脳神経内科医が教える起立性低血圧(たちくらみ、脳貧血)のすべて

脳神経内科医が教える起立性低血圧(たちくらみ、脳貧血)のすべて

昔から朝礼の最中に倒れたり、街中で突然倒れる人がいるものです。幸いすぐに意識も戻り、周囲もホッとするものです。そんな時「立ちくらみ?」、「脳貧血?」などとの言葉が飛び交います。倒れなくても、日常生活で立ち上がった際に「ふわー」とすることはあるものです。それらは医学的には起立性低血圧であることが大多数です。

但し、すべてが起立性低血圧ではありません。しかるべき診察と、除外診断をおこなってはじめて診断されるのです。今回の記事では、起立性低血圧について正しい診断方法と対策について脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が紹介します。

1.起立性低血圧とは?

起立性低血圧は、「脳貧血」「立ちくらみ」とも呼ばれます。「脳貧血」とも呼ばれますが、血液に何らかの異常のある「貧血」とは別のもので、血圧の低下によります。

起き上がったり立ち上がったりして、頭部の位置が急に上に移動したときに、ふらついたり、気が遠くなったり、めまいを起こします。また、集会などで長時間立っていて立ちくらみを起こすケースもあります。

一般的には、主に20代~30代の若い女性に多く見られる症状ですが、年齢とともに増加し、高齢者でも約2割の人に認められています。転倒事故の主な原因の一つとも言われており、高齢者は特に注意が必要です。

Fainting is possible if exercising without sufficient carbohydrates intake
急に立ち上がろうとするときに起こることが多いです

2.起立性低血圧のメカニズム

起立性低血圧の原因は、座った姿勢、あるいは横になっていた状態から立ち上がったときなどに、重力の関係で、体の中で一番高い部分にあたる脳に十分な血液が行き届かなくなり、一時的に脳内の酸素が不足して陥る状態です。

この時、健常な人であれば、血の流れが急激に下へと降りてくることが各神経に伝えられ、立ち上がったときに心拍数を増やしたり、下半身の血管を収縮させて血液の流れを上に押し上げようとすることで、血圧を安定させようとする機能が働きます。しかし、立ちくらみを起こしやすい人は、何らかの原因でこの伝達機能が正常に働かなくなってしまっていると考えられます。

このメカニズムにより、倒れることで頭の位置が下がると、1分もたたないうちに意識は回復します。逆に、中途半端に頭の位置を維持した状態で周囲が支えたり、すぐ起こそうとすると回復が遅れます。抱きかかえてゆっくりと頭の位置が低くなるように寝かせてあげましょう。

Human Circulatory System Anatomy
突発的な低血圧によって脳への血液流入が低下し、意識喪失を起こします

3.診断方法

起立性低血圧は以下のように診断します。

3-1.症状の確認

起立性低血圧の場合は、意識は数分以内に回復します。意識障害が10分以上も継続する場合は脳血管障害等も疑います。意識喪失の際に、けいれん発作や四肢の硬直が見られた場合は、てんかん発作も疑います。脈をとり、脈が弱い場合や乱れている場合は不整脈や虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症等)も疑います。

Measuring of pulse on wrist by the doctor.
横になっている状態で、脈拍が感じられ、リズムが規則的であれば、心筋梗塞等の可能性は少なくなります

3-2.貧血の除外診断

起立性低血圧を疑って採血をしたところ、鉄欠乏性貧血であることは結構あります。通常、貧血になると「あかんべーをしたときにまぶたの裏側の色が白っぽくなる」と思われていますが、これは相当貧血が進行した場合です。やはり鉄欠乏性貧血の除外診断には採血が必須です。

3-3.臥位と立位での血圧測定

外来では、仰向け寝で血圧を測定後、立位をとってもらい3分間後に血圧を測定します。下記のいずれかがみられたときに起立性低血圧と診断します。

  • 立位後3分以内に、収縮期血圧が20mmHg以上低下した場合
  • 収縮期血圧の絶対値が90mmHg未満に低下した場合
  • 拡張期血圧が10mmHg以上の低下を起こした場合

