皆さん、レビー小体型認知症という病気をご存知でしょうか? 認知症の原因疾患の一つで、幻視を大きな特徴とするものです。認知症全体の20%を占めると言われています。
しかし、初期段階では記憶障害(同じ話や質問を繰り返す等)も見られないことが多く、他の病気と診断されたり見逃されたりすることもあります。
難しい病名ですが、試してガッテンなどいろいろなメディアで紹介されてからは、ご家族が「お爺ちゃんは、レビー小体型認知症では?」と疑って受診されることも増えてきました。
今回の記事では、毎月1,000人の認知症外来診療を行う専門医の長谷川嘉哉が、レビー小体型認知症の診断・治療・対処方法をご紹介します。
幻視の症状があるご家族がいる方、パーキンソン病と診断された方、またそのような患者さんを診られる医師の方はぜひ参考になさってください。
目次
1.レビー小体型認知症とは?
認知症とは病名ではありません。認知症という言葉は、消化器疾患、循環器疾患と同様に総称です。
そのため認知症の原因には、いくつもの疾患があるのです。その中でも頻度が一番多いのが、「アルツハイマー型認知症」、次いで「血管性認知症」、そして3番目が「レビー小体型認知症」です。ちなみに、認知症の原因疾患は100以上あるといわれています。
1-1.大脳皮質までレビー小体が拡散した状態で起こる症状
レビー(Lewy)小体とは、神経細胞の内部に見られる異常な円形状の構造物です。レビー小体がたくさん集まっている場所では、神経細胞が壊れて減少するため、情報を上手く伝えられなくなります。脳幹に出現するとパーキンソン病、大脳皮質に広範に出現すると、レビー小体型認知症を引き起こします。
1-2.パーキンソン病に似ているがドーパミンが著効しない
臨床的にはパーキンソン病との鑑別が重要です。その際に重要なことはドーパミンが著効するか否かです。
パーキンソン病患者さんにドーパミンを200㎎少量投与すると、ご家族が分かるほど著効します。一方で、レビー小体型認知症にドーパミンを追加すると、200㎎でも効果がないどころか、意識障害、悪心といった副作用が出現することがあります。
我々専門医が、レビー小体型認知症と思っても、ドーパミンが著効して診断をパーキンソン病に変えることがあるほどです。そのため経過中一度は、ドーパミンを投与して反応を観ることが診断的にも重要です。ちなみにこのような薬の反応によって診断する方法を「診断的治療」と言います。
1-3.認知機能が維持された状態で幻覚を起こす
レビー小体型認知症の特徴は、「幻視」です。通常、アルツハイマー型認知症といった認知症では、物忘れ等の中核症状が進行したうえで、幻視といった周辺症状が出現します。しかし、レビー小体型認知症では物忘れなどがほとんど見られない状態から幻視を訴えることが特徴です。
但し、幻視にも特徴があります。はっきり見えて詳細に解説できる、という点です。
例えば、奥さんに向かって「お前は俺の奥さんみたいな顔をしているが、俺の奥さんではない」といった症状を訴えます。言われた奥さんは困ってしまいます。また、「我が家に見知らぬ家族が住み着いて、勝手に食事をして風呂にも入る」などと訴えたりします。
いわゆる認知症の症状については下記記事を参考になさってください。
2.レビー小体型認知症(DLB)の診断基準
2017年にレビー小体型認知症の診断基準が公開されました。医師の方はこの章で述べる解説を参考になさってください。
2-1.DLBの診断に必須なもの
当たり前ですが、まずは認知症であることです。しかし、初期には明らかな記憶障害は認められないことが多いので注意が必要です。
2-2.中核的な臨床兆候
以下の6項目があるかどうかで、DLBかどうかが見極めやすくなります。以下のうち、最初の3つは初期に起こりやすく、その後も認められます。
- 動揺性の認知機能:記憶障害や記銘力障害といった症状に良いときと悪いときがあります。
