我々医師は、高齢者の方が38度以上の発熱を起こした場合、肺炎、腎盂炎、胆嚢炎を疑います。その中でも、胆嚢炎は、抗生剤の効果が出づらく治療に苦労します。
胆嚢炎の原因となるのは「胆石」です。実は多くの人が持っているといわれ、若くて小さいうちは「今は慌てて手術することはない」と言われることがほとんどでしょう。
それが高齢になって、体の機能が弱くなってきたときに、胆嚢炎が頻発するようになると、医師としても為す術が少なくなるのです。どうして高齢者の胆嚢炎治療は難しいのでしょうか?
今回の記事では、総合内科専門医の長谷川嘉哉が、高齢者の胆嚢炎を防ぐ「胆石手術」の適応についてご紹介します。
目次
1.急性胆嚢炎とは
急性胆嚢炎は,数時間で発生する胆嚢の炎症で、通常は胆嚢結石(胆石)が胆嚢管を閉塞することで発症します。
1−1,胆嚢の機能
胆嚢は容積30〜50㎖程度の袋状の臓器です。肝臓で作られた胆汁は胆道(肝内胆管、胆嚢、総胆管)を通って十二指腸に流れます。胆嚢は胆汁をいったん貯え、濃縮します。
胆汁は、脂肪を水に溶けやすくする働きがあります。十二指腸に脂肪分の多い食物が流れてきた時に、胆嚢は収縮して、貯えた濃縮胆汁を総胆管を経由して十二指腸に排出します。その結果、胆汁と接触した食物中の脂肪分は水に溶けやすい物質に変わり、小腸で吸収されます。このように胆嚢は脂肪の分解、吸収を助ける働きをしています。
この胆汁の成分が固まって、胆嚢内や胆管内にたまったものが胆石です。
1−2.胆嚢炎の症状
症状としては右上腹部の疼痛および圧痛です。同時に発熱,悪寒,悪心および嘔吐を伴います。腹痛に伴って、熱も出て、嘔吐もあると水分や食事の摂取も不可能になることが多くなります。そのため、高齢者の場合は、さらに脱水症状が加わることになります。
1−3.治療方法
治療は、入院・安静・絶食、点滴、抗生剤治療が基本になります。高齢者の場合は、これだけで認知症が進行したり、下肢の筋力低下によって日常生活動作が低下します。
治療としては、胆嚢にたまった感染胆汁を細い管で体外に排出するドレナージなどがありますが、根治するためには開腹もしくは腹腔鏡下で胆嚢をまるごと切除する必要があります。
「悪いのは胆石だから、手術によって胆石を取り出すだけではだめなの?!」と質問されますが、胆嚢自体をとらなくてはいけません。一度胆石ができた胆嚢は結石ができやすい環境になっているため、胆嚢摘出術により胆嚢結石ができる場所をなくしてしまう必要があるのです。
2.胆石を持つ人は多く、症状を起こす人も多い
急性胆嚢炎は胆石症で最も頻度が高い合併症です。逆に、急性胆嚢炎患者の95%以上に胆石症が見られるものです。具体的には、胆嚢管に結石がはまり込んで、長時間にわたり閉塞が生じた結果として急性炎症をおこすのです。
統計学的に見れば、1年のうちに胆嚢結石保有者の2~3%が合併症(急性胆嚢炎・胆管炎・黄疸など)を引き起こし、最終的に保有者が症状を起こす確率は15~50%です。その結果、経過に関わらず胆嚢摘出に至る確率は20~40%程度とされています。
3.症状のない胆石症(無症候胆石)はどうする?
基本的には、無症状の胆石は経過観察と定期的フォローアップでよいとされています。一方で、無症候性でも手術されるケースもあります。特に最近では、高齢化に伴った発症時のリスク、低侵襲の腹腔鏡下胆嚢的手術の確立と高い安全性などから、手術を勧められるケースも増えてきています。
3-1.無症候性胆石の絶対的適応
以下の場合は、症状がなくても手術の適応になります。
- 先天性の奇形である総胆管合流異常の場合、、総胆管嚢腫がある場合
- 胆石が充満したり、胆嚢壁の肥厚、石灰化萎縮胆嚢などがあり、胆嚢壁の観察が不十分な場合
- 胆嚢に機能的異常がある(胆嚢が造影されない等)場合
- 胆嚢癌の合併が疑われる場合
3-2.無症候性胆石の相対的適応
以下の場合は、状況によっては手術の適応になります。
- 多数の小結石で発症のリスクが高いと思われる症例
- 他の疾患を合併しており、発作時や緊急手術のリスクが高い症例
- 経過観察にて胆石が増加、増大してくる場合
- 病態を納得した上で患者さんが希望する場合
4.高齢者が胆嚢炎になると
絶食・安静を必要とするため、その入院を契機に患者さんの日常生活動作が低下することが多いものです。胆嚢炎の主たる原因である胆石に対する手術も、高齢者になるとリスクを負うためできないこともあります。その結果、胆嚢炎を繰り返し、入退院を繰り返すうちに全身状態が悪化することもあるのです。
私の患者さんのケースです。92歳ですが、認知症もなく、運動機能も正常でとても元気な方でした。以前から胆石を指摘されていましたが様子観察していました。最近、急性胆嚢炎を発症。高齢のため手術適応はなく、入院して安静絶食のうえ抗生剤治療。退院するも数週間で再発作。再び入院。結果、認知症の症状も出現してきたのです。さらには下肢筋力低下で歩行も不安定となってしまいました。
つまり、胆石を放置していたために、急性胆嚢炎により全身のダメージを受けたことになるのです。
5.症状のない胆石を持つ人が心がけること
ならば、この92歳の女性をはじめ、胆石を持つ人はどうすれば良かったのでしょうか?
5-1.定期的な検査
胆石が指摘された場合、1年に1回は、定期的に腹部エコーの検査を行いましょう。検査結果の経過をみて、胆嚢壁の肥厚や胆石の増大を認める場合には手術を検討しましょう。
もちろん、腹部エコーの検査もしたことがなく、胆石の有無もはっきりしない方は、一度は検査をしましょう。腹部エコーは、まさに痛くも痒くもない検査です。お勧めです。(会社の定期検診のなかに含まれていることも多いです)
5-2.胆石によって痛みの症状が出てきた場合は、早めの手術
胆石によって痛みの症状が出てきた場合は、早めの治療・手術をおすすめします。痛みを我慢することは大変なことですし、胆嚢が腫れあがったり、周りの組織に癒着が起こったりすることもあります。また、胆石による痛みの発作は1回生じると何度も繰り返すことが多い症状です。
ただし、今までも述べてきたように、高齢であると症状が出ても手術自体が適応で無くなるのです。
5-3.元気なうちに手術も検討しよう
確かに、無症状の胆石症の場合は基本的に手術適応ではありません。しかし、これらからの高齢化時代を考えると、全身状態の良いうちに胆石をとってしまうことも必要に思われます。
一度、主治医に相談し、手術も検討しても良いかもしれません。(いわゆる、病態を納得した上で患者さんが希望する相対的適応となります。)
6.まとめ
- 胆石は、急性胆嚢炎の大部分の原因です。
- 高齢で急性胆嚢炎を繰り返すと、手術もできず全身状態が悪化します。
- これからの高齢化時代。仮に無症状でも、腹部エコー所見によっては侵襲の少ない手術を検討することも必要です。