検診で「尿酸値が高い」と指摘された方もいらっしゃるのではないでしょうか? それどころか、尿酸値が高いことにより痛風発作を経験されている方もいらっしゃるかもしれません。
尿酸値が高くても何も症状はありません。痛風発作も痛みが取れれば、何も困りません。しかし、痛風発作の原因となる高尿酸血症は全身疾患であり、痛み以外の疾患の原因ともなります。今回の記事では認定内科専門医の長谷川嘉哉が尿酸値が高いと言われた場合に、疑われる疾患、数値ごとの対応方法の違いなどポイントをご紹介します。
目次
1.尿酸値が高い、とは
尿酸には以下の特徴があります。
1−1.尿酸はプリン体分解の結果
「プリン体」という物質が体内で分解されてできるものが「尿酸」です。プリン体は運動したり臓器を動かすためのエネルギーで,常に体内で作られています。また,細胞には遺伝情報を伝える役割を持つ核酸という物質がありますが,核酸の構成成分もプリン体です。そのため、古くなった細胞を分解する過程でもプリン体ができます。プリン体は細胞の中にあるものですから、動物・植物いずれの食品からも体内に入ります。これらのプリン体は主に肝臓で分解され尿酸となり,一時的に体内に溜め込まれた後、尿や便として排泄されます。
1−2.適正値が男女で違う
痛風は圧倒的に男性に多い病気です。調査では男性が98.5%で女性はわずか1.5%です。この原因は、尿酸の血中濃度が女性は男性より低いからです。女性ホルモンには腎臓からの尿酸の排泄を促す働きがあるからで、閉経後には女性ホルモンの分泌が減ると尿酸値は少し上昇します。
1−3.尿酸値が高いと痛風以外の病気も
尿酸値が高いと、痛風発作だけでなく腎臓にたまった結晶により腎臓が悪くなり(慢性腎臓病)、尿路結石を起こしやすくなります。さらに尿酸値が高い患者さんほど、狭心症や心筋梗塞といった心疾患や脳出血や脳梗塞と言った脳血管障害を起こしやすくなります。
2.痛風発作の症状
痛風発作の症状には以下の特徴があります。
2−1.どうなる
高尿酸血症を放置すると、ある日突然、足の親ゆびの付け根などの関節が赤く腫れて痛みだします(その数日前に軽い痺れや違和感などの予兆を感じる方もいます)。痛みは激烈で、耐えがたいほどの痛みです。風が吹いても痛いということで、「痛風」と呼ばれています。
2−2.発生部位
発作が起こる関節の7割は足の親指の付け根(関節部分)に現れます。その他、痛風発作はアキレス腱、足の甲、かかと、くるぶし、足の関節、膝、肘、手首、指などの関節や耳介にも起こります。
2−3.再発
痛風発作は、炎症を抑える薬を服用すると数日から10日で次第に治まって、しばらくすると症状がなくなります。しかし、多くの場合1年以内にまた同じような発作がおこります。そして繰り返しているうちに、他の関節まで広がり発作の間隔が次第に短くなってきます。
3.痛風の診断
医師は以下の診断基準を使って診断をします。しかし、痛風に似ていても異なる疾患もあるので診断は医師にお任せください。
- 症状が出てから1日以内にピ-クに達する
- 以前にも同じような症状があった
- 一度にひとつの関節だけに症状がある
- 関節の部位が赤くなる
- 関節が腫れている
- 足の親ゆびの付け根の関節に激痛、腫れがある
- 片足の親ゆびの付け根の関節に炎症がある
- 片足の足首の周りの関節に炎症がある
- 血液検査で尿酸値が高い
4.急性期治療
痛風発作が起こってしまったら,非ステロイド抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs、NSAIDs)を用い、関節炎が消失したら投与を中止します。腎機能障害や胃潰瘍などの消化管障害がありNSAIDsが使用できない場合、あるいは効果が乏しい場合にはステロイド剤(商品名:プレドニン、デカドロンなど)を用います。
痛風発作中に尿酸降下薬の投与を開始すると発作を増悪させるので,投与を開始してはいけません。ただし,尿酸降下薬の投与を行っている場合は,原則として投与を中止せずにそのまま服用を継続しながら、NSAID、ステロイド剤などを加えて炎症を抑えます。
5.尿酸値のコントロール
尿酸値は以下の基準に沿って治療を行います。
5-1.痛風発作の既往があれば
痛風発作がおこった患者さんには、尿酸値を下げるための薬物治療を行います。
5-2.痛風発作の既往がない場合
- 血清尿酸値が8.0mg/dl未満の場合:生活指導のみで経過を観察します。
- 血清尿酸値が8.0mg/dl以上の場合:合併する病態(肥満、高血圧症、高脂血症、虚血性疾患、耐糖能異常などを合併する場合は薬物治療を考慮します。
- 血清尿酸値が10mg/dl以上の場合:薬物治療を行います。
6.投薬治療法
尿酸を下げる薬には大きく分けると以下の2つです。
6-1.尿酸産生抑制薬が中心
尿酸の産生を抑制することで、尿酸値を下げます。
- アロプリノール(商品名:ザイロリック、アロプリノーム)・・昔から使用されている薬です。基本的に100㎎1錠を、1日2回服用します。
- フェブキソスタット(商品名:フェブリク):2011年より使用可能となりました。1日1回、10㎎もしくは20㎎を服用しています。1日1回であることから、現在の処方の主流となっています。
6-2.尿酸排泄促進薬は肝機能障害のおそれ
尿酸の排泄を促進することで、尿酸値を下げます。ただし、尿路結石、腎障害合併時には尿酸生成抑制薬が第1選択となります。その上、尿酸排泄促進薬のベンズブロマロン(商品名:ユリノーム)には、一部に重症の肝機能障害を起こすことがあります。そのため臨床の場では、前述の尿酸産生抑制薬を中心に使用します。
7.再発防止法
尿酸は絶えず身体の中で作られています。尿酸が体内に貯まらないような生活習慣が必要です。
7-1.食べ過ぎに注意
痛風発作は、暴飲暴食の翌朝に起こることが良くあります。食べ過ぎないようにしましょう。
7-2.お酒は適量に
アルコール自体に尿酸値を上げる作用があります。普通のビールより、プリン体カットのビールの方が尿酸値への影響は少ないですが、飲み過ぎてはいけません。日本酒なら1合、ビールなら500ml、ウイスキーなら60mlまでにしましょう。
7-3.プリン体の多く含まれる食品や飲料を摂り過ぎない
食品100gあたりプリン体が200㎎以上含まれるものを高プリン食といい、主に、肉類(レバーなど動物の内臓)、魚介類、干物などが挙げられます。これらを摂取しすぎないようにするのが望ましいとされています。食べ過ぎと合わせて注意しましょう。
7-4.水を2リットル以上飲む
水やお茶を1日2リットル以上飲むことで、尿で尿酸を排泄しましょう。砂糖を多く含む清涼飲料水は、逆に尿酸値を上げてしまうので避けましょう。
7-5.適切な運動を
100メートルダッシュや筋肉トレーニングなど、息をこらえて行う無酸素運動は尿酸値上昇の原因になり得ます。話しながらでもできるような有酸素運動で肥満やストレスを解消しましょう。
8.まとめ
- 尿酸値が高いことで、痛風発作が起こります。
- 痛風発作以外にも、尿酸値が高いと、腎障害、心疾患、尿血管障害を起こしやすくなります。
- 痛風発作の既往、尿酸値によって、主に1日1回の尿酸生成抑制剤(フェブキソスタット、商品名:フェブリク)を使用することで尿酸値を下げます。