保険適応外のビタミン剤を安易に処方する医師にかかってはいけない

保険適応外のビタミン剤を安易に処方する医師にかかってはいけない

外来をやっていると、「ビタミン剤を出してくれませんか?」という要望をよくいただきます。当院というより、診療報酬のルールで、ビタミン剤の処方はできないので、お断りしています。そうすると、「以前のクリニックでは処方してもらった」と不満を訴える患者さんもいるので困ったものです。今回の記事では、ビタミン剤が処方について、総合内科専門医の長谷川嘉哉が解説させていただきます。

目次

1.ビタミン剤とは?

ビタミン剤には以下の特徴があります。

1-1.ビタミンの働き

ビタミンとは、三大栄養素(糖質・脂質・たんぱく質)の代謝を助ける働きをしています。三大栄養素のようにエネルギーの源泉ではありませんが、ビタミンがないと体がスムーズに働かない、「潤滑油」のような働きをしています。

1-2.脂溶性ビタミンは蓄積に注意

ビタミンには、13種類あり、水に良く溶けるビタミンB群やビタミンCの「水溶性ビタミン」と、水にほとんど解けないビタミンA,D,E,Kの「脂溶性ビタミン」に分けられます。水溶性ビタミンは過剰に摂取しても、尿に出るだけですが、脂溶性ビタミンは、蓄積されるので過剰摂取には注意が必要です。

1-3.年間1000億円の薬剤料!

ビタミン剤を医師が処方することがあります。2012年度以降のビタミン剤の薬剤料の推移を見ると、おおむね上昇傾向で年間1000億円弱の薬剤料が使われています。

2.ビタミン剤の処方は医療保険の適応外

ビタミン剤の処方については、平成24年度の診療報酬改定で、すべてのビタミン剤について単なる栄養補給目的での投与は医療保険の適応外となりました。つまり、「疲れているのでビタミン剤をください」、「食欲がないのでビタミン剤をください」、「皮膚のシミに対してビタミン剤をください」に対して、医療保険での処方はできないのです。

ただし、以下の場合は除くとされています

当該患者の疾患又は症状の原因がビタミンの欠乏又は代謝異常であることが明らかであり、かつ、 必要なビタミンを食事により摂取することが困難である場合、その他これに準ずる場合であって、 医師が当該ビタミン剤の投与が有効であると判断したとき

31年間医師をやっていますが、このようなケースは殆どありません。つまり、現実には処方されているビタミン剤の処方は、医療保険の適応外のなのです。

3.ビタミン剤処方のデメリットは

ビタミン剤自体が副作用を起こすことはあまりありません。しかし、患者さんにとって最大のデメリットは、処方される薬の量が増えてしまう事です。患者さんは、処方された薬の、優先度は分からないものです。そのため患者さんによっては、血圧の薬を飲まずにビタミン剤だけをキチンと服薬する方さえいるのです。

したがって、医師は、そもそも健康保険で処方してはいけないビタミン剤の処方は避け、必要な薬だけを最小限処方すべきなのです。処方薬を最小限に抑えてもらうための方法については以下の記事を参考になさってください。

4.ビタミン剤の処方が認められているケース

但し、以下の場合はビタミン剤の処方が認めらています。


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4-1.骨粗鬆症のビタミンD

活性型のビタミンDは腸管からカルシウムの吸収を高め、骨の石灰化を促進して骨密度を増加させます。しかし、ビタミンDが含まれる食品は魚類とキノコ類に限られおり、日本人はビタミンD不足の割合が高いと報告されています。そのため、活性型ビタミンDの服薬は骨粗鬆症に対する治療薬として認められています。

4-2.つわりがひどい場合の妊産婦へのビタミン

妊産婦さんでつわりがあまりにひどく食事が摂れない場合は、ビタミン不足によるウェルニッケ脳症を引き起こすことがあるため、適切な水分、糖分、ビタミンB1,B6、ビタミンCの補充を行います。この場合は、点滴で行うことが多いのですが、経口薬で対応することもあります。この点は、産婦人科の先生との相談が必要です。

4-3.末梢神経障害へのビタミンB12

我々、脳神経内科医が診察するような、末梢神経障害の患者さんの場合、神経の再生に必要なビタミンB12はとても効果があります。具体的には、末梢性顔面神経麻痺、帯状疱疹後神経痛、慢性炎症性脱髄性多発神経炎などです。しかし、高齢者の方が、何となく足がしびれるというような症状に対しては、効果はありませんし、そもそも保険適応ではありません。

5.なぜ、ビタミン剤を安易に処方する医師がいる?

保険で認められていないビタミン剤を処方する医師がなぜ存在するのでしょうか?

5-1.高齢の医師

昔は、薬価差益と言って「仕入れ価格と処方したときの薬の価格との差」がとても大きかったのです。そのため医師はたくさん薬を処方するほど利益が残ったのです。長年の医師の処方パターンは変わらないものです。現在、60歳を超えているような医師のビタミン剤処方の一因と言えます。

5-2.2代目のジレンマ

若い先生は、勤務医の時代にビタミン剤を処方することは殆どありません。しかし、親の後を継いだりすると、先代が処方していた薬は切りにくいものです。そのため、漫然とビタミン剤処方を続けざるを得なくなるのです。

5-3.薬の処方でごまかすため

「身体がだるい」、「食欲がない」、「すっきりしない」というような不定愁訴が多い患者さんに対して、「薬を処方しておきます」という際にビタミン剤はとても便利です。薬を出すことで患者さんも一応納得し、医師としても短時間で対応することが可能になるのです。

6.患者さんへのお願い

これは患者さんへのお願いです。ビタミン剤は、医師が健康保険で処方するほどの効果は認められていません。健康保険でも、栄養補充目的や、食事がとれている患者さんへの処方は禁止されています。

つまり、ビタミン剤を処方しない医師が正しいのです。決して「以前の先生は処方してくれた」などとは言わないでください。処方していた医師が間違っていたのです。皆さんの正しい判断で、1000億円近い医療費が節約できるのです。それでもビタミン剤が飲みたい場合は、どうか薬局で自分のお金で購入してください。

7.まとめ

  • ビタミンは身体に必要な栄養素ですが、食事からの摂取が基本です。
  • 健康保険では、栄養補充目的や、食事がとれている患者さんへのビタミン剤処方は禁止されています。
  • 安易なビタミン剤処方は、処方薬が増えて大事な薬も飲み忘れる原因になります。
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