認知症の専門外来をしていると、アルツハイマー型認知症の男女比では、女性が多いことを感じます。
調査発表でも、認知症全体では男性の方が多いのですが、アルツハイマー型に限っては女性の方が多いようなのです。これはなぜなのでしょうか。
そして女性患者さんのご主人がとても特徴的なことにも気が付きます。どうやら生活環境面にも原因があるのではないでしょうか。
今回の記事では、毎月1000名の認知症患者さんを診察している長谷川嘉哉が、認知症専門外来での男女比とその理由、予防策についてご紹介します。
目次
1.認知症の種類と男女比について
認知症とは、病気の総称です。認知症の中に種類があり、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症が上位2つを占めます。
男女比は、認知症の全疾患合わせての有病率は 男性が女性の1.6倍、アルツハイマー型認知症の有病率は 女性が男性の1.4倍、脳血管性認知症の有病率は 男性が女性の1.9倍です。(参考資料:平成23年度 筑波大学 朝田隆提出資料 P19(厚生労働省))
認知症の中で最も多いアルツハイマー型認知症は男性より女性に多く見られ、血管性認知症は男性に多く見られるようです。
2.なぜアルツハイマー型認知症は女性が多い?
認知症全体では、男性の方が多いのですが、そのなかにあってアルツハイマー型認知症だけはなぜ女性に多いのでしょうか?
2-1.女性は長生きするから
65歳以上の高齢者の認知症の割合は下記の通りです。
・65~69歳 2.9%
・70~74歳 4.1%
・75~79歳 13.6%
・80~84歳 21.8%
・85~89歳 41.4%
・90~94歳 61.0%
・95歳以上 79.5%
認知症は、年齢とともに雪だるま式に増えています。特に75歳から割合がぐんぐん高くなっています。年齢別にみると、80歳を超えると5人に1人が、85歳を超えるとおよそ2人に1人が認知症と診断されています。
認知症のなかでも血管性認知症は70歳前後が好発年齢であり、アルツハイマー型認知症の好発年齢は80歳前後です。そのため、年を取るほどアルツハイマー型認知症になりやすいのです。
2016年の日本人の平均寿命は女性87.14歳、男性80.98歳です。つまり、女性は長生きをするためにアルツハイマー型認知症になりやすいと言えるのです。
2-2.独善性は配偶者をも認知症にする?
独善とは、「1. 他人に関与せず、自分の身だけを正しく修めること。2. 自分だけが正しいと考えること。ひとりよがり。(デジタル大辞林)」です。この、自分だけが正しいと考えられている方がいらっしゃるのです。
外来をやっていると「このご主人が、奥様のアルツハイマー型認知症の一因ではないか?」と感じることがあります。
アルツハイマー型認知症の女性患者さんのご主人は、とても個性の強い人を多く感じます。とにかく自信家で自己主張が強く、スタッフがご主人に当惑するほどです。診察を待つ間も、始終スタッフに文句を言っていたり、診察室に入ってきたらまずは苦言から始まるということも珍しくありません。
もちろん、本人にそのような自覚はありません。自分は、食事を気をつけ、運動もして完璧な生活を送ってきた。しかし、「妻はいい加減な人間だから認知症になった」などと平気で言います。病気の妻をいたわるどころか、責めているのです。
自分の主張を譲らないことや、自分の考え方を押しつけることは、言い替えれば配偶者の思考を停止させてしまいます。独善性という危険因子が、形を変えて配偶者を認知症にさせてしまうケースがあるように感じています。
なにしろ、女性患者の夫には、あまりに似たような人が多いのです。
2-3.女性ホルモン(エストロゲン)の減少が原因
女性ホルモンの一つ、エストロゲンは、「記憶・学習に関連する神経伝達物質であり、血管拡張作用もあるアセチルコリン」を保護して減少を防いでいます。閉経によって、脳の神経物質を保護していたエストロゲンが急減することで、 アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβが急増するためにアルツハイマー型認知症になりやすくなると考えられています。
以上のような事象が、女性のアルツハイマーを増やす原因になっているのではと考えられます。
3.予防と対策
ならば女性はアルツハイマー型認知症にならないようにするにはどうすれば良いでしょうか?
