手のひらがしびれる!放置できない「手根管症候群」の判別について専門医が解説

手のひらがしびれる!放置できない「手根管症候群」の判別について専門医が解説

何となく手のひらがしびれる方は、多いのではないでしょうか? 生活に不自由でないため放置している方も、医療機関に受診したのちに「様子を見てください」と言われた方もいると思います。実は、その中には「手根管症候群」という病気が隠れていることがあります。医師の中には、この病気を認識していない方がたくさんいますが、脳神経内科医の私は以前から手根管症候群の診断が得意でした。

手根管症候群のなかには、進行してしまって運動障害を起こす方までいらっしゃいます。そうならないためにもはやめの診断が必要です。「様子見」で放置をしたり痛いのを我慢していて、悪化してしまうと、生活に不自由を生じるようにります。今回の記事では、専門医の長谷川嘉哉が、この手根管症候群について解説します。

1.手根管症候群とは?

手根管症候群ですから、「手根管」に原因が生じているのですが、手根管とは聞きなれない言葉です。

1-1.手首の中にある手根管で発生

「手根管」とは手のひらの付け根にある手首の骨と靭帯に囲まれたトンネルで、9本の「腱」と「正中神経」という神経が通っています。何らかの原因で腱を覆う膜などが炎症を起こして腫れると「正中神経」が圧迫されます。すると正中神経が関わっている小指以外の指にしびれが起こります。

 Carpal tunnel syndrome
正中神経は、小指には通っていません

1-2.女性に多い

教科書的には、「40歳以上の女性に比較的多く発症」とされています。しかし、実際はあまり年齢は関係ないようです。外来では、30歳代から80歳代まで患者さんがいらっしゃいます。あくまで医師が手根管症候群を知っているか否かになります。ただし、女性に多いことは事実で、男性の患者さんは1割もいらっしゃいません。

1-3.他の病気との関連は

手根管症候群は、糖尿病、慢性関節リウマチ、甲状腺機能低下症、さらには人工透析を受けている患者さんに発病しやすいと言われています。そのため、手根管症候群の患者さんを診た場合、それらの疾患の可能性もありえますから、あわせて精査します。しかし、半分以上は手根管症候群の単独で発病されています。

2.診断のコツは問診

Physical therapist checks the patient wrist by pressing the wrist bone in clinic room.
専門医は、診察である程度他の症状や疾患との鑑別がつきます

手根管症候群の診断にはコツがあります。

2-1.仕事歴

私が学生時代は、手根管症候群を発病しやすい職業として、ピアニストやタイピストが多いと習ったものです。現在、これらの職業のかたに臨床の現場で会うことはまれです。職業にこだわることなく、仕事や日常で手首に負担がかかるようなことがないかを確認することが大事です。

私が働く岐阜県東濃地方は、陶器関係の仕事の方がたくさんいます。その中で、検品の際に、陶器を両手で持って裏側を確認する仕事があります。その職場では、多くの人が手根管症候群に罹患していました。また給食センターで、大鍋の中の食材を、大きな棒でかき回す仕事で発病された方もいらっしゃいました。

いずれも、手首に負担がかかる仕事である、という点で共通しています。

2-2.緩徐に両側性に発症

基本的には、長期にわたって手首に負担をかけることで手根管症候群は発病します。そのため、発症は緩徐な(だんだん、ゆっくりとした)進行性であり、両手に症状が現れます。ただし、両側に症状がありますが、多少の左右差を認めることが多いです。

2-3.しびれの部位

しびれの部位が特徴があります。多くの患者さんは、「手のひら全体がしびれる」と訴えます。それに対して、より詳細に伺うと、「小指を除いた4本の指と手のひら」がしびれているようです。

3.診断方法

外来では、以下の方法で診断をします。

3-1.ティネルサイン

患者さんの手首を、ハンマーで軽く叩きます。そうすると、痛みが指先に広がります。これを、ティネルサインと言います。軽く叩くのですが、患者さんによっては、ビックリして手を引っ込める方もいらっしゃいます。

