特有の症状を呈する小脳梗塞を見逃さないための、とっておきの方法を専門医が解説

特有の症状を呈する小脳梗塞を見逃さないための、とっておきの方法を専門医が解説

脳の中でも、大脳については良く知られていますが、小脳についてはあまり知られていないではないでしょうか? 通常、大脳に梗塞が起こると、片麻痺などの運動障害を引き起こしますが、小脳の梗塞では独特の症状を呈します。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が小脳梗塞について解説します。

目次

1.小脳梗塞とは

脳の血管が詰まり、その血管が支配していた脳の領域が死んでしまう疾患を脳梗塞と言います。小脳梗塞とは、後頭部にある小脳という部位におこった脳梗塞で、通常の脳梗塞とは違った特徴があります。小脳という部位の病気であり、決して、小さな脳梗塞という意味ではありません。

Cerebellum part - Human brain in x-ray view
小脳の位置

2.小脳梗塞の症状

小脳梗塞には、以下のような症状が認められます。

2-1.失調症状

失調とは、麻痺がなく筋肉に力は入るのに、手足がうまく使えないことを言います。具体的には、机の上の携帯電話を撮ろうとする際をイメージしてください。正常であれば、携帯電話まで直線的に手を伸ばすことができます。しかし、小脳梗塞では、携帯電話まで手を伸ばしても、うまく取ることができません。このように腕自体は動くのですが、携帯電話にたどり着くまでの微調整ができないことを失調と言います。

2-2.めまい・ふらつき

患者さんによって、症状には差があります。軽いめまい程度を訴える方。歩くことできても、まっすぐ歩けずに片方によってしまう方。中には、激しいめまいで、目を開けることもできない方まで、症状の程度には違いがあります。

2-3.悪心・嘔吐

通常、脳梗塞で悪心や嘔吐が主徴になることは、あまりありません。しかし、小脳梗塞の場合、めまいに伴い悪心や嘔吐を主徴とすることがあります。この場合、消化器疾患を疑われてしまうことがあります。

2-4.構語障害

ろれつが回らなくて、うまくしゃべられないこともあります。脳梗塞の場合と比べ、小脳の梗塞による構語障害の場合、どこか舌足らずで、間の延びた話し方のため、酔っ払っていると思われることもあるので注意が必要です。

2-5,意識障害

小脳の梗塞自体で意識障害が強く出ることは少ないのですが、病変が大きいと、小脳が腫脹。それが脳全体を圧迫すると意識障害をおこします。

3.大脳に起こる梗塞との違い

大脳におこる梗塞に比べて、小脳の梗塞には違いがあります。

3-1.重篤感が少ない

もちろん小脳梗塞でも、広範囲であれば意識障害が起こりうるのですが、頻度は少ないです。運動障害も、うまくは動かせなくても、動くことはできる。つまり、意識レベルも維持されて、手足も動くため、見落とされることも多いのです。

3-2.病側と同側に症状

小脳梗塞も、大脳の梗塞と同様に右側や左側と言った部位におこります。通常、大脳の梗塞の場合は、左側の病変は反対側の右側に症状が出ます。しかし、小脳梗塞は、病変と同側、つまり左側の病変は、左側に症状が出ます。


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3-3.若い方にも発症しやすい

個人的な経験ですが、小脳梗塞は、比較的若い、40歳代の方にも発症する傾向があります。年齢が若くても、突然のめまいや、上手に手足が動かしずらく、しゃべりにくさがあれば、疑う必要があります。

4.早期受診のために

小脳梗塞を見落とすことなく、適切に受診するためには以下のことを知っておくことが重要です。もちろん、これらができないほどの、意識障害があればすぐに救急受診しましょう。

4-1.突然、発症

小脳梗塞に限らず、脳の病変は突然起こります。「1週間前から、徐々に動きが悪い」といった進行は、殆どありません。今まで、全く普通に生活をしていたが、突然、めまい、失調症状、構語障害が出現する場合は、小脳の病変を疑いましょう。

4-2.可能なら自己診断を

可能なら自己診断をしてみましょう。両手を前方に伸ばして、左右交互に自分の鼻を触ってみましょう。上手にできたら、今度は目をつぶって同じことをしましょう。開眼、閉眼、どちらかでもうまく鼻に到達できない場合は、失調症状が出ている可能性がありますので、小脳の病変を疑いましょう。

4-3.頭部CTで異常が見られないことも

通常は、小脳梗塞が疑われたときは頭部CTを撮影します。しかし、発症してから6時間以内の場合や病変が小さい場合は、頭部CTでは異常を見つけることができないこともあるので、注意が必要です。症状等から、小脳病変を強く疑われる場合は、頭部MRIも必要となります。

5.小脳梗塞の急性期治療は

小脳梗塞の治療では、発症後4~5時間であれば、脳の血栓を溶かす治療を行います。但し、この状況では、頭部CTでも異常を認めないため、整った施設で、脳血管造影を行って、病変を確認してから行います。但し、高齢者の場合は、慎重な適応判断が求められます。

また、小脳梗塞では、小脳が腫脹することで脳幹を圧迫します。そうなると、呼吸抑制や心停止の危険性が高くなるため、脳の腫れを抑える点滴治療を行います。

6.小脳梗塞の慢性期治療は

急性期治療後は、言語、作業、運動のリハビリテーションを行います。同時に高血圧、脂質代謝異常、糖尿病、心房細動などの基礎疾患がある場合は、これらの病気に対する治療を行います。また、再発予防目的で、血栓を作りにくくする抗血小板療法を行います。

7.まとめ

  • 小脳梗塞とは、小脳という後頭部に位置する部位におこった梗塞です。
  • 小脳梗塞では、手足は動くが、上手に動かせない失調症状が特徴です。
  • 悪心・嘔吐が強く出ると、消化器系の疾患と間違えられることもあります。
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