痩せ型でも油断禁物・睡眠時無呼吸症候群7つのポイントを医師が解説

痩せ型でも油断禁物・睡眠時無呼吸症候群7つのポイントを医師が解説

近年、睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)のドライバーによる事故が多発しています。

実は、世界中でもこれまで大規模事故に発展することがあり、SASが関与したとされる事故災害としては、アメリカ・スリーマイル島原子力発電所事故(1979)、チェルノブイリ原子力発電所爆発事故(1986)、日本でも、山陽新幹線の居眠り運転(2003)、関越自動車道のツアーバス45人死傷事故(2012)。最近では、SASの診断を受けていた路線バスの運転手が、前の車に衝突して乗客1人が死亡した事故がありました。

そんな記事を見ていると、「旦那さんの睡眠中に呼吸が止まるのが心配」な方や、「自分自身の日中の激しい眠気がSASではないか」と疑う方がいらっしゃるでしょう。今回の記事ではSASについて脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が「適切な検査と治療を受るか否か」のポイントを紹介します。

目次

1.睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)とは、睡眠中に呼吸停止、低呼吸になる病気です。医学的には、10秒以上の気流停止が「無呼吸」であり、この無呼吸が一晩(7時間の睡眠中)に30回以上、もしくは1時間に5回以上見られることを睡眠時無呼吸といいます。呼吸が停止しなくても、血液中の酸素濃度が低下した状態が低呼吸とされています。

寝ている間の無呼吸に私たちはなかなか気付くことができないために、検査・治療を受けていない多くの潜在患者がいると推計されています。日本における潜在患者数は、実は300万人以上とも言われているよくある病気の一つです。

最近は、飲酒運転の規制がとても厳しくなりましたが、重症のSAS患者さんのほうが交通事故を起こす可能性が高いという研究データがあります。ですから、少しでもSASの疑いがあれば、医療機関への受診が必要であるのです。

2.SASの原因

睡眠中に呼吸が止まってしまう原因は大きく分けて2つあります。

2-1.閉塞性睡眠時無呼吸タイプ

上気道に空気が通る十分なスペースがなくなり呼吸が止まってしまうタイプです。SAS患者さんの9割程度がこのタイプに該当します。

閉塞性睡眠時無呼吸は、肥満(首周りの脂肪の沈着)、咽頭扁桃部異常(扁桃肥大、アデノイド、舌の低位や大きいこと)、耳鼻科疾患(アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎)、骨格(小顎、鼻中隔弯曲)、アルコールや薬物(睡眠薬)、年齢などにより気道が狭くなるため起こります。

OSAS
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原理。気道が狭くなる原因は様々あります

2-2.中枢性睡眠時無呼吸タイプ

脳から呼吸指令が出なくなる呼吸中枢の異常です。睡眠時無呼吸症候群の中でもこのタイプは数%程度です。肺や胸郭、呼吸筋、末梢神経には異常がないのに、呼吸指令が出ないことにより無呼吸が生じます。閉塞性の場合は気道が狭くなって呼吸がしにくくなるため一生懸命呼吸しようと努力しますが、中枢性の場合は呼吸しようという努力がみられません。心臓の機能が低下した方の場合には30〜40%の割合で中枢型の無呼吸がみられます。

3.SASの脳や身体へのダメージとは

本来、睡眠は日中活動した脳と身体を十分に休息させるためのものです。その最中に呼吸停止が繰り返されることで、身体にはダメージがかかります。いびき、起床時の頭痛、日中の眠気や集中力低下、体重増加があったり、血圧や血糖のコントロールがなかなかつかない方は、「隠れSAS」かもしれません。

3-1.寝ていても、脳や身体は覚醒

呼吸停止中の酸素不足を補おうと、身体は心拍数を上げます。寝ている本人は気付いていなくても、寝ている間じゅう脳や身体には大きな負担がかかっているわけです。脳も身体も断続的に覚醒した状態になるので、これでは休息どころではありません。その結果、強い眠気や倦怠感、集中力低下などが引き起こされ、日中の様々な活動に影響が生じてきます。

