病院に受診をすると、多くの場合、薬が処方されます。そして薬によって、飲み方が薬袋に記載されています。具体的には、いつ、どのくらいの量、どのタイミングで飲むかが書かれています。しかし、患者さんとお話をしているとその解釈に差があることに驚きます。薬によっては、正しいタイミングで飲まないとまったく効果を現さないこともあります。
医師・薬剤師が改めて説明することもありませんし、患者さんとしても改めて聞きにくいものです。今回の記事では、認定内科専門医の長谷川嘉哉が、今さら聞けない薬の飲み方についてご紹介します。
目次
1.食事と薬を飲む正しいタイミングは?
以下は、代表的な3つの薬の飲み方です。間違って理解されている方も結構いらっしゃいます。
1-1.「食後」の意味
「食後」と書かれているものは、必ず食事後すぐでなくともよく、「食後30分以内に服薬」するように指示したものです。胃に負担をかけるような薬の場合は、胃に食べ物が入っている状態で服薬しなければ胃が荒れてしまいます。食事した食べ物は約30分で消化されていくため、この間に服薬する必要があるのです。
1-2.「食前」と「食直前」の違いは大きい
食前と食直前の薬があります。この違いは、思いのほか理解されていないではないでしょうか?
- 食前:食事の30分前に服薬します。胃腸風邪の際などに処方される制吐剤(例:プリンペラン、ナウゼリン)は、食べ物が胃に入ってくる前に効果を出す必要があるのです。
- 食直前:「いただきます」と言ってから服薬します。糖尿病の薬に多く見られます。糖質の吸収を遅らせたり、インスリン分泌を刺激して食後の血糖の上昇を抑えるため、必ず食直前の服薬が必要です。
1-3.食間は2時間経過後
「食間」という服薬指示は結構悩んでいる患者さんがいるものです。人によっては、「食後から、食前まで幅広い食事の間」ととらえているようです。正解は、食事してから2時間経過してからの服薬です。食事の影響を受けやすい漢方薬で多いです。私の専門で言えば、認知症に対する抑肝散がこの服薬方法になります。抑肝散については以下も参考になさってください。
2.就寝前って?
睡眠薬などは、就寝前の服薬が指示されています。これも患者さんによっては、「夕食後から床にはいる直前まで差」があります。正解は、布団に入る20~30分前の服薬が目安です。女性に多いのですが、服薬してからも家事を続けてしまって、眠気で転んでしまった患者さんもいらっしゃいます。服薬をしたら、眠るまでは静かに過ごされた方が良いでしょう。
3.起床時って?
最近、服薬方法として出てきたのが、「起床時」です。起床時は、朝起きてすぐに服薬します。同時に、服薬後30分は食事をしてはいけません。これは骨粗鬆症の薬(例:ボナロン錠、ベネット錠など)が多く対象になっています。これらの薬は、消化管からの吸収が悪いため、食事と同時に服薬するとさらに吸収が悪化してしまうのです。そのため、空腹時の消化管に何もない状態での服薬が必要なのです。
4.頓服とは?
医師は、何気なく「頓服で薬を出しておきます」と言いがちです。患者さんによっては、「頓服って何?」という表情をされる方もいらっしゃいます。頓服とは、定期的でなく、必要な時にだけ服薬します。例えば、頭痛時、便秘時、下痢時、悪心時などの症状がある時だけ服薬します。ただし、何度も服薬してはいけません。処方箋には、「1日3回まで」、「6時間以上あけて」などの指示がありますので、それに従ってください。
5.薬は何で飲むの?
患者さんは、思いのほか、いろいろなもので服薬されています。
5-1.水以外は、副作用が出ることも
水以外で服薬すると、薬の成分と相互作用しあってトラブルが起きることがあります。血圧の薬をグレープフルーツジュースで飲むと効きすぎてしまいます。これはあまりに有名なので、ドラマなどのネタにもよく使われますが、現実には、グレープフルーツジュースで服薬した患者さんには遭遇したことがありません。しかし、そういうことも起こり得ると思っておいた方がいいでしょう。
その他、カルシウムの薬と牛乳、カフェインが含まれている頭痛薬とコーヒーも避けたいものです。要するに、水で飲んでもらえれば良いだけです。
5-2.漢方の名前に「湯」が付いたものはお湯で飲むのがおすすめ
なお、漢方薬で、〇〇湯という名前の付いたものは、お湯で飲む方が効果的です。これらは、もともと煎じて作られる薬で、湯液(薬を煮込んだ)で服用することを意味します。具体的には、葛根湯、小青竜湯、小柴胡湯、大建中湯などです。
5-3.OD錠は水なしでも
最近、増えてきているのがOD錠です。OD(=Orally Disitegration)錠とは、口腔内崩壊錠の略語です。口の中に入れると、唾液で溶けて吸収されます。かみ砕いたり、水は必要ありません。すぐに溶けますが、薬が効くまでの時間は変わりません。
片頭痛の薬など、タイミングを逸すると効果が無くなる薬などは、すぐに服薬できるOD錠がお薦めです。
6.指示された時間に飲み忘れた時は?
毎日、決められた時間に服薬することは結構難しいものです。ときに飲み忘れてしまうこともあります。そのような時の対処方法をご紹介します。
6-1.高血圧の薬
最近の血圧の薬は、朝食後1回の服薬が多いです。朝食後に飲み忘れた場合は、午前中であれば気が付いた時に、食事関係なく服用しましょう。血圧の薬は胃への負担が軽いため、食事がなくても大丈夫です。昼食時に気が付いた時もそのまま、昼食後に服薬しましょう。それ以降の時間帯に気が付いた場合は、その日の服薬は止めて、翌朝から忘れずに服薬しましょう。
6-2.糖尿病の薬
食直前の薬を忘れた場合は、気がついてから服薬しても効果はありません。次の食事の食直前から服薬しましょう。朝食後の薬であれば、血圧の薬と同様に、昼までの気が付いた時、もしくは昼食後に服薬しましょう。ただし、糖尿の薬は、血糖を下げる必要もありますし、低血糖も怖いため、できるだけ飲み忘れないようにお願いします。
6-3.その他
その他、コレステロールの薬、胃薬、骨粗鬆症などの薬は、1度くらい飲み忘れてもすぐには影響が出ませんので、そのまま服薬しなくても大丈夫です。ただし、長い目で見れば、コントロールが不良となりますから、基本は服薬を忘れないようにしてください。
ただし、あまりに服薬管理ができない場合は、認知症の始まりも疑ってください。詳しくは以下も参考になさってください。
7.薬の期限は?
薬自体は、未開封であれば製造されてから3~5年は効き目は変わらずに使用ができます。しかし、処方された薬の製造日は分かりません。
そのため、一般的に薬局で処方された薬を受け取った場合は、粉薬は3~6か月、カプセルや錠剤は6か月~1年と考えることが安全です。シロップや水薬は、腐りやすいため処方日数が消費期限と考えてください。
8.まとめ
- 処方された薬は、食後の時間は、食前と食直前の違い、眠前の時間を正しく理解して服薬しましょう。
- 服薬の基本は、水です。漢方薬で、〇〇湯という名前の付いたものは、お湯で飲む方が効果的です。
- 処方された薬はできるだけ飲み忘れがないようにしましょう。但し、あまりに飲み忘れがひどい場合は、認知症の始まりも疑いましょう。