- 繰り返し起こる幻視:典型的にははっきりとした形を呈しており、見えているものについて詳しく述べることができます
- レム睡眠行動障害:レム睡眠の時期に体が動き出してしまう睡眠障害です。
- 1つ以上のパーキンソン症状:寡動、安静時振戦、固縮
2-3.支持的(DLBとして矛盾しない)兆候
また以下のような症状が現れることがあります。
- 抗精神病薬に対する過度な過敏性
- 姿勢反射障害
- 繰り返す転倒
- 失神(特に排便後、排尿後)
- 重度な自律神経失調症状:便秘、起立性低血圧、尿失禁
- 過眠
- 嗅覚障害
- 幻視以外の幻覚
- 体系的な妄想
- 不安
- うつ
2-4.DLBを示唆するバイオマーカーの特徴
- SPECTやPET: 基底核でのドパミントランスポーターの取り込み低下
- 123I-MIBG心筋シンチグラフィ: 取り込み低下
- ポリソムノグラフィ: 筋弛緩がないREM睡眠
2-5.DLBを支持する(DLBとして矛盾しない)バイオマーカーの特徴
- CT/MRI: 側頭葉内側が相対的に保たれる
- SPECT/PET: 後頭葉における血流低下や代謝低下
- FDG-PET: cingulate island sign (CIS) (帯状回の一部が島状に保たれる)
- EEG: 後頭葉で目立つ周期的にpre-alphaからtheta帯域で変動する徐波
2−6.以上を検討して判断する
ここで述べた診断基準のもと、Probable(=可能性は非常に高い) DLBは以下の条件のどちらかを満たす時に診断されます。
- 中核的な臨床症状が2つ以上あること。DLBを示唆するバイオマーカーはあってもなくてもよい。
- 中核的な臨床症状が1つあり、DLBを示唆するバイオマーカーが1つ以上ある。
つまり臨床症状が診断において重要なことが分かります。
Possible(=あり得ることだが可能性は半分以下程度) DLBは以下の条件のどちらかを満たすときに診断されます。
- 中核的な臨床症状が1つだけ認められ、DLBを示唆するバイオマーカーがない
- DLBを示唆するバイオマーカーが1つ以上あるが、中核的な臨床症状がない
3.レビー小体型認知症ではないか?と思ったら
物忘れはあるがそれほどひどくない、運動機能もそれなりに維持されている。
なのに、周囲が驚くような幻視を訴える。そんな時は、主治医に「うちの親はレビー小体型認知症ではありませんか?」と聞いてみてください。私の専門外来でも、ご家族からこのように聞かれることは増えています。この質問に対して、不機嫌になったり、怒ったりするよう医師は論外です。
ちなみに、さらに症状が進行すると、認知症が進行し歩行障害等も出現してきます。そのことで介護負担は、急激に重くなります。早い段階でレビー小体型認知症を理解してくれる医師への受診をお勧めします。
4.薬の処方で注意すべき点
レビー小体型認知症の患者さんは、薬に対して過敏であることに注意が必要です。その原因ははっきりしていませんが、脳内の神経伝達物質のバランスが極端におかしくなっており、そのために副作用が出やすいのではと考えられています。以下に例を紹介します。
4-1.抗うつ剤で歩行障害
レビー小体型認知症の患者さんは不定愁訴等を訴えます。そのため、抗うつ剤が処方されることがあります。抗うつ剤は、副作用として運動機能障害を起こすことがあり、歩行が悪化することがあります。
4-2.抗精神病薬で動けなくなる
幻覚を訴えるため、抗精神病薬が処方されてしまうことがあります。レビー小体型認知症に抗精神病薬が投与されると、状態が急激に悪化して、動けなくなることがあります。その際は、早急に中止する必要があります。
4-3.アリセプト増量で悪化
通常は、抗認知症薬アリセプトは3㎎で開始して5mgを維持量とします。しかし、レビー小体型認知症では5㎎では副作用としての攻撃性等が頻回に出現します。
