「薬の飲み忘れ」について対処されていますか? 「たまに思い出したときに飲めばいい」と考えている方も少なくありません。
実は認知症専門外来の初診で必ずお伺いする質問があります。「服薬管理ができていますか?」です。内科医として服薬管理ができない患者さんへの薬の処方はとても危険です。
服薬管理ができないことは、認知症の症状の一つでもあります。単純な飲み忘れなのか、慢性的に認知症で服薬管理が自分でできていないのかを見極める必要があります。
残念ながら、患者さん、家族そして専門外の医師でさえ服薬管理を軽く考えている傾向があります。処方を開始してから数か月しか経っていないのに、「先生、一か月分薬が余っているので今日は処方はいりません。」と簡単におっしゃいます。医師、家族ともここを見逃してはいけません。
ではどうすれば? 実は服薬管理を徹底するための工夫やアイデアは結構あるものです。
今回の記事では月に1,000名の認知症患者さんを診察している認知症専門医である長谷川が、認知症の早期発見のために重要な「服薬管理」についてご紹介します。
目次
1.服薬管理とは
服薬管理の定義は「薬の在庫の確認・服薬指導・薬の調整をすること」です。ただし、服薬管理という表現を使うと医療行為・医療行為に類似するサービスとなるため、介護職では行うことが出来ません。
介護職に出来るのは、薬の準備から声かけ・確認・片付けまでをする「服薬介助」です。あくまでも、薬の飲み忘れがないかどうか確認する援助に限られます。ただし、家族が服薬管理をすることは問題ありません。
この記事では家族の方の服薬管理や、介護職の方の服薬介助まで含めた「薬をきちんと飲ませる方法」について解説します。
2.なぜ服薬管理が難しいのか
服薬管理が難しいことにはいろいろな理由があります。
2−1.そもそも薬が多い
高齢者は、多くの薬を飲まれている方が多いようです。これにはいくつかの原因があります。年を取った医師の中には、「薬をたくさん出したほうが儲かる」時代のクセなのか、同じ薬効の薬を何種類も出されることがあるようです。また、若い先生でも患者さんの訴えを聞いて説明するよりも、「薬を追加しておきます」の一言で終わらせる傾向もあるようです。
いずれにせよ、加齢とともに飲まなければいけない薬が増えてしまう傾向にあるようです。
2−2.薬の飲み方が複雑
薬の量が多いだけでなく、1日1回の薬があったり、1日2回、3回の薬があります。そのうえ服用のタイミングも食後であったり、食前であったり様々です。薬の飲み方の複雑さも服薬忘れにつながるのです。
2-3 薬を飲むこと・飲んだことを忘れる
あまりにたくさんの薬をもらうと、患者さん自身、すべて飲むことに躊躇するのでしょう。どこか「全部飲む必要がない」と思っているようです。
また、飲むことを忘れるだけでなく、飲んだことを忘れることがあります。「自分はついさっき薬を飲んだのか否か?」が思い出せなくなるのです。
3.服薬を確実にする方法とは
この章では服薬を確実にする方法をご紹介します。
3−1.薬の量を減らしてもらいましょう
医師に薬の整理をお願いしましょう。この場合、患者さん自身では言いにくいものですから、ご家族が診察に付き添って、最小限の処方をお願いしなさってください。そこで気分を害されるような医師であれば、そもそも主治医として高齢者の理解が乏しいと思われます。主治医を変更しましょう。
私は、認知症専門外来受診された患者さんには、不要な薬を中止します。人によっては1/5以下の薬量になる方もいらっしゃいます。しかし、一度として薬の減量で体調が悪くなった経験をしたことがありません。多くの医師は、薬を最低限にするよう努力すべきです。
3−2.できるだけ1日1回をお願いしましょう
できるだけ、1日1回にするようにお願いしましょう。それもできれば食前薬は避けて食後薬に統一したいものです。特に、糖尿病専門の先生は、食前薬を積極的に処方されます。糖尿病の治療だけを考えれば、食前薬は有効です。しかし、高齢で認知症が疑われる患者さんには配慮願いたいものです。
3-3.一包化をお願いしましょう
薬は一包化するようにしましょう。一包化とは、幾種類の薬を服用時刻ごとに一つの袋に入れてもらうことです。診察の際に、医師に「一包化でお願いします」と言えば対応してくれます。
ただし、院内処方で対応している医療機関では対応できないことがあります。そのときは院外処方箋をだしてもらい、調剤薬局で処方してもらいましょう。ときには院内処方を行っている小さなクリニックで、一包化にも対応できず、院外処方箋も出し渋ることがあります。いまどき時代遅れです。主治医変更を検討しましょう。
3-4 「服薬ボックス」あるいは「おくすりカレンダー」の活用
