手の震えはパーキンソン病?何科を受診?重大な病気か判る7つの知識

手の震えはパーキンソン病?何科を受診?重大な病気か判る7つの知識

手の震え(ふるえ)”は見かけ上も目立つだけでなく、日常生活のうえでも不便なことがあります。例えば、「手がふるえて字が書きづらい」「コップをもっていると水がこぼれてしまう」というような悩みをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。また、手のふるえがパーキンソン病という病気の初期症状の一つだと知って、心配になっている方もいらっしゃるかもしれません。

症状が出た場合には、医師の診察を早めに受けることが大切です。病名を知るだけで不安も払しょくされることもあります。でも、いざ医師に診断をつけてもらって治療しようと思っても、どの科にかかったらよいかわからないことも多いかと思います。

今回は、そのような方のために脳神経内科医である長谷川嘉哉が、ふるえの原因、ふるえの種類、何科にかかったらよいか、についてご紹介します。

目次

1.手のふるえ 最も多いものは

手のふるえは、医学的には“振戦(しんせん)”と言います。ふるえは無意識のうちに、筋肉の収縮と弛緩が繰り返されたときに起こります。手のふるえのうち一番多いものが、生理的振戦です。精神的緊張があるときや寒いとき、物を持ったときに細かくふるえる状態は誰にでもみられるものです。

時々、手の指の細かい震えを気にする人がおられますが、膝の上に手を乗せるとピタリと止まるはずです。これらを病気と考えて悩むことはありません。日常生活に支障がなければ治療の必要もありません。

Senior Woman Suffering With Parkinsons Diesease
膝の上に手を置いて震えが止まるようであれば、病気ではないと考えてよいでしょう

2.ふるえの種類

一口にふるえ(振戦)と言っても、種類があります。

2-1.安静時振戦

安静時(筋肉の随意収縮がまったくない状態、手を膝の上に置いたときなど)に見られ、動作によって減弱します。パーキンソンの代表的な症状です。但し患者さんが意識をすると、手のふるえが収まってしまいます。ですので診察時には、手のふるえを意識させないために、他の質問をしてみて気を逸らしておいて、そのときに手のふるえがあるかどうかを観察しています。

2-2.姿勢時振戦

安静にしている時には振戦はなく、ある姿勢を保つ時に出現します。あとでご紹介する、原因のわからない本態性振戦の代表的な特徴です。

2-3.企図振戦

安静時には出現せずに、動作を起こす時に生じる振戦です。脊髄小脳変性症、小脳梗塞、小脳出血等の小脳疾患が代表的です。

3.本態性振戦とパーキンソン病

手のふるえで受診された患者さんは、パーキンソン病を心配されている方が多く見えます。そこでふるえの診察は、本態性振戦とパーキンソン病を区別することから始まります。本態性振戦はふるえのみを症状とする病気ですが、パーキンソン病にはふるえ以外にもいろいろな症状があります。ふるえの特徴では、パーキンソン病のふるえはじっとしているとき(安静時)にみられ、本態性振戦のふるえは、コップを持つなど一定の姿勢を保とうとするとき(姿勢時)にみられるという違いがあります。

3-1.本態性振戦

本態性振戦とは、”原因の不明な”振戦という意味です。高齢者のふるえとしては最も多く人口の2.5~10%を占めるといわれています。「お年寄りのふるえ」といったときに通常イメージするのは、このタイプの振戦です。本態性振戦は動作をしたり、じっとして安静にしている時には起きませんが、手などに力をいれたとき、ある姿勢をとったときなどに起こりやすいという特徴があります。例えば、ものをとったり、字を書いたり、細かいことをしようとしたときにふるえます。

本態性振戦では、ふるえ以外の症状が出ないのが特徴です。ふるえ自体は経過とともに悪くなる場合もありますが、あまり変わらないものもあります。最初は手だけにあったふるえが、首を揺らしたり、人前で話すと声がふるえたりと、広がることもあります。

生活に支障をきたす場合は、治療として、高血圧や狭心症などの治療によく使用されているβ遮断薬が処方されます。ちなみに、本態性振戦のふるえは、飲酒によって症状が軽くなります。しかし、お酒を飲んでふるえを抑えることは、アルコール中毒につながりますから絶対に避けてください。


