手のしびれに痛みも伴ったら、パンコースト腫瘍の可能性も考慮して鑑別に

手のしびれに痛みも伴ったら、パンコースト腫瘍の可能性も考慮して鑑別に

先日、タレントの「劇団ひとり」さんが、 左腕のしびれと鈍痛で病院に受診したところ、結果は「首の骨が神経を圧迫してるだけだった」と報告されていました。(出典:Yahooニュース「劇団ひとり 首の骨が神経を圧迫…左腕にしびれと鈍痛があり検査」)

脳の病気を心配されていたようなので、本人としては安心されているようです。しかし、脳神経内科医としては、「首の骨が神経を圧迫しているだけ」との表現には、少し違和感があります。

私には、パンコースト腫瘍にまつわる患者さんの記憶があります。パンコースト腫瘍とは肺尖部(肺の一番上)の腫瘍が、周囲に広がり、その部位の神経を侵すことで多彩な症状を引き起こす疾患です。肩や腕のしびれに始まり、痛みを伴うことが多いのです。

右肺上部(向かって左側)にできたパンコースト腫瘍。鎖骨の影響で見にくいが、反対側と比較すると明確に違いがわかるります(日本呼吸器学会雑誌第47刊第10号)
BRACHIAL PLEXUS=腕神経叢(神経の束)です。ここに腫瘍が当たるために痛みやしびれを発生させます(出典:Wikipedia英語版

私が経験した患者さんは、地域の基幹病院に手のしびれと痛みで受診。頭部CTや頭部MRIにも異常がないため、鎮痛剤で様子観察されていました。しかし症状が変わらないため、当院を受診。私は待合室での苦痛様の表情に、パンコースト腫瘍を疑いました。まずは胸部単純XPを撮影。通常、XP(X線写真)では、鎖骨などの影響で肺の影が見にくいのですが、その目で見ると何かがあります。

「手のしびれで、胸の写真?」と不思議そうな患者さんを説得して、胸部CTを施行。肺尖部の腫瘍が、頚髄にまで広がっていました。しびれだけでなく、痛みも相当であったと思われました。すぐに、基幹病院に再受診をしていただきましたが、約3か月後にお亡くなりになりました。

その際に遺族の方が、お礼にといって、素敵な陶器の傘立てを持ってきてくださいました。当院としては何もしてあげることができなかったのですが、診断がついたことで本人も家族も覚悟ができたとのことでした。今でも、その傘立てを見るたびに、その患者さんを思い出します。

劇団ひとりさんは、パンコースト腫瘍ではないと思いますが、「首の骨が神経を圧迫しているだけ」に思わず反応していしまいました。医師だけでなく患者さんも、手のしびれに痛みを伴う場合には、パンコースト腫瘍も念頭に置いてもらいたいと思います。

 

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