曜日や日付が分かる段階の人であれば、「服薬ボックス」あるいは「おくすりカレンダー」「おくすりポケット」を使うと、該当時刻の薬服用の有無が確認できるので有用です。市販品を購入するのもよいし、薬剤師や看護師などが自ら作って使うこともあります。
1日1回のみの服用であれば、大きなカレンダー(暦)に薬を貼っておくだけでうまくいく可能性もあります。いずれの場合も一包化しておくと、扱いやすく間違えにくいのです。
4.服薬をサポートする方法とは
早期認知症や、認知症の患者さんでは服薬をサポートする必要があります。
4-1.テーブルに「薬をのみましたか」と書いた紙を置く
認知症患者さんは、「耳で聞いたことはすぐ忘れてしまうが、眼で見て繰り返し確認できることは通じやすい」という特徴があります。見やすい位置に「薬をのみましたか」などと書いた紙を置いておくと、自分で服薬を確認できて飲み忘れをふぜぐ可能性が高まります。
4-2.家族がタイミングをみて電話する
遠方にすむ家族が、服薬する時間に電話して「今日の分の薬はある? あったら今すぐ飲んでね」と電話することで、服薬が確実にできたケースがありました。ただし、電話をする家族の負担は重くなります。
4-3.訪問介護やデイサービス利用時に服薬
いろいろ工夫しても、認知症の人が一人では服薬管理ができなくなる時期が必ず来ます。家族が介助することができればよいのですが、ひとり暮らしの人などでは難しくなります。
訪問介護や訪問看護、デイサービスなどを利用している場合には、ヘルパーや看護師、デイサービスのスタッフに服薬介助してもらう方法が現実的です。「食前や食後30分に訪問はできませんよ」などと懸念する声も出てくるでしょうが、「必要な薬を飲むか飲まないか」と考えれば、服用時刻をずらしても飲むことのほうが重要です。「食間」になっても差し支えないと判断して、スタッフさんに声掛けしてもらうほうが良いでしょう。
デイサービスでの服用を希望される場合は、はじめから昼食後の処方にできるかどうかを医師や薬剤師に相談し、また、1日3回服用の薬がある場合には、援助体制に合わせて、1日2回にできるかを医師に相談するとよいでしょう。
5.薬を忘れるのは、老化?認知症?
服薬管理ができる能力と、認知症のレベルは相関関係があります。通常、認知症の側頭葉機能を評価するMMSE(Mini Mental State Examination)で、30点満点中の23点以下になると服薬管理が難しくなります。この23点というのは、認知症の初期段階と一致します。
つまり、服や管理ができないは、放置することなく、認知症の診断・治療を行うべきレベルなのです。MMSE検査を以下にご紹介します。検査の実施には、約束事がいくつもありますので、正式な評価は医療機関で行ってください。
現物(2ページもの)は長谷川嘉哉のサイトからもPDFにてダウンロードできます。
6.拒薬は入所・入院も検討する、とは
認知症患者さんの中には、薬を拒否する患者さんもいらっしゃいます。あまりに深刻だと家族の手に負えなくなります。
6-1.認知症の一種「被害妄想」が薬を拒む
認知症の人の中には、「毒を盛られている」という被害妄想のため、服薬しない方もいます。「自分は病気ではないから薬は飲まない」と言って拒否することもあります。
「薬を飲まないと血圧が上がって脳卒中になりますよ」「症状が良くなったからといって中止すると胃潰瘍が再発しますよ」など、ある意味「脅し」も認知症の患者さんには通じません。
6-2.食べ物に混ぜることも
強く拒否する人に無理やりに服用させるのは、現実的には難しいため、どうしても飲ませなければならない薬にしぼったうえで、食べ物に混ぜて服用させることも必要になります。粉砕してお茶に混ぜたり、みそ汁の豆腐の中に入れたり、ご飯に混ぜたりという方法が取られるようです。
激しい精神症状をコントロールするため、抗精神病薬を食べ物とともに与えることも珍しいことではありません。本人の理解なしに薬を飲ませているので、人道的にどうかという懸念もありますが、病気の予防改善また寿命を延ばすという観点からは仕方がない部分もあるでしょう。
6-3.施設入所も検討
そのように工夫しても服薬ができない場合は、介護施設入所を検討します。さらに介護施設で対応できないほど、介護抵抗が強い場合は、精神科への入院となります。
7.まとめ
- 服薬管理のためには、主治医に頼んで、薬を最小限に、飲む時間帯もできれば1日1回にして、一包化をお願いしましょう。
- 服薬管理ができないことは、認知症の初期症状です。
- 必要な薬がありながら、据薬症状が強い場合は、施設入所・精神科入院も検討します。