Reception at the doctor-neuropathologist. Medical examination
脳神経内科医は、ハンマーでいろいろなことを知ることができます

3-2.ファレンテスト

患者さんに、両手の手首を曲げてもらって、手の甲同士を合わせて保持します。1分間以内で、しびれや痛みやしびれが増強する場合を、ファレンテスト陽性と診断します。

3-3.筋委縮・筋力低下のテスト

ティネルサインとファレンテストで手根管症候群は殆ど診断がつきます。症状が進行してくると母指球筋(=親指の付根と手首の間の筋肉)が委縮してきます。母指球筋が委縮してくると物をつまみにくくなります。具体的には、親指と人差し指で、奇麗な〇を作ることができなくなります。

Smiling young woman making OK sign
症状が進行してくるとOKサインを作ることが難しくなります

3-4.伝導速度検査

大きな病院では、確定診断として手根管をはさんだ正中神経の電気の伝導速度を測定します。手根管のレベルで、伝導速度が遅くなることで手根管症候群が診断されます。

4.変形性頚椎症の合併に注意

小指にもしびれがあったとしても、手根管症候群は否定できません。例えば、50歳を超えた患者さんが、変形性頚椎症を発症している場合です。誰しも、60歳を超えると100%頚椎の変形は起こってきます。頚椎の5番と6番の間の変形が強ければ親指から中指、6番7番の変形が強ければ中指から小指にしびれが起こります。

つまり、ある程度の年齢を超えた患者さんは、手根管症候群と変形性頚椎症が合併していることが多いのです。

5.治療は

手根管症候群に対しては以下の治療を行います。

5-1.安静

最も効果的なのは、手首の負担を減らすことです。実際、休日には手のしびれが楽になる方がたくさんいらっしゃいます。しかし、仕事を変えたり、止めることができない方が多いものです。

5-2.内服治療

仕事を継続しなければいけない場合は、消炎鎮痛剤やビタミンB12を服薬したり、手首に湿布を貼ったりします。ビタミンB12の薬は多くの医師は、「効果のない薬」と認識しています。しかし、ビタミンB12は神経が障害された際に必要なビタミンです。手根管症候群のように正中神経が圧迫により障害されている場合は、思いのほか効果があるので服薬を勧めています。

5-3.局所注射

内服治療で効果がない場合や痛みが出現してきた場合は、手根管内にステロイド注射を打ちます。確かに効果はあるのですが、その効果が継続しません。何度も注射をする必要が出てきます。

6.手術を薦めるのは?

内服治療や局所注射でも効果がない場合は、手術が必要になります。手術の方法は、手のひらを3㎝程切開して、肥厚した横手根靭帯を切って手根管を開放することで神経の圧迫をとります。局所麻酔下で比較的簡単に行えます。最近では、内視鏡で手術をする施設もあります。

また、夜間にしびれや痛みで目が覚めてしまうほど強い場合や母指球の萎縮が少しでも認められた場合は、手術をお薦めしています。特に、母指球の筋肉はいったん委縮してしまうと手術をしても回復しないので、物がつまみにくくなる前に手術を勧めます。

私の外来では、おおよそ20名の手根管症候群の診断をすれば1名程度は手術をする程度の割合になっています。

7.何科を受診?

手のしびれが出現した場合は、多くの疾患を鑑別するためにまずは脳神経内科への受診がお薦めです。そこで手根管症候群の診断がつけば、整形外科が紹介されます。その際に、できれば整形外科の中でも手を専門にする「手の外科」がお薦めです。

私の近くの県立多治見病院は整形外科だけで8名の医師がいます。これぐらいの規模の整形外科では、手が得意な外科の医師がいるものです。

手のしびれについては以下の記事も参考になさってください。

8.まとめ

  • 手を使う仕事をしている方で、手のひらのしびれが出現したら手根管症候群が疑われます。
  • しびれを専門とする脳神経内科で診断後、整形外科を紹介してもらいましょう。
  • 母指球筋の萎縮がみられたり、夜間にしびれで覚醒する場合は、手術をお薦めします。
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