脳梗塞は、以前は日本では死因第一位でしたが、現在では1位の癌、2位の虚血性心疾患に次いで3位になっています。そのため、少し皆さんの関心が少なくなっている疾患でもあります。
しかし脳梗塞を含む脳血管障害の患者数は年間111万人と決して少なくない数です。見方を変えると、亡くなる方は減っていても、罹患する患者数は変わらなく多いといえるのです。
そんな脳梗塞ですが「何科が診るのか?」、一般の方にはわかりにくいものです。今回の記事では、娘が脳梗塞になった経験をした脳神経内科専門医である長谷川嘉哉が、改めて「脳梗塞は何科が診るのか?」を解説します。
目次
1.脳梗塞は脳神経内科が診る
結論を言ってしまえば、脳梗塞は脳神経内科が診るべきです。しかし、以下のような問題があります。
1-1.脳神経内科専門医が少ない
脳神経内科専門医の数は、全国で2023年8月18日の時点で、約6500人しかいません。そうすると、救急で受診した病院に脳神経内科専門医がいる可能性はかなり低くなります。
1-2.脳神経内科専門医自身の脳梗塞への関心が低い
脳神経内科医の診療は大きく分けて、脳梗塞と変性疾患(パーキンソン病、脊髄小脳変性症、認知症)になります。多くの神経内科医が所属している大学や基幹病院では脳梗塞よりも変性疾患への関心が高くなります。一般の方には理解できないでしょうが、この世界では医師の評価は、患者さんを一生懸命に診ることでなく論文で評価される傾向があります。論文のためには、研究題材は脳梗塞よりも変性疾患に偏ってしまうのです。
1-3.ある教授の暴言
ある大学の脳神経内科の教授が「脳梗塞の患者は、脳神経内科医だけでなく他の内科の先生にも診てもらいたい」と発言したことがあります。それに対して他の科の先生が、『先生の身内が、脳梗塞で受診した際も専門医以外の診察でよろしいか?』と質問し、黙ってしまいましたが・・。
2.娘が助かったのは女子医大脳神経内科のお陰
その点、東京女子医大の脳神経内科は素晴らしかったです。北川一夫教授を中心に脳梗塞の治療に積極的に取り組まれています(もちろん変性疾患も研究されています)。私の三女が令和5年4月に奇異性脳塞栓症で入院した際も、適切な治療によって殆ど障害のない状態まで改善することができました。
女子医大でなければ、血栓を除去してもらうこともなく、卵円孔を見つけてもらうこともなく、後遺症を抱えながら再発を恐れる日々になっていたかもしれません。場合によっては、命さえも失っていたかもしれません。同じ専門医として以下の点が特筆すべきものでした。
- 脳卒中センタ―:脳血管障害の患者さんを急性期に集中的に治療・管理するセンターです。看護師さんも脳血管障害に対してしっかりとトレーニングを受けられており、とても安心しました。
- 他科との連携:脳血管障害は脳神経内科だけでなく脳神経外科や循環器内科との連携が必要です。これらの連携がとてもスムーズで、振り返っても完ぺきな治療を行ってもらえたと思います。
- 鍛えられた専門医:同じ専門医として、診察をしている姿を見れば、しっかりと教育されていることが分かります。そのうえ、休日、時間外関係なく、寄り添っていただいた点には深く感謝をしています。なお、娘の病態については以下の記事も参考になさってください。
3.あらためて脳神経内科医として
脳梗塞に罹患した患者さんのなかには、一度も脳神経内科医の診察を受けていない方も多々見受けられます。以下のような患者さんには、専門医として何とかしてあげたいと思います。
- 本来5-6か月は行える急性期リハビリを受けていない
- 慢性期に、介護保険を使ったデイケアや訪問リハビリが提案されていない
- 傷病手当、障害年金、特別障害者手当の申請が適応なのにされていない
- 拘縮やしびれに対して、対処方法があるのに無視されている。
今回の三女の経験は、私自身の脳神経内科専門医としての今後の生き方も変えてくれたと感じています。今後の人生は、女子医大の先生方に負けないように診療に取り組みたいと感じました。
4.まとめ
- 脳神経内科専門医は脳梗塞のプロであるが、その数が少ない上に、彼ら自身の関心が薄い
- 東京女子医大脳神経内科の最高の診療体制のお陰で三女は助かった
- 脳梗塞に罹患した場合は、一度は脳神経内科専門医の診察を受けることをお薦めします。