【FP資格の医師が解説】世帯分離…家計を守る裏ワザ的方法のメリットとデメリット

【FP資格の医師が解説】世帯分離…家計を守る裏ワザ的方法のメリットとデメリット
2020-02-24

介護をしている家族にとって、施設型や訪問型などの介護サービスは、介護負担を軽減するためにも必要です。しかし、サービスによっては高額の費用がかかります。介護が長期化したり、サービスの利用頻度が高まったりするほど、要介護者を支える家族には経済的な負担が家計にのしかかります。

そんな介護費用を節約する“裏ワザ”ともいえるのが「世帯分離」です。二つ以上の家族が同居している場合、世帯分離をすることで介護費用を節約できるのです。

認知症の専門外来では、勉強している家族は、積極的に「世帯分離」を利用しています。この国は、知っている人だけが得をします。毎月1,000人を超える認知症患者さんを診察している長谷川嘉哉が、知らない不幸を減らすためにも、世帯分離について紹介します。 (お伝えする世帯分離の制度上の解釈や方法は2017年12月現在のものです)

目次

1.世帯分離とは

世帯分離とは、同じ住所で暮らす家族が世帯を分けて住民登録することです。たとえば、あなたが親と同居しているなら、あなたの親世帯と、あなた家族の世帯を分けて住民登録をします。これは市役所や区役所に届け出るだけで簡単にできます。

1-1.戸籍でなく、住民票の話

「世帯分離」の話をすると、「親子の縁を切る?」などのイメージを持たれる方がいらっしゃいます。これは、「戸籍謄本」と「住民票」の区別を理解していないから、そうした誤解が生まれるのです。「親子の縁を切る」は「戸籍法」すなわち「戸籍謄本」の話です。世帯は、あくまで住民票レベルの話です。世帯分離を行っても、親子や兄弟といった関係には影響は及ぼしません。

1-2.住民票における「世帯」とは?

住民票上の世帯とは、「居住および生計を共にする集まり」です。従って、生計が別になれば、同居していても別の世帯にすることができるのです。

1-3.同居の夫婦も世帯分離できる

従来はできませんでしたが、2,000年(平成12年)に総務省の見解が変更されたため、可能となりました。

2.どういう人がやるのか?

世帯分離が有効な方とそうでないケースを紹介します。

2-1.有効なケース

要介護者の収入が少なく、同居している家族の年収が高い場合は有効です。介護費用を抑えるには、介護サービスを利用する人と、世帯の中で収入の高い人を分離して、高額介護サービス費の基準が下がるようにすることです。例えば、被介護者である老齢の親が、国民年金だけで年収70万円、年収1000万円の長男家族と暮らしている場合、世帯分離はとても有効です。

2-2.あまり効果がないケース

そもそも、要介護者自身の年収が高い場合は世帯分離の効果はありません。しかし、要介護者自身の年収が高ければ、介護保険の自己負担は、要介護者が負うことができます。つまり、他の家族に負担をかけることがないので、世帯分離自体不要となります。

3.世帯分離のメリット

世帯分離にはいくつものメリットがあります。

3-1.後期高齢者医療保険料が下がる

後期高齢者医療制度制度において75歳以上のすべての人が負担する保険料の内訳は、だれもが負担する「均等割」と、その人の所得に応じて負担する「所得割」になっています。

所得の少ない高齢者が子ども世帯に扶養されて同居している場合には、親世帯が子ども世帯と「世帯分離」をすれば総所得が少なくなり、均等割の軽減措置を受けることができます。

3-2.介護保険料が下がる

65歳以上の第1号被保険者は、住民税の課税状況などに応じて、数段階の保険料になっています。従って、世帯分離で課税される総所得が減れば、介護保険料は安くなります。

3-3.高額医療費が下がる

高額療養費の自己負担限度額について、負担能力に応じた負担を求める観点から所得に応じた負担を求められます。従って、世帯分離で課税される総所得が減れば、高額医療費の自己負担限度額は安くなります。

3-4.高額介護サービス費が下がる

介護サービスを利用する際、費用の一部は利用者が自己負担することになります。負担額は「高額介護サービス費制度」で上限が定められており、限度額を超えたときは申請により払い戻しが可能です。世帯分離をして親世帯の所得が下がると、それに応じて自己負担の上限額が下がり、介護費用の節約につながります。

3-5.入院・入所の食費居住費が下がる

介護保険サービスの自己負担は介護保険本来のものです。世帯分離のメリットはそれだけではありません。居住費・食事の限度額も大幅に安くなるのです。

【低所得者の居住費・食費の負担限度額】

「低所得者の居住費・食費の負担限度額」の画像検索結果

4.世帯分離のデメリットとは

いいことばかりの世帯分離のようですが、デメリットもあります。介護保険制度は3年ごとに見直しが行われているのですが、2016年に改正された現行制度では以下のようなデメリットがあります。

4-1.住民票などの取得時に手間がかかる

何らかの理由で住民票などが必要になった時に、同じ家に住んでいても世帯は別です。それに伴い、別世帯の人の分は委任状をもらわないと住民票が受け取れないという手間が発生します。

4-2.世帯の中に2人以上介護を必要としている人がいる場合は割高になる可能性も

分離によって介護保険の自己負担額を減らす事は可能です。しかし、もし世帯の中に2人以上介護を必要としている人がいると、同一世帯では、高額介護サービス費などの合算ができますが、別世帯では合算ができないのです。その結果として割高になってしまうことも考えられるので、注意が必要です。

4-3.国民保険料などの支払いが増えるケースがある

国民保険料の毎月の支払額は収入に応じて異なりますが、どんなに高収入であっても金額には上限が設けられています。世帯を分離した時に、両方の世帯で高収入の人がいると結果的に保険料の支払う金額が増えてしまう場合もあります。

5.介護保険は世帯分離で負担軽減できる?

