実は、恥ずかしながら
この本を読むまで、”東京會舘”という名すら知りませんでした。
大正11年の創業以来、結婚披露宴や宴会場、
また芥川賞・直木賞の記者会見・贈呈式や
宝塚のトップスターのイベント会場としても知られ、
多くのファンに愛されてきた東京會舘。
現在は建て替えのため一時休館していますが、
その100年近い歴史ある建物を舞台にした小説が
『東京會舘とわたし(上・下)』です。
上下巻ですが、一気読みしてしまいました。
第一章は大正12年のヴァイオリニスト・クライスラーのコンサート
その時の芳名録の錚々たる参加者には圧倒されます。
作品は大政翼賛会、GHQの接収、関東大震災といった
會舘が歴史に翻弄された過去が紹介されます。
同時に、手土産として名高いプティガトーや
マッカーサーも愛したという「會舘フィズ」など名物が生まれた背景も
逸話とともに織り込まれています。
第一章から第十章まで、各章の主要人物が
別の章でも重要な役割を担って再登場します。
時を経た彼らと再会から、
時間の積み重ねを感じさせます。
本の中では、ひとつの建物の中で時が流れていくので、
前の登場人物たちが見てきた場所と
今の話が、続いていることに気が付かされます。
なかでも後に明治村に寄贈された大シャンデリアなどは
素晴らしい描かれ方をしており
今すぐにでも見に行きたい気持ちにさせます
直木賞を取った辻村深月さんが
直木賞の会見場である東京會舘を見事に
小説にしたとても素敵な作品です。
お薦めです。