5.私が行う治療方法
レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症などに比べると薬の副作用が出やすいため、内服し始めや薬が増える時には十分気をつけましょう。
5-1.抗認知症薬は、アリセプトでなくパッチタイプがお勧め
抗認知症薬としては、リバスタッチ/イクセロンパッチを使用します。処方が4段階で可能であり、通常の1/4量での治療が可能だからです。また、経過中に嚥下障害が強くなり経口での服薬が難しくなることも考慮して、パッチタイプがお勧めです。
5-2.幻覚にメマリーも有効
アルツハイマー型認知症の幻覚・妄想と言った周辺症状に著効するメマリーを使用することもあります。やはり、通常の維持量20mgに対して、5〜10㎎で症状がコントロールされることが多いです。
5-3.ドーパミンも有効なら少量投与を
本来、パーキンソン病で著効するドーパミンですが、レビー小体型認知症では、少量を使用することで運動機能が著効とまでは言えなくても改善することがあります。この場合もドーパミンを少量で維持します。
6.ご自宅で行える対応方法
薬以外の対応方法をご紹介します。ご家庭でのケアの際に留意なさってください。
6-1.否定しない
患者さんが訴える幻視は、否定してはいけません。決して嘘ではなく、本人にははっきり見えているからです。「嘘だ」「それは実際にはないのよ」と否定しても納得はしてもらえません。それどころか、周りの人が嘘をつき、自分をバカにしていると感じ、怒ったり暴力を振るったりする場合があります。
6-2.話を合わせる
一般的に家族としては、患者さんの幻視は気になるものです。しかし、幻視自体がトラブルになることは思いのほか少ないものです。強く否定せずに、話を合わせていると納得されます。
6-3.歩行障害が出てくればリハビリも
レビー小体型認知症も進行すると歩行障害が出現します。この場合は、通常の疾患と同様に薬だけでなく、リハビリも取り入れましょう。
7.進行の段階
レビー小体型認知症の初期は、認知機能障害が軽度で運動機能も保たれており幻視が中心となります。その後、認知機能障害が出現してくる頃には運動機能も悪化してきます。
このようにレビー小体型認知症が進行してくると、認知症介護と身体介護の両者が必要となるために家族の介護負担は重くなります。
さらに進行すると、ベッド上の生活が主体となり幻視がメインではなく、全身管理が中心となります。とくに食事を上手に食べることができない嚥下障害が強くなり、誤嚥性肺炎も繰り返します。こうなると、胃ろうを導入するかが問題となります。
以下の記事も参照してみてください。
8.診断書にはどのように書くか
レビー小体型認知症はパーキンソン病と診断に迷うことが多くあります。実際にレビー小体が脳幹に留まっているときはパーキンソン病で、それが広範囲に広がったときがこの病になります。
判定が難しいので、診断書ではパーキンソン病の病名を使う(使ってもらう)ことも選択肢の一つです。その理由をお伝えします。
8-1.パーキンソン病なら重症度によっては医療費が安くなる
パーキンソン病であれば重症度のYahrステージがⅢ度(日常生活や通院に介助を要するレベル)以上になると、医療費の自己負担が軽減されます。
8-2.パーキンソン病なら訪問看護・訪問リハビリにおいて医療保険を使うことができる。
通常、訪問看護・訪問リハビリは介護保険を使います。しかし、パーキンソン病であれば医療保険を使うことができます。浮いた分を、介護保険のデイサービス・ヘルパー・ショートステイに使うことができるのです。
9.まとめ
- レビー小体型認知症は認知症の中でも3番目の頻度です
- 薬の過敏性が強いため、服薬の開始・増量の際には注意が必要です。
- 独特の幻視は、問題にならないことが多いため、否定せずの話を合わせてあげましょう。