皆さん、想像してみてください。突然、手や足がスムーズに動かなくなったとき、不安になりませんか? 生命の危険をも感じるかもしれません。「麻痺」を感じた時にどうすればいいのか、急にはわからないのではないでしょうか? 事実、手足の動きが悪くなる原因は多彩です。緊急受診が必要な場合もあれば、じっくり専門医の診察を受ける必要があることもあります。または、様子見で改善する場合もあります。
今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、麻痺の簡単な鑑別方法とそれぞれの対応方法をご紹介します。
目次
1.救急性の高い麻痺の特徴
特に、緊急で受診する必要がある特徴をご紹介します。
- 徐々にではなく、突然、手もしくは足が動かない。
- 片側の手が動かない。
- 手足の動きの悪さに、喋りにくさやしびれも伴っている
以上のいずれかが当てはまる場合はすぐに救急車を呼んでください。脳出血や脳梗塞といった脳血管障害の可能性が高いです。
2.じっくり検査を受けるべき麻痺の特徴
- 突然ではなく、徐々に手足の動きが悪くなっている
- 両手、もしくは両足の動きに、十分に力が入らなくなっている。感覚が鈍く感じてきている。
- 喋りにくさや、しびれも伴っていない。
以上の場合は、あえて救急受診をする必要はありません。そもそも、徐々に進行しているわけですから、平日の昼間に専門医の受診を受けたほうが無駄な受診をする必要が無くなります。ちなみに、最初に受診すべき科は、脳神経内科もしくは脳外科がお勧めです。間違っても最初に整形外科を受診することは避けましょう。
3.麻痺とは?
麻痺とは、中枢神経あるいは末梢神経の障害により、身体動きが悪くなる状態をいいます。例えば運動しようとしても、手足などに十分な力の入らない、手足の感覚が鈍く感じる状態(不全麻痺)や、まったく動かすことができなかったり感覚がまったく感じられない状態(完全麻痺)をいいます。麻痺の分類には、運動神経が障害される運動麻痺と、感覚神経が障害される感覚麻痺があります。
4.セルフでできる麻痺の診断
手足の動きの悪さは、余程動きが悪くならない限り診断は難しいものです。そこでご家庭でもできる麻痺の診断をご紹介します。
4-1.両手の平を上に向けて、目をつむる
これは、神経学的所見では「バレー徴候」といいます。上肢や下肢に軽度の運動麻痺がある場合に現れる徴候です。 まず、両腕を、手のひらをを上にして肘を伸ばしたまま前方に挙上し眼を閉じます。すると、麻痺のある腕は次第に下りてきます。
4-2.腹ばいで膝関節を135度に維持
バレー徴候の下肢版です。腹ばいで膝関節を床面からもち上げさせて135度で維持させると、麻痺側の下肢は次第に下りてきます。自分では判断しにくいので、第三者にみてもらうほうがいいでしょう。
4-3.指先の巧緻運動の確認
これは目を開けた状態で、両手の親指と人差し指をタッピングします。軽度でも麻痺があると、麻痺側の動きがスムーズに行えないものです。
以上の診断方法は、脳神経内科専門医でも外来で行いますので、参考になさってください。(逆に専門外の先生は、これらを行わずに軽度の麻痺を見逃すこともあるのですが・・)
5.麻痺の種類
麻痺は、出現する部位によって以下に分類されます。
5-1.単麻痺
四肢のうちの一肢のみが、動かなくなります。原因としては、脳梗塞・脳腫瘍(皮質~内包部)、多発性硬化症、単神経麻痺、椎間板ヘルニアなどがあります。
単麻痺で特に多いのが、圧迫による単神経麻痺です。泥酔状態で不自然な格好で寝込んでしまうと、神経が圧迫されて麻痺してしまうことがあります。有名なのは、上腕の下三分の一のところで橈骨神経が圧迫され、手の甲がシビレて手首が上がらなくなります。
ちなみに脳神経内科医のなかで有名な単麻痺に、「Saturday night palsy」と呼ばれものがあります。「土曜の夜の麻痺」と言って土曜の夜に恋人を腕枕をして寝て起きたら腕がしびれて動かなかったという実話からつけられた「橈骨神経麻痺」の別名です。別名、ハネムーン症候群とも言われます。
5-2.片麻痺
四肢のうち、一側の上下肢が動かなくなります。主な原因疾患は、脳血管障害、脳腫瘍、硬膜下血腫、脳炎などです。脳血管障害は、急激に症状が完成しますが、脳腫瘍の場合は、徐々に症状が進行するという違いがあります。
5-3.対麻痺
四肢のうち、両側の下肢が動かなくなります。実は、解剖学的に両上肢だけが動かないことはあり得ません。この場合、必ず下肢の動きも悪くなるからです。主な原因疾患は、事故による胸・腰髄損傷、脊髄炎、多発性硬化症、脊髄空洞症、筋萎縮性側索硬化症、ギランバレー症候群などがあります。
現実にもっと多いのは、交通事故による腰椎損傷です。パラリンピックの車いすバスケットの選手などに多く見られます。
5-4.四肢麻痺
四肢のうち、両側上下肢、全部が動かなくなります。主な疾患は頸髄損傷、多発性脳血管障害、多発性硬化症、脳炎、脳腫瘍、後縦靭帯骨化症、頸部脊柱管狭窄症、脊髄空洞症、脊髄炎、ギランバレー症候群などです。
この疾患になると、頭はクリアですが四肢が動かないため寝たきり状態で在宅で生活されていることも多いものです。私は、以前在宅で10名の四肢麻痺患者さんを診ていました。その10名全員が飲酒後に階段から滑り落ちたことによる頚髄損傷でした。
お酒を飲んで酔っ払う機会の多い方は注意が必要です。
6.高度障害に適応する麻痺
生命保険の死亡保険で高度障害が認定されると、死ななくても死んだときと同じ保険金が支払われます。ちなみに、生命保険の高度障害の基準と、住宅ローンの支払い免除の基準は同じです。つまり、高度障害が認定されれば、住宅ローンも免除されるのです。高度障害保険金は、約款所定の高度障害状態に該当し、かつ回復の見込みがないときに支払われます。
その際の高度障害の適応が麻痺の種類によって異なるので注意が必要です。
- 高度障害に適応:対麻痺、四肢麻痺
- 高度障害の適応外:単麻痺、片麻痺
同じ、手足が動かない場合でも、組み合わせによって、高度障害になったり、ならなかったします。保険営業マンも、知らないことが多い知識です。詳細は以下の記事を参考になさってください。
7.まとめ
- 麻痺には、緊急性があるものがあります。この場合は救急受診しましょう
- 緊急性がない麻痺は、平日の昼間に脳神経内科もしくは脳神経外科の専門医の受診をお勧めします。
- 麻痺の組合せによって、生命保険の高度障害に適応に違いがあります。