在宅診療で大活躍するパルスオキシメーター…自宅に常備するメリットを在宅専門医が解説

在宅診療で大活躍するパルスオキシメーター…自宅に常備するメリットを在宅専門医が解説

当院では20年以上前から訪問診療を行っています。現在では、月に2000件程度の訪問をしています。訪問診療では、外来のように胸部XPや心電図を取ることができません。そんなときの強い味方が、パルスオキシメーターです。簡単に持ち運ぶことができ、多くの情報を得ることができます。今回の記事では、パルスオキシメーターを自宅でも常備しておくメリットを在宅専門医の長谷川嘉哉が解説します。

1.パルスオキシメーターとは?

パルスオキシメーターとは、赤い光の出る装置(=プローブ)を指に挟むことで、動脈血の酸素飽和度(=SPO2)と脈拍数を測定する機械です。呼吸により取り込まれた酸素は、赤血球に含まれるヘモグロビンと結合して全身に運ばれます。酸素飽和度(=SPO2)とは、動脈血を流れている赤血球に含まれるヘモグロビンの何%が酸素に結合しているかを、皮膚の表面から測定した数値です。プローブにあるセンサーが、動脈の血流を検知して、光の吸収値から酸素飽和度(=SPO2)を表示します。一般的には96~99%が正常値とされています。

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2.パルスオキシメーターでどんな異常がわかるの?

パルスオキシメーターでは、以下のような異常を見つけることができます。

2-1.血中の酸素濃度の低下

在宅においては、簡単に胸部XPや心電図を取ることはできません。そのため、診察の際には、必ずパルスオキシメーターで酸素濃度を測定します。肺炎や心不全によって、数値が低下するので貴重な情報となります。特に、酸素濃度が90%以下の場合は、同時に血液検査も行い、緊急性に応じて入院もしくは点滴治療を考慮します。なお、至急の血液検査では、炎症反応をしめすCRP、WBC、さらには心不全で上昇するBNPを測定します。なおBNPについては、以下の記事も参考になさってください。

2-2.脈拍数

脈拍数の正常は、1分間に60~100回です。脈拍数が60回/分以下を徐脈、100回/分以上を頻脈と言います。特に、40回/分以下、もしくは120回/分以上の場合、早急に精密検査・治療が必要です。脈拍については、以下の記事も参考になさってください。

2-3.不整脈の有無

パルスオキシメーターでは、脈の不整もわかります。通常、脈が整の場合は、脈拍の数値は一定です。しかし、不整脈の場合は、数字が50回/分から80回/分になったり、不安定になることで分かります。以前から不整脈があり、症状もない場合は様子を観察しますが、初めて不整脈が認めて、息苦しさなどの症状がある場合は、精密検査・治療が必要です。

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高度な医療機器を持参できない在宅医療では、パルスオキシメーターが大活躍です

3.常備しておきたいご家庭とは

以下の疾患をもっている患者さんは、パルスオキシメーターを常備されることをお勧めします。その理由としては、日頃からパルスオキシメーター使って、正常時の数値を知っておくことが状態悪化時にとても役に立つからです。

3-1.脳血管障害後遺症

一度でも、脳梗塞や脳出血をおこされた患者さんは、普通に食事をしていても頻回に熱を出し、時に誤嚥性肺炎をおこします。そのため、熱が出た際に、パルスオキシメーターで酸素飽和度が正常であれば、様子をみることができます。もちろん、低下している場合は、かかりつけ医への連絡をしましょう。嚥下障害については以下の記事も参考になさってください。

3-2.心筋梗塞後遺症

心筋梗塞の既往がある方は、再発が心配です。激しい胸痛があれば迷わずに救急受診をしてください。しかし、なんとなく胸が苦しい、胸が重いなどの症状の場合、受診をするか否かは悩むものです。その際もパルスオキシメーターで酸素飽和度を測定し、低下していれば緊急受診を考えましょう。

3-3.呼吸器疾患

もともと慢性閉塞性肺疾患塵肺などの、呼吸器疾患の方は、低酸素血症といって酸素飽和度が低下しています。そのため、酸素飽和度の数値だけでは、悪化しているか否かが判断できません。常日頃の低くなっている酸素飽和度を把握することで、さらに悪化している変化に気づくことができるのです。

4.活用の具体例① 症状はないが、発熱がある場合

在宅医療では、症状がなくても少し熱が高いことはよくあります。そのような場合は、パルスオキシメーターの酸素飽和度を頼りにします。症状もなく、酸素飽和度も正常の場合は、多くの場合、様子観察で自然と熱が下がることが殆どです。逆に、症状がなくても酸素飽和度が低ければ、緊急の採血を行います。そこで、CRPやWBCも正常であれば様子観察。CRPやWBCの数値が上がっていれば、抗生剤治療を検討します。


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5.活用の具体例② 肺炎の治療判定

肺炎の改善は入院であれば、胸部XPでフォローします。しかし、在宅においては、肺炎程度では入院せずに、自宅で点滴治療を行います。その際にパルスオキシメーターの酸素飽和度を頼りに、抗生剤の効果や改善具合を確認します。

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X線撮影のために病院にいくこともなかなかできない方が多くいらっしゃます

6.活用の具体例③ 新型コロナ感染の急激な酸素濃度低下

令和2年3月ごろから、日本でも新型コロナウイルスが猛威を振るっています。新型コロナウイルスでもっとも怖いのは、急激な酸素濃度の低下です。新型コロナウイルスの重症例では、数時間前まで元気であった人が、あっという間に人工呼吸器に繋がれるほど重篤になることが報告されています。その対応が遅れれば、生命的な危険さえあるのです。その変化に気が付くためのもっとも簡単な方法が、パルスオキシメーターによる酸素飽和度測定なのです。新型コロナに感染したら、仮に症状が軽くても、定期的な酸素濃度の測定が必須です。なお、新型コロナウイルスによる、急激な症状悪化については以下の記事も参考になさってください。

7.使用時の注意は

パルスオキシメーターの使用時には、以下に注意してください

7-1.末梢の冷え

高齢で、末梢の血管の流れが悪い方や、寒い環境で手足が冷たいと、測定ができないことがあります。測定前には、手袋を使ったり、部屋を暖かくしてください。

7-2.マニキュア

爪にマニキュアなどが塗られていると、光の透過が邪魔されて、正しく測定できないことがあります。高齢者がマニキュア?と思われませんが、最近では「化粧療法」といって、施設などできれいにお化粧をしてマニキュアを塗られることもあります。「化粧療法」自体は、とても良いことですが、パルスオキシメーターの使用が必要な時は、取っておいてください。

*化粧療法:メイクセラピーとも言います。化粧によって生活をより豊かなものにすることを目指す療法。 介護福祉の分野では、認知症や介護の予防・改善、ADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の維持・向上などを目的として化粧療法が行われます。

7-3.測定値は、20〜30秒後の数値を

酸素飽和度は、一定時間、一定の脈拍から測定した数値を平均化します。そのため、プローブを装着して直後ではなく、脈が安定する20~30秒後の数値を測定値とします。

8.まとめ

  • 訪問診療の強い見方が、パルスオキシメーターです。
  • パルスオキシメーターは、酸素飽和度、脈拍、不整脈の有無を知ることができます。
  • 脳血管障害、心筋梗塞後遺症、呼吸器疾患の患者さんは、家庭で常備されることをお勧めします。
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