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3-2.パーキンソン病

パーキンソン病の4分の3くらいの症例では、ふるえから症状が始まります。パーキンソン病では、進行するとともに手がふるえるだけでなく、動作がゆっくりになる、筋肉がこわばる、バランスがとりづらくなる、など様々な運動症状が出てきます。

パーキンソン病の典型的なふるえは、リラックスしているときに起きやすいので、安静時振戦と呼ばれます。通常、体の片側からはじまって両側に及んできます。手にはじまることが多いですが、足に出ることもあります。手に出現するときには「丸薬を指で丸めるときの動き」に似ています。

parkinson-symptoms
パーキンソン病の代表的な症状

4.ふるえを生じる主な病気

本態性振戦とパーキンソン病を鑑別しながら同時に以下の病気の可能性も検討します。

4−1.甲状腺機能亢進症

バセドウ病とも言います。のどの近くにある甲状腺が過剰に働いて甲状腺ホルモンを作りすぎるために起きる病気です。手先に細かいふるえがみられます。主に内分泌の先生が専門ですが、当院には手のふるえを主訴として受診され、この鑑別の結果、甲状腺機能亢進症の診断を受けた方がたくさんいらしゃいます。ですので神経内科でも診断できます。その他の主な症状として、発汗、頻脈(脈が速くなる状態)、イライラ、軽度の眼球突出などがみられます。

Human Thyroid Gland Anatomy Illustration
甲状腺の位置と形

4−2.アルコール依存症

以前は慢性アルコール中毒と呼ばれていました。俗にはアル中と呼ばれています。アルコールの常習飲酒の段階を通りこすと、アルコールが切れてきたときにふるえがでてきます。アルコール依存症の期間が長引いてくると常に手がふるえるようになってしまいます。

Uncontrolled consumption of alcohol
この手のふるえはご本人も心当たりがあることが多いでしょう

4-3.小脳疾患

小脳の病気があると、いろいろな動作をしたときにふるえが起きやすくなります。例えば、ものを取ろうとしたときに、そこにまっすぐ手がいかず、途中で軌道ががたがたと揺れたり、目標に到達する直前に、手がふるえてなかなか取れないこともあります。

小脳の梗塞や出血、その他脊髄小脳変性症で見られます。ちなみに脊髄小脳変性症は、一人の若い女性が中学生の時に発症した実話『1リットルの涙』が、書籍、映画化、テレビドラマ化されました。

5.何科を受診?

手のふるえが心配なときに受診する科は神経内科です。似ているようですが、脳神経外科、心療内科、精神科ではありません。あくまで神経内科です。

ただし、この神経内科ですが、2017年9月16日開催の平成29年度第4回日本神経学会理事会にて、学会として標榜診療科名を「神経内科」から「脳神経内科」に変更することを決定しました。そしてこの決定は、2018年1月8日に開催されました社員総会でも報告されました。

標榜診療科名変更のねらいは、神経内科の診療内容をよりよく一般の方々に理解していただくことにあります。わが国で診療科として「神経内科」の標榜が認可されたのは1975年です。しかし、いまだに心療内科や精神科と混同されることがある一方、脳卒中や認知症などを専門的に診療する科であることが広く知られていません。脳神経内科という名称に変更することにより、脳・神経の疾患を内科的専門知識と技術をもって診療する診療科であることがわかりやすくなります。

以上の理由でこれからは、手のふるえは「脳神経内科」を受診するようにしましょう。

6.薬以外の対応

ふるえは薬などの治療だけではなく、普段の生活で気をつけることでやわらげることもできます。精神的な影響を受けやすいので、緊張するとひどくなることが多いです。リラックスして、緊張をおさえることも症状の改善につながります。カフェインなどの刺激物は症状を悪化させやすいので、ふるえのある人はコーヒーなどの飲料は飲みすぎないように気をつけましょう。

7.まとめ

  • 手のふるえの原因の多くは、生理的振戦もしくは本態性振戦であり、心配はありません。
  • しかし、安静時にふるえがある場合は、パーキンソン病を疑います。
  • いずれにせよ、手のふるえは専門である脳神経内科(いぜんの神経内科)を受診しましょう。
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