高齢者の自粛警察は、早期認知症が原因の可能性もある?【専門医が指摘】

高齢者の自粛警察は、早期認知症が原因の可能性もある?【専門医が指摘】

令和2年8月末、いつものように殆ど人もいない、猪高緑地公園をトレッキングしていたときの話です。密でもなく、気温も高かったので自分はマスクをしていませんでした。そんな時、60~70歳頃と思われる男性が、猛暑のなかマスクをして歩いていました。そして、通りすがりに私に向かって「マスク!」と怒鳴りつけて、立ち去っていったのです。

逆に、暑さの中マスクをして歩いている男性に、「熱中症が大丈夫?」と感じるとともに、「早期認知症では?」と不安になってしまいました。今回の、記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、コロナ禍のなか、「高齢者の自粛警察の原因は早期認知症の可能性もあるのでは?」という理由をご紹介します。

1.自粛警察とは?

自粛警察とは、新型コロナ禍による緊急事態宣言による外出や営業などの自粛要請に応じない個人や商店に対して、偏った正義感や不安感から、個人的に取り締まりや攻撃を行う行為や風潮を差します。同じような言葉として、私が出会ったマスク警察正義中毒と呼ばれる言葉もあります。

新聞などでは、「公園で遊んでいた親子連れを男性が威嚇」、「営業していたライブバーに警察を呼ぶと張り紙」、「県外ナンバーの車を石で破損」、「パチンコ店の来店客への過度な非難」などという事例が報道されています。

私の近くのデイサービスからも、スタッフの一人が新型コロナウイルスに感染した際、全く関係ない近所の高齢男性から、「感染が広がったら責任を取れ!」と罵声を浴びせられた話を聞いています。

2.1000万人いる早期認知症とは?

早期認知症とは、健常者と認知症の中間にあたり、MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)と言います。65歳を超えた人の中では7人に1人がMCI患者さんと言われ、全国で400万人いると予想されていますが、私の実感では1000万人ほどと思われます。

MCIの特徴として、通常認知症検査で行われる側頭葉機能を測定するMMSE検査の数値は正常ですが、前頭葉の機能が低下している状態です。通常の生活はちゃんとできているのに、時々驚くような「おかしなこと」を言ったり、「おかしな行動」をするのです。もっと簡単に言うと、「すごく変ではないが、ちょっと変」です。

ちなみに、MCIを放置すると、認知機能の低下が続きます。MCIから認知症に進行する人の割合は年平均で10%と言われています。すなわち5年間で約40%の人は認知症へとステージが進行することになります。

3.前頭葉機能低下が自粛警察を引き起こす

Medical illustration of cross section of brain
前頭葉とは文字通り、脳の前の方にあります

前頭葉機能の低下をしめすMCIがなぜ、自粛警察を引き起こすのでしょうか?

前頭葉機能とは、「論理的思考」と「理性のコントロール」が重要な働きです。従って、前頭葉機能が低下すると、論理的思考ができないため理屈が通りません。「新型コロナウイルスには誰もが感染する可能性があり、決して感染した人が責められるものではない」ことも理解できません。もちろん、「猛暑の中ではマスクはかえって熱中症の危険がある」という理屈も通りません。

その上、理性がコントロールできないため、自分の間違った意見が通らないとすぐに怒りだします。「社会のため」「みんなを守る」という「正義感」と勘違いしているから手に負えません。

つまり、MCIの方は、理屈が通らない上に、すぐに怒る。まさに「自粛警察」ではないでしょうか?


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4.自粛警察以外の症状とは

Angry driver
少々のことでイライラしてしまい、堪えることができません

MCIの患者さんには、自粛警察以外の症状もあるので注意が必要です。

4-1.待てない

MCIの患者さんは、待つことができません。以前レストランで、いきなり「デザートが出るのが遅い!帰る!」と言って立ち去った高齢男性を見かけたことがあります。私の外来でも、待ち時間が長くて怒られる方の殆どは、MCI患者さんです。お話を伺うと、特に理由があるわけでもないのに、待たされるとイライラして、怒り出してしまうのです。

4-2.俺は聞いてない!

銀行の窓口で、怒っている高齢者の方を見かけることもあります。「俺は聞いてない!」これが彼らの得意な言葉です。そのため、MCIのいる家族の中には、親子喧嘩をして親子断絶になっているケースが多く見られます。

4-3.騙される

MCI患者さんは、一見正常です。しかし、正確な判断ができないため騙されやすいのです。一方で、契約書類のサインや、引落口座の手続きも程度は普通にできてしまうため騙されやすいのです。認知症にまで症状が進行すると契約書にサインをしたり、引落口座の手続きなどができなくなるために、騙すことさえできなくなるのです。

5.対応方法

MCIの患者さんにはどのように対処すれば良いのでしょうか?

5-1.怒る前に深呼吸

MCIの患者さんは、認知機能は比較的維持されています。従って、誰かがきちんと「前頭葉機能が低下して、論理的思考が低下し、理性がコントロールしずらくなっている」と説明すると理解することが可能です。外来では、「怒りたくなったら、深呼吸をしてください」とアドバイスしています。これらの説明とアドバイスで半数の方は効果があります。

5-2.逆に怒ってしまったら治療も必要

説明をしても効果がない場合は、MCIでもアルツハイマー型認知症に準じた治療を行います。抗アルツハイマー薬には、アクセル系をブレーキ系があります。アクセル系(アリセプト、リバスタッチパッチ、レミニール)の薬を使用すると、火に油を注ぐようにさらに悪化するので注意が必要です。この場合は、ブレーキ系のメマリーか漢方の抑肝散を使用します。詳しくは、以下の記事も参考になさってください。

5-3.運転には要注意

MCIの方は、75歳以上の免許更新時の試験では、通ってしまいます。しかし、前頭葉機能が低下すると突発的判断も鈍くなるため、運転は避けることが賢明です。但し、家族の意見を聞いてくれないことも多いため、違反や事故を起こした場合は、主治医にお願いして公安委員会に連絡をしましょう。詳しくは、以下の記事も参考になさってください。

6.まとめ

  • MCIの患者さんは、理屈が通らない上に、すぐに怒る、まさに「自粛警察」です。
  • MCIの患者さんは、私の印象では1000万人はいることが予想されます。
  • MCIの患者さんの症状があまりにひどい場合は、抗認知所薬のメマリーの使用も必要です。
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