが、正規合格者は入学定員の50%増の165名でした。正規合格者の中から他の大学に進学するために入学を辞退するであろう数を見込んで多めに正規合格としているのです。正規合格発表と同時に補欠合格者も発表していますが、こちらは218名もいます。そのうち繰り上げ合格者数は102名。補欠合格であっても繰り上げ合格とならなかった補欠合格者は116名もいたのです。
2-2.補欠合格が多数を占める
165名が正規合格しているにもかかわらずさらに102名を繰り上げ合格としたということは、正規合格した165名のうちのかなりの受験生が入学を辞退し、さらに繰り上げ合格者の中にも入学を辞退した受験生がいる、ということになります。繰り返しになりますが、定員は110名です。
ほとんどの正規合格者が辞退するため、私立大学は正規合格者が辞退した分を見込み、多くの数を補欠として合格させるのです。そして、実際に入学する多くの学生は補欠合格者であることが多いのです。
3.補欠合格の種類
補欠合格には、以下の大きく分けて2つの方式があります。
3-1.補欠合格者の中での自分の順位が分かる学校
正規合格者の発表と同時に、補欠合格者が発表されます。補欠合格者には、順位がわかるようになっています。正規合格者の欠員に応じて、順位に従って正規合格扱いに繰り上げられます。補欠合格の段階で順位がわかるため、ある程度期待が持てるのか、持てないのかもわかります。また通常、大学のホームページに現在の補欠合格の繰り上げ状況が開示されているため、受験生のストレスは相当軽減されます。何よりも大学の公明正大さに好感がもてるのです。
3-2.補欠合格者の中の自分の順位がわからない学校
3-1と同じように、正規合格者の発表と同時に、補欠合格者が発表されます。しかし、補欠合格者には、そのなかでの順位がわかりません。自分が補欠合格の中で上位なのか、下位なのかもわからないため期待を持って良いのか否かもわかりません。そのため、受験生のストレスは相当なものです。いつ大学から電話がかかってくるかわかりません。そのうえ、補欠合格の中での繰り上げについては本当に公平であるのか疑念も持ち上がってきます。そのような学校では「補欠合格さえすれば、あとは何とかなる」という思われても仕方ありません。
4.各私立大医学部の補欠合格分類
現在、私立大学の補欠合格の順位の公表は以下のように分類されます。もちろん、今話題の東京医科大学は補欠合格の順位は公表されていません。(2018年現在)
4-1.補欠合格に順位が公表されている大学
独協医科大学、国際医療福祉大学、杏林大学、東京慈恵会医科大学、東京女子医科大学、日本医科大学、聖マリアンナ医科大学、東海大学、愛知医科大学、藤田保健衛生大学、近畿大学、兵庫医科大学、久留米大学、福岡大学
4-2.補欠合格の順位が公表されていない大学
岩手医科大学、東北医科薬科大学、埼玉医科大学、慶応大学、順天堂大学、昭和大学、帝京大学、東京医科大学、東邦大学、日本大学、北里大学、金沢医科大学、大阪医科大学、関西医科大学、川崎医科大学
5.補欠合格の情報開示について
私自身、子供が私立医学部を受験しました。補欠の順位がわからない大学の場合、本人および家族の精神的負担は相当のものです。実際、今回の東京医大の不正合格においても、「正規合格を希望するか、補欠の繰り上げを希望するか」を選択することができたそうです。多くの健全な受験生が、精神的負担に苦しんでいる裏でのそのような不正は、やるせない気持ちになります。受験自体が公正であるという証明のため、早急にすべての大学の補欠合格に順位を公表してもらいたいものです。もちろん、本来不合格であっても点数を上乗せされてしまえば、どうしようもありませんが…。
6.裏口入学して医師になれる時代は終わった
世の中には、点数の上乗せで補欠合格にして、順位を公表しないことで繰り上げ合格にすることで入学する生徒もいるのかもしれません。しかし幸いなことに現在の医学部は、甘くはありません。我が家の次女も医学部生です。その日々の学習量は半端ありません。我々が見ても驚くほどの内容と量です。次女曰く、「受験生の時より勉強している」とのことです。現在の医学部は入学さえすれば何とかなる時代ではありません。やはり、自身の実力で合格を勝ち取らなければ、入学後に進級すらできず医師にはなれないのです。合格さえすれば…という考え方の者はそこを肝に銘じるべきです。
7.まとめ
- 世の中の医学部への進学希望者が増える中、私立医大である東京医大で不正が起きました。
- 補欠合格の順位が公表されていない大学では、不正が行われている可能性が否定できません。
- 受験の公平性を保つためにも、一つでも多くの大学が補欠合格の順位を公表するようことを希望します。