4.原因疾患・合併疾患

起立性低血圧の多くは明確な原因はありません。ときに以下の疾患で見られれることもあるので注意が必要です。

4-1.パーキンソン病およびパーキンソン類縁疾患

パーキンソン病並びにその範疇に入る類縁疾患は進行すると、起立性低血圧が重篤になります。私の患者さんでは、横になっているときの収縮血圧が180㎜Hgで、立位後収縮血圧が80㎜Hgまで低下することもあります。こうなると、頻回に意識消失を繰り返します。したがって臥位の収縮血圧が180㎜Hgであっても、降圧剤は絶対に使用しません。

4-2.糖尿病

糖尿病の合併症として神経障害は最も頻度の多いものです。神経障害では自律神経の障害も発生します。そうなると、起立性低血圧を引きおこしやすくなるのです。糖尿病の神経障害については、以下の記事も参考になさってください。


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https://brain-gr.com/tokinaika_clinic/blog/diabetes/diabetic-neuropathy/

4-3.薬の副作用

降圧剤、向精神薬、心臓病の薬などを服用している場合にも、その副作用として、めまいや立ちくらみが起こることがあります。

5.起立性低血圧の治療

起立性低血圧では、薬物療法が選択されることもあります。

5-1.フルドロコルチゾン(商品名:フロリネフ)

起立性低血圧の症状が、生活の質が著しく低下するほど強い場合は、フルドロコルチゾンを検討します。この薬は、ステロイドホルモンの一種です。とくに塩類代謝作用が強く、体のナトリウムを増やし血圧を上げる性質があります。そのため、効きすぎると高ナトリウム血症になり、高血圧やむくみを生じます。このような場合は、薬の量を減らします。

5-2.ミトドリン(商品名:メトリジン)、アメジニウム(商品名:リズミック)

血管のα1受容体を刺激して末梢血管を収縮し、血圧を上昇させることにより低血圧を改善します。他に、本態性低血圧の治療にも用いられます

5-3.降圧薬の減量・中止

高血圧で降圧剤による治療を受けている薬により起立性低血圧を来たすこともあります。いきなり降圧薬を中止することは危険ですから、家庭でも血圧を測定して、下がりすぎていれば医師に相談してみてください。

6.予防

起立性低血圧では、生活習慣の見直しも必要です。

6-1.規則正しい生活を送る

不規則な生活は自律神経が乱れる原因となり、立ちくらみを引き起こします。1日3回の食事、就寝・起床は毎日同じ時間に行い、生活リズムを守りましょう。

6-2.急な動きはしない

急に体勢を変えるような動きは控えましょう。立ち上がるときも、なるべくゆっくりと落ち着いた動作を心がけましょう。特に起床時は注意が必要です。朝、起き上がるときは、まずは足だけをベッドの外に降ろして1分程度待ってから起き上がるようにしましょう。そのため高齢者でも布団よりもベッドがお勧めです。

6-3.血圧を上げる

若い方であれば、血圧を上げるための塩分摂取を意識しましょう。ただし、高血圧の方は病気の悪化に繋がるため厳禁です。水分が不足すると、脱水で血液量が減少します。水分補給はこまめにしっかりと行いましょう。

6-4.下半身から血液が戻りやすい体を作る

下半身の血液を上半身へと戻す筋力をつけるために、定期的に運動することを心がけましょう。きつめのタイツを履いて、下肢の血管や筋肉を適度に締め付けると、上半身に血液が戻りやすくなり、立ちくらみ予防に効果的です。

6-5.入浴時は特に注意

湯船から立ち上がるときは、へりなどを持ってゆっくりと起き上がるようにしましょう。熱いお湯に浸かると血管が拡張し血圧が下がりやすい状態になるため、比較的ぬるめのお湯にゆっくり浸かるようにしましょう。また、肩まで浸かると心臓が圧迫されて血圧低下につながるので、みぞおちまで浸かる半身浴がおすすめです。

7.まとめ

  • 集会などで倒れる方の大部分は起立性です。
  • ただし、意識障害が長引いたり、けいれんを伴ったり、脈の不整が認める場合は、他の疾患も疑われます。
  • 起立性低血圧に大しては薬物治療ならびに生活習慣の改善が大事です。
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