片頭痛のない世界へようこそ・「エムガルティ」について専門医が解説

2021年4月に、片頭痛の画期的な注射薬「エムガルティ」が承認されました。当院は、脳神経内科を専門としているため、かなり重症の片頭痛患者さんが集まってきます。そんな患者さんに注射薬「エムガルティ」を使用したところ、劇的な効果を認めました。

ただし著効するからこそ正確な診断と使用方法が重要となります。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、実際に、注射薬「エムガルティ」を使用した経験から、適切な患者さんへの、適切に使用方法について解説します。

１．注射薬「エムガルティ」の効果は

私の経験した患者さんは、いずれも１か月に７日以上の片頭痛の発作を起こしています。その患者さんに注射薬「エムガルティ」を注射すると、ほぼ全例に効果が見られ、片頭痛発作がゼロになった方までいらっしゃいました。臨床試験でも、6カ月間の使用で片頭痛の日数が減った人の割合は、50％減が59％、75％減が33％、100%減が11％です。個人的な感想では、臨床試験以上の効果を感じられました。患者さんの「頭痛のない世界って素晴らしいですね」という言葉はとても嬉しいものでした。

2．本当の片頭痛でないと効かない

注射薬「エムガルティ」に使用に際しては以下の注意が必要です。

２－１．本当の片頭痛にしか効かない

人によっては、「片頭痛があるけども市販薬で何とかなっている」という患者さんもいらっしゃいます。しかし、市販薬が効くような頭痛は、片頭痛ではありません。

２－２，本当の片頭痛は、仕事・勉強はできないほど

患者さん自身が「片頭痛」と言われても、実際に診断すると本当の片頭痛は1割程度です。少なくとも本当の片頭痛であれば、仕事をすることはできませんし、勉強も手につきません。

２－３，注射薬「エムガルティ」の診断的治療

注射薬「エムガルティ」は片頭痛発作時の血管拡張や炎症の原因であるCGRP（カルシトニン遺伝子関連ペプチド）の働きをブロックします。まさに根本原因に対して効果がありますので、理論上片頭痛であれば、必ず効果があります。したがって「エムガルティ」の効果がない場合は、片頭痛でないと診断できてしまうのです。

３．「頭痛のない世界」はお金に換えられない

「エムガルティ」の最大の問題は値段です。エムガルティは最初の月に2本、2ヶ月目から1ヶ月に1本注射をします。モノクローナル抗体製剤であるため薬価も高くなります。３割負担でも、初月は27099円、2か月目以降は毎月13550円の費用がかかります。（初診、再診料等は別です）

ただし「エムガルティ」の効果がでれば、飲み薬がほとんど不要になるため薬代がかからなくなります。しかし値段以上に「頭痛のない世界」が訪れることが何よりなのです。

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４．「エムガルティ」は在宅自己注射も可能

片頭痛の特効薬である「エムガルティ」は注射薬であるため、毎月受診いただき外来で注射をする必要がありました。しかし、2022年4月に「エムガルティ」は在宅自己注射の対象薬剤となりました。そのため、医師が妥当と判断した患者さんにおいては、2022 年 5 月 1 日より患者さんによる在宅での自己注射が可能となります。これにより患者さんの通院負担が軽減されます。ただし自己注射には抵抗がある方が多いのか、希望される患者さんはいらっしゃいませんが・・。