3-1.夫婦はそれぞれ自立的思考で
女性がアルツハイマー型認知症にならないためには、配偶者(おもに妻)が従属的になりすぎないよう気をつけなければなりません。強い個性の伴侶をもつと、生活の知恵として相手の言い分や態度を無条件で受け入れてしまうのかもしれません。
しかし、それもある意味では意思や思考の放棄につながります。結婚すると、どうしてもお互いの価値観を共有して生きていく必要性が生まれますが、譲るべきでない考え方や価値観まで合わせる必要はありません。
定年を迎えたら、妻と二人で旅行に行きたいなどと考えている人も多いと思います。そのことに異論はありませんが、他力本願的に配偶者に自分の時間を埋めてもらおうと考えているのならば問題です。双方にとって嬉しいこと、刺激になることをしなければ意味がありません。
つまり、お互いの価値を認めあいながらも、それぞれに独立した存在として自分の意思や行動を尊重した方が良いのです。たまに同じ趣味を共有したいという人もいますが、どちらかがいないと続かないような趣味ならば、ただお互いの依存度を深めるだけです。夫婦がお互いに支えあって生きるのは当然ですが、何でも一緒にする、依存しあうという考え方からは離れて生活すべきだと思います。
ちなみに、私の外来で90歳を超えてともに認知症がない素敵なご夫婦がいらっしゃいます。その奥様が夫婦互いに元気なコツは、「自分は自分、あんたはあんた」と言われていました。名言です。
3-2.ご主人から独立して人生を楽しむ
女性ホルモンが減少したら必ずアルツハイマー病になるわけではありません。エストロゲン以外にもアミロイドβから脳を守る力が人体には備わっているからです。アミロイドβを分解する力をフル動員させることができればいいのですが、それには生活習慣が鍵を握ります。積極的に外に出かけて人とコミュニケーションを取り、没頭できる趣味があり、刺激のある毎日を過ごしている人は脳の老化スピードを遅らせることができます。
そのためには、何かするときにいつもご主人にお伺いを立てるような関係は望ましくありません。それぞれが自立して、それぞれが人生を楽しむことが大事なのです。
3-3.人生を楽しむと扁桃核が刺激される
認知症の患者さんでは、記憶を司る海馬より先に感情を司る扁桃核が委縮します。思考停止して感情が刺激されないと、扁桃核が委縮してアルツハイマー型認知症につながるのです。人生を楽しむことで、心地良い感情が芽生え、扁桃核を刺激してアルツハイマー型認知症を予防することにつながるのです。
大きな声では言えませんが、ご主人を失くされた奥様方が、認知症にもならずに元気になるのも、ご主人という不快?な存在が無くなるからかもしれません。ちなみに私の患者さんのなかには、「後家さんの会」があるそうです。皆さん、とてもお元気です。
4.男性の認知症予防策とは
女性の方がアルツハイマーが多いからといって男性は安心してはいけません。認知症全体では男性の方が圧倒的に多いのです。
まずは、70歳前後に好発して、男性に多い血管性認知症に注意しましょう。そのためには、高血圧、糖尿病、高脂血症といった生活習慣病の予防が必須です。
そして、少なくとも奥様の認知症の原因となるような存在にはなりたくないものです。そのためにも、奥様から自立することも大事です。外来でも、奥様がいないと食事も作れない、掃除・洗濯もできない、お金の管理もできない方がいらっしゃいます。これでは、社会人として自立していませんし、なにより認知症にまっしぐらです。
5.まとめ
- 認知症全体では、男性の方が多いのですが、その中でアルツハイマー型認知症は女性に多い
- 原因として、女性が長生きすることもありますが、ご主人が一因かも?
- 夫婦とも認知症にならないためには、「自分は自分、あんたはあんた」がコツなようです。