認知症患者さん462万人、早期認知症400万人の時代です。数字からも、かなりの頻度で夫婦のいずれかが認知症になります。そうなると、どちらが先に認知症になるかで介護スタイルは変わってきます。外来で見ている限り、妻が先に認知症になると、男性の介護スタイルは一定の傾向があります。一言でいうと、“命がけ”です。
これは料理でも同様ですが男性は、取り組み始めると手が抜けません。献身的に奥様に尽くされます。何を着てよいか分からなくなった奥様に、きちんとした服を着せてこられるご主人も見えます。もちろん、すべての家事も奥様の代わりにこなされています。まじめに取り組みすぎるため、介護サービスも使わない。もちろん子供達にも助けを求めなくなります。その上、妻の認知症が進行して周辺症状が出現すると、攻撃性や妄想がすべてご主人に向かいます。それでも、ご主人は黙って、認知症である妻を受け入れるのです。その態度は、献身的というより修行僧のようです。その結果、過大なストレスを一人抱え込んで“突然死”してしまうのです。そんな患者さんが当院だけでも10名近くいました。その後は、ご主人一人で介護を抱えていたため、他の家族が引き継ぐこともできません。結果として、奥様は施設に入所となることが多いようです。
妻が認知症になったとき、多くの男性は責任を感じるのでしょう。妻に十分尽くせなかった、逆に負担をかけすぎたからと反省するようです。その結果、男性はまさに命を懸けて介護して、散っていくのです。その点、女性が介護のする場合は、どこか冷めています。看られるところまでは看る。無理になったら他人や介護施設に頼む。専門医の立場でも、やはり誰か一人が人生をかけて介護をする時代ではありません。しかし、これも悲しい男性の性なのかもしれません。