具体的な例をご紹介します。


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特別養護老人ホームの中には、年金額、年齢や家族構成、世帯年収も同じなのに1ヵ月の介護費用が合計でAさんは5万1300円、Bさんは13万5500円と差がでることがあります。介護保険では、利用者は実際に利用した介護費用の1割を自己負担します。ただし、収入によっては1割でも支払いが厳しいこともあります。そのため、1ヵ月の自己負担額は収入に応じた限度額が設けられており、それが「高額介護サービス費」です。高額介護サービス費の自己負担限度額は、所得に応じて4段階に分かれています。

利用者負担段階 対象者 自己負担限度額(月額)
第1段階 ・世帯全員が住民税非課税で老齢福祉年金を受給している人
・生活保護を受給している人
15,000円
第2段階 ・世帯全員が住民税非課税で、公的年金等収入額とその他の所得の合計が年間80万円以下の人 15,000円
第3段階 ・世帯全員が住民税非課税で、第2段階以外の人 24,600円
第4段階 ・第1〜3段階以外の人  37,200円

たとえば、1ヵ月に利用した介護保険の自己負担額が3万5000円の場合、第4段階の人は還付を受けられませんが、第2段階の人の限度額は1万5000円なので、申請すれば差額の2万円を払い戻してもらうことができます。

ここでポイントになるのが、「世帯全員が住民税非課税」という点で、同居する家族の収入も合算して計算されることです。介護を受けている本人の収入が国民年金の年額78万円だけなら、住民税は非課税、同居の家族がいなければ第2段階です。しかし、同居している他の家族に住民税が課税されるだけの収入があると第4段階です。介護利用者本人の収入は同じでも、同居する家族の収入によって介護費用が大きく変わるのです。

そこで、親の介護費用を節約するために、「世帯分離」を使うのです。これで基準になる収入が高齢者ひとりのものとなり、第2段階と判断されることもあるのです。その結果、高額介護サービス費の限度額が1万5000円に引き下げられるのです。

介護費用の1割以外にも、部屋代や食費でも、この利用者負担段階に連動して限度額が決まります。その結果、すべてを合算すると、6割もの差になるのです。

6.世帯分離の手続き方法

手続きは、役所の窓口で簡単にできます。

6-1.世帯分離届の提出

1つの世帯を2つにわけるためには、市区町村の住民課(市民課や区民課、町民課など)に世帯分離届を提出する必要があります。

6-2.世帯分離届を出せる人

生態分離届の申出人は、世帯分離する世帯の世帯主もしくは世帯員になります。また、世帯主・世帯員から委任状(代理人選任届)を預かった代理人も手続きをすることができます。

6-3.世帯分離届に必要なもの

  • 異動届・・市区町村窓口に置いてあるので、その場で記入して提出するようにしましょう。

※記入上の注意としては、異動者になる人は、世帯から分離する人たちです。

新世帯主欄には分離後の世帯主名を、旧世帯主欄には分離前の世帯主名を記入しましょう。

  • 本人確認書類

届出をする人の本人確認書類です。

運転免許証、パスポート、マイナンバーカード、障がい者手帳など を持参します。

  • 印鑑

届出をする人の印鑑です。認印で構いませんが、念のためシャチハタ印は控えましょう。

  • 国民健康保険被保険者証

分離される方の人、全員分の国民建国保険被保険者証が必要になります。

世帯主や保険証番号が変わるので、返還ののち新規発行になります。

  • 委任状(代理人選任届)

世帯主、もしくは世帯員以外の人が代理で手続きをするためには委任状(代理人選任届)の提出が必要になります。

7.施設側のデメリット

実は、介護保険の施設側からすると、世帯分離をして自己負担が減った分が、すべて保険から埋め合わされるわけではありません。簡単に言えば、施設としては、世帯分離した入居者が増えることは収入減になるのです。

したがって、世帯分離に批判的な施設もあることも知っておいてください。確かに、世帯分離で入居費用等が減免されている家族が、高級外車に乗ってお見舞いに来られると、施設としては複雑な思いになるようです。

8.相続時の「小規模宅地等の特例」について

相続時の小規模宅地等の特例とは、「100坪以下の自宅で、配偶者や子が一緒に住んでいた場合は、8割引の評価額で相続できる」という制度です。

世帯分離をすることで、相続時にこの「小規模宅地等の特例」が使えなくなることを心配される方がいらっしゃいます。

「小規模宅地等の特例」は相続開始(つまり死亡のとき)に同居してるかどうかが判定基準になります。同居してることを間接的に証明するのが「住民票がどこにあるか」ですが、世帯が別でもかまいません。

9.まとめ

  • 介護サービスでは、世帯を分けたほうが介護費用の節約につながるケースもあることをご紹介しました。
  • 特に、高額な費用がかかる施設に入所した場合は、世帯分離するかしないかで負担額に大きな差が出ます。
  • ただし世帯分離にはメリットとデメリットがあることを把握したうえで検討してください。
  • 特に、介護保険制度は定期的に見直され改訂されるので、自分の収入状況や将来設計、保険の最新情報を定期的にチェックすることも大切です。
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