骨粗鬆症と便秘薬の併用に注意!ミルクアルカリ症候群とは

骨粗鬆症と便秘薬の併用に注意!ミルクアルカリ症候群とは

先日、私の患者さんが、「ミルクアルカリ症候群」で緊急入院したとの連絡をいただきました。恥ずかしながら、私は「ミルクアルカリ症候群」という疾患を知りませんでした。この患者さんは、整形外科より骨粗しょう症の薬を処方され、当院からは便秘に対する薬が処方されていました。「ミルクアルカリ症候群」はこのような、どこにでもある組み合わせが原因で起こります。今回の記事では、総合内科専門医の長谷川嘉哉が、誰にでも発症しうるミルクアルカリ症候群についてご紹介します。

目次

1.ミルクアルカリ症候群は過去の病気?

現在、胃潰瘍に対してはPPI(プロトンポンプ阻害薬)という胃酸の分泌を抑制する薬で治癒が可能です。しかし、この薬が開発される前には、胃潰瘍に対して「牛乳とマグネシウム製剤」を一緒に飲むという治療がされていました。理論的には、マグネシウム製剤で胃酸を中和して、牛乳により胃の粘膜を保護しようという治療法です。しかし、その中で、高カルシウム血症による意識障害や嘔吐を発症する患者さんが現れました。彼らには、同時にアルカローシスと急性腎障害を認め、「ミルクアルカリ症候群」とよばれていました。しかし、PPIの開発以降は過去の病気となっていたのです。

*アルカローシス:血液のアルカリ性度が高くなりすぎた状態

2.高カルシウム血症の症状は?

ミルクアルカリ症候群の症状の主たる原因は高カルシウム血症です。高カルシウム血症は以下の症状を起こします。

2-1.軽症は見逃されることも

軽症のうちは、便秘、食欲不振、悪心・嘔吐、腹痛程度です。これらの症状は、高齢者では通常でも見受けられる症状です。したがって高齢者の場合は、様子観察をして見逃されてしまうこともあるのです。

2-2.重度になると生命の危険も

血清カルシウム濃度が、12mg/dLを上回ると、情緒不安定、錯乱、せん妄、さらには意識障害を引きおこし、生命的危険も生じます。

2-3.腎障害

身体の中でカルシウムの値が高くなると、腎臓の糸球体ろ過量が低下することで、多尿になり循環血液量が低下し、急性腎障害を引き起こします。

3.現在のミルクアルカリ症候群は骨粗しょう症の薬が原因

現代のミルクアルカリ症候群は、骨粗しょう症に対して処方される活性型ビタミンD 製剤やカルシウム製剤が処方されている患者さんに、内科的な処方が加わることで引き起こされます。

3-1.マグネシウム製剤の併用

高齢者の場合、便秘の患者さんが増えてきます。その際に、いきなり下剤を加えると下痢を起こすことが多いため、まずはマグネシウム製剤で便の水分量を増やします。マグネシウム製剤には腸管を刺激する効果はないのですが、便が柔らかくなることで自然排便が期待できます。そのため相当数の患者さんにマグネシウム製剤が処方されているのです。そんなマグネシウム製剤が活性型ビタミンD 製剤やカルシウム製剤との相互作用でミルクアルカリ症候群を引き起こすのです。まさに私の患者さんがこのケースでした。

3-2.利尿剤との併用

高齢者の場合は心不全を合併していることが多いため、サイアザイド系の利尿薬を使用することが多くあります。この場合も、活性型ビタミンD 製剤やカルシウム製剤との相互作用でミルクアルカリ症候群を引き起こすのです。


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4.相当数見逃されているのでは?

文献等を調べるとミルクアルカリ症候群の報告例は少ないと言われています。しかし、そもそも通常の採血ではカルシウムは測定しません。また軽度のカルシウムの異常では、高齢者に見られる不定愁訴と考えられがちです。

私の外来においても、活性型ビタミンD 製剤やカルシウム製剤とマグネシウム製剤や利尿剤を併用している患者さんが相当数います。今後は、早急にカルシウムの血中濃度を測定してく予定です。

*不定愁訴:明らかな身体的原因が認められないにも関わらず、頭痛や筋肉痛、腰背部痛、疲労感、腹痛、悪心、食欲不振など多彩な症状を訴え続ける状態。

5.本当に活性型ビタミンD3製剤が必要?

現代のミルクアルカリ症候群の主たる原因は、活性型ビタミンD3製剤です。正直、活性型ビタミンD3製剤の臨床効果は、最近のビスフォスフォネート製剤などに比べると、弱いものです。本当に骨折抑制効果を期待するなら、活性型ビタミンD3製剤以外の選択になります。単なる惰性?で処方されているケースが多いと思われます。

一方で、内科的な利尿剤やマグネシウム製剤の処方は、必要不可欠です。骨粗しょう症の治療においてはミルクアルカリ症候群のリスクも十分踏まえたうえでの慎重な投与が望まれます。

6.内科医も採血項目にカルシウムの追加を

内科医も、活性型ビタミンD3製剤と利尿剤やマグネシウム製剤を併用している患者さんには定期的な採血にカルシウムを加えることがお薦めです。そして、カルシウムが高い場合は、副甲状腺や癌を疑いますが、そこにミルクアルカリ症候群も鑑別疾患に加えなければいけません。活性型ビタミンD3製剤と利尿剤やマグネシウム製剤を併用している患者さんには定期的な採血にカルシウムを加える必要があるのです。

7.まとめ

  • 高カルシウム血症を主とするミルクアルカリ症候群の患者さんが増えています。
  • これらの主たる原因は、骨粗しょう症に対する活性型ビタミンD3製剤です。
  • 内科医も活性型ビタミンD3製剤と利尿剤やマグネシウム製剤を併用している患者さんには定期的な採血でカルシウムを加えることがお薦めです。
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