子供のころ、「絵本の読み聞かせ」を楽しみにしていた方がいらっしゃるのではないでしょうか? 幼稚園の先生に読んでもらったり、家で両親や祖父母に読んでもらったり、いずれも良い思い出です。
そんな「読み聞かせ」が、聞き手だけでなく話し手の認知症予防に効果があることがわかってきました。今回の記事では、月1000名の認知症患者を診察する、専門医長谷川が、話し手にとっての読み聞かせの効果をご紹介します。
目次
1.読み聞かせで認知症予防
先日、以下のような報道がありました。
絵本の読み聞かせを高齢者が行うことで認知症予防に役立つ可能性があることが、東京都健康長寿医療センター研究所(都長寿研、板橋区)の鈴木宏幸研究員らの研究で分かった。読み聞かせの実践で、脳の機能が活性化。記憶や空間学習能力をつかさどる脳の器官である海馬の萎縮率を抑制でき、認知機能の低下に一定の歯止めがかけられたという。
研究は二〇〇四年から開始。都長寿研が開発した読み聞かせプログラムを受講し、その後に読み聞かせ活動を続けた男女十七人(開始当初の平均年齢六六・四歳)のグループと、健康チェックだけを行う男女四十二人(同六八・六歳)のグループに分けて調べた。一人につき六年間追跡、記憶力をつかさどる海馬の容量を磁気共鳴画像装置(MRI)で測定し、六年間の萎縮率を算定した。
海馬は加齢に伴い自然と萎縮するが、萎縮率を抑えられれば認知機能の衰えを軽減できる。結果、読み聞かせグループの平均萎縮率は0・5%に抑えられたが、もう一方は年相応の4・1%と大きく差がついた。
プログラムを活用した記憶力検査も行った。受講した男女二十九人と、そうでない男女二十九人が参加。聞いた短い文章を三十分後にどれだけ正確に話すことができるかをチェックした。プログラムを受けたグループは記憶保持率が受講前の62・7%から受講後には74・0%に向上。もう一方は58・8%から56・7%とほぼ横ばい。鈴木さんは「読み聞かせの訓練で記憶力がよくなった」とみる。(東京新聞 2019/11/20 の記事より)
2.読み聞かせの脳への効果
海馬の萎縮を抑止して、記憶力検査まで改善する「読み聞かせ」は脳にどんな働きをするのでしょうか?
2-1.意欲が起こる
「読み聞かせ」が脳にどのような効果があるかを論じる以前に、この研究に参加した方々の「意欲」が重要になります。どんなに、脳に良いことでも、行動に移さなければ意味がありません。研究に参加された方々は、都長寿研が開発した読み聞かせプログラムを受講し、その後も読み聞かせ活動を続けられたのです。認知症は意欲の低下から始まります。参加しない理由を見つけることは簡単です。しかし、参加者の多くは、自ら意欲を持って参加することで、脳の機能低下を予防したのです。
2-2.脳を広範にフル活動させる
「読み聞かせは」は話しての脳をフル活動させます。まずは、文字を読みます。その際、脳の中では、ひらがな、漢字、カタカナを別の位置で認識します。そして文章をワーキングメモリーによって一時保持します。実は、ワーキングメモリーは加齢により低下しやすいため、読み聞かせはワーキングメモリーのトレーニングにも役立ちます。その後、実際に発声器官を使って声にして聞き手に話しかけるのです。まさに、脳のフル活動と言えます。
2-3.感情表現を工夫する
「読み聞かせ」はただ話せばよいものではありません。そこに、感情をこめたり、抑揚をつける必要があります。そのためには、前もって自宅で練習する必要もあります。そんな地道な努力が脳の機能を改善するのです。
3.話し手が得る心地よさとは
「読み聞かせ」は話し手に「心地よさ」を与えてくれます。
3-1.子供が喜ぶ心地よさ
読み聞かせをしてもらった子供たちは、眼を生き生きとさせ、心の底から喜んでくれます。そうなると、読み手の努力も報われます。そんな時に脳の感情を司る扁桃核が、「快」を感じるのです。
3-2.心地よさが継続
脳の扁桃核が、「快」を感じると、人間は、「快」を求めて継続することができます。お酒やたばこによる「快」もありますが身体には「害」です。しかし、読み聞かせによる「快」は、脳の認知症予防にまでなるのです。
3-3.心地よさが、扁桃核を介して認知症を予防する
認知症は、記憶を司る海馬よりも、感情を司る扁桃核が先に委縮します。従って、感情を刺激するような行動をとれば扁桃核を刺激して認知症を予防できるのです。まさに、「読み聞かせ」は読み手の感情を刺激することで、海馬の萎縮を予防したのです。
4.聞き手の効果
「読み聞かせ」は、話し手だけでなく、聞き手の脳にも良い刺激を与えます。
4-1.右脳をフル活動
現代は、多くの情報に溢れ、どちらかというと左脳がフル活動しています。読み聞かせは、聞き手に想像力を求めます。言葉を聞いて、それを脳の右脳を使ってイメージする必要があります。まさに、右脳がフル活動するのです。
4-2.読書の導入になる
元公立中学校校長、著述家、教育改革実践家の藤原和博さんが、「人生で成功することは簡単です。ゲームをしないで、読書の習慣をつけるだけで良いのです」と言われていました。それほど、読書は重要ですが、子供たちにとってはハードルの高いものです。しかし、「読み聞かせ」から、読書の習慣につながることも多いのです。
4-3.扁桃核が読書を習慣化させる
読み聞かせから、読書の習慣を得た子供たちの扁桃核は、「快」を扁桃核が求めるようになります。そうなると、一生残る読書習慣を得るようになるのです。
5.まとめ
- 「読み聞かせ」は、読み手の認知症予防につながります。
- 読み手の、海馬の萎縮を予防し、認知機能も維持するのです。
- 「読み聞かせ」は、聞き手にも「読書習慣」を得ることにつながります。