先日、知り合いの方が、夜間寝ていると、足に異常な感覚が出て眠れないと言われていました。詳細に伺うと、誰かが常に足を触っているような「もぞもぞした感覚」が、一晩中続いて眠れないこともあるそうです。本人は、病気とは思っていないようでしたが、実はこれはれっきとした病気です。私が専門とする脳神経内科が専門とする、「むずむず脚症候群」、別名は「レストレスレッグス症候群」という病気です。診断のポイント、受診するか否か、治療法について脳神経内科専門医長谷川嘉哉が、解説します。
目次
1.むずむず脚症候群とは?
「むずむず脚症候群」は、正式名称は、レストレスレッグス症候群((restless legs syndrome:RLS)といいます。両足に不快な感覚が生じる病気です。夜、布団に入ったときや、電車や飛行機などでじっと座っているときに脚に不快感が起こり、脚を動かすと和らぐといった特徴があります。ちなみに、「レストレス(restless)」とは、「そわそわした」、「絶え間なく」という意味があります。
なお、「むずむず脚症候群」の患者さんは約200~400万人ほどで、このうち、治療が必要な方は70万人ほどと考えられています。男女比は、女性が男性の1.5倍。年齢も上がるほど、罹患率が高くなります。
2.多彩な症状で睡眠障害へ
むずむず脚症候群には4つの特徴的な自覚症状があります。
2-1.不快な感覚のために脚を動かしたくなる
不快な感覚は、表在性ではなく、深部に感じます。症状は、両足に出ることが多いのですが、片足にしか出ない患者さんもいらっしゃいます。症状が進行すると、脚以外にも腰から背中、腕、全身に広がることもあります。
2-2.安静時に症状が出現しやすい
臥床したり、安静に座ってから数分から1時間以内に症状が出てくることが多いです。その結果、眠れなかったり、仕事や学業に集中できなくなります。また、長期間の交通機関による移動も苦痛になってしまいます。
2-3.脚を動かすと、症状が軽くなる
安静にしていると症状が出現するのですが、身体のどこかを動かしていれば症状が軽くなります。人によっては、脚をたたいたり、さすったりして症状に対処している方もいらっしゃいます。しかし、再び安静にすると症状が再発してしまうのです。
2-4.夕方から夜に症状が強くなる
1日のなかで、時間帯によって症状が変化します。多くの方は、夕方から夜になると症状が出現して、症状も強くなります。ただし、進行すると、日中に症状が現れることもあります。
3.原因
「むずむず脚症候群」の原因は、大きく以下の2つに分けられます。
- 特発性:原因が明らかでないもの
- 二次性:鉄欠乏性貧血、末期腎不全、糖尿病、リウマチ、パーキンソン病などの疾患や妊娠が原因でおこるもの
4.治療
二次性の場合は、原因疾患のコントロールが中心となります。原因がはっきりしない「むずむず脚症候群」に対しては、以下のように治療を行います。
4-1.頻度が大事
まずは、治療するか否かの判断が大事です。数か月に1回程度の発作に対しては、服薬をためらう患者さんも多いものです。そのため、患者数が約200~400万人ほどでも、治療をしている方は70万人ほどとなっているのです。一般的には、週に1回以上の頻度になると、治療を希望される方が多いです。
4-2.ドーパミン受容体作動薬
第一選択となる治療薬です。「むずむず脚症候群」の原因は神経伝達物質であるドーパミンの働きが不十分で、体から一番遠く離れた下肢からの情報が脳に届きにくい状態となっていると考えられています。そのため、ドーパミンの作用を増強する目的でパーキンソン病の治療薬を使用します。具体的には、ドーパミン受容体作動薬として飲み薬では、プラミペキソール塩酸塩水和物(商品名:ビシフロール)、張り薬としてロチゴチン(商品名:ニュープロパッチ)を使います。
4-3.抗てんかん薬
ドーパミン受容体作動薬が使えない場合、効果が不十分な場合に、抗てんかん薬を使います。神経の興奮を抑え、症状を抑えます。副作用として、眠気、倦怠感がありますが、夕食後や眠前に服用すれば問題ありません。ただし、車の運転には注意が必要です。具体的にはクロナゼパム(商品名:リボトリール、ランドセン)が使われていましたが、ガバペンチン(商品名:レグナイト)が、2012年1月から「むずむず脚症候群」の治療薬として使用できるようになりました。
5.生活習慣の改善も
服薬治療以前に、生活習慣の改善も有効です。
5-1.カフェインの制限
コーヒー、紅茶、チョコレートなどのカフェインを含んだ食品を摂取すると「むずむず脚症候群」が誘発されます。そのため、カフェインの摂取を控えることが予防につながります。
5-2.ストレッチ
睡眠前に軽い運動をすることや、ストレッチをすることも症状を緩和させます。
5-3.症状日記
「むずむず脚症候群」を引き起こす生活習慣には個人差もあります。そこで、食事、生活習慣、運動による症状の変化を日記に記録しましょう。そうすることで、増悪因子、改善因子を見つけ出し、対処方法を実行することはお薦めです。
6.まとめ
- 睡眠中の、両脚の異常感覚は、むずむず脚症候群の可能性があります。
- 不眠の原因になったり、週1回以上の頻度になった場合は、治療も必要です。
- 治療は、ドーパミンの働きを補充したり、抗てんかん薬を使用します。