3-2.循環器系への影響

SASは、一般人口と比較して、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)を約3倍、脳血管疾患を3~5倍の頻度で合併させる「怖い病気」なのです。特に、高血圧症では、軽症SASで約2倍、中等症で約3倍の発症率となり、高血圧患者のSAS合併率は80%以上にものぼります。実際、私の患者さんでもSASの治療により、血圧のコントロールが良好になる方も多くいらっしゃいます 。

3-3.糖尿病も悪化

SASを含めた睡眠障害は、血糖を下げるインスリンホルモンの効果を減弱し、それに伴うインスリンの過剰分泌に関与します。これは糖尿病のリスクを増大させ、SAS患者の約50%に糖尿病、あるいは糖代謝異常が認められます。

4.SASの発生リスク傾向と症状

SASには以下の特徴があります。

4-1.上半身に脂肪がつきやすい男性は注意

女性と比べて男性の肥満は上半身に脂肪がつきやすいのが特徴で、健康な男女の比較によると、男性では頸部への脂肪の分布割合がより高い傾向がみられます。このような男性特有の体型がSAS罹患率にも影響していると考えられます。ただし、女性も年代によっては罹患率が上昇するため注意が必要です。

4-2.痩せているからといって安心は禁物

しかし、痩せていても安心はできません。SASは太った男性がかかる病気というイメージがあるかも知れませんが、太っていなくても、痩せていてもかかる病気です。それは、顔や首まわりの形体的特徴がその発症と強く関連するためです。

SASになりやすい形体的特徴をご紹介します。

首が短い
首が太い、まわりに脂肪がついている
下あごが小さい、小顔
下あごが後方に引っ込んでいる
歯並びが悪い
舌や舌の付け根が大きい

4-3.30~60歳代は注意

30〜60歳代は、生活習慣病を発症したり、体型が変化したりする年代でもあります。年齢と共に喉や首まわりの筋力が衰えることもリスクを高める原因となります。若い頃と比べて10kg以上太ったというような場合は、首・喉まわりの脂肪が増えて気道を狭くしやすくしている可能性があります。

4-4.いびき、呼吸が止まる

一緒に寝ている人が眠れないほどの、強烈ないびきが特徴です。その上、途中でいびきが止まり、呼吸も止まります。その後、大きな呼吸とともに再びいびきをかきはじめます。

4-5.昼間の信じられない眠気

SASの日中の眠気は尋常ではありません。上司との会話の最中だったり、お客さんとの大事な打ち合わせの最中など、ありえない状況で居眠りをしてしまうことがあります。それ以前に、大事な仕事の日に寝坊をするようなことを繰り返してしまうのです。


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周囲からは冷たい目で見られるのですが、どれだけ寝ても強い眠気が残り、いつもだるさ、倦怠感があって集中力が続かないのです。

Business people at the conference
重要な意思決定の会議でも寝てしまう人がいます

5.SASの診断

SASは以下のように診断します。

5-1.問診

重要なのは、起きている間の自覚症状や生活状況について医師に伝えることです。昼間の眠気の自覚のほか、既往歴や体調変化、SASに特徴的ないびきの有無などの情報が診療に役立ちます。

ご家族やパートナーも気になった時は、呼吸が止まっている時間と回数を数えてみましょう。10秒以上の呼吸停止が30分の間に2〜3回あればまずSASである可能性が高くなります。

5-2.簡易型検査

手の指や鼻の下にセンサーをつけ、いびきや呼吸の状態から睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性を調べます。自宅でもできる検査なので、普段と変わらずに検査することができます。

主に酸素飽和度を調べる検査(パルスオキシメトリー)と、気流やいびき音から気道の狭窄や呼吸状態を調べる検査とがあります。当院でもこの簡易型検査でおおよそ診断はつけています。

5-3.終夜睡眠ポリグラフ・ポリソムノグラフィー

簡易検査よりもさらに詳しく、睡眠と呼吸の「質」の状態を調べる検査です。終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査と呼ばれます。専門の医療機関に入院して行う検査のため、仕事などへの支障が少ないよう、仕事終りの夜に入院して検査をし、翌朝出勤前に退院できるよう配慮されている医療機関も多くあります。正直、ここまでしなくても多くは診断はつくことが多いです。

6.治療

SASの治療には以下のものがあります。

6-1.減量

過体重の場合、減量が治療の大原則となります。減量により、上気道周辺の脂肪が減少し、狭窄が改善します。次項で紹介するCPAP治療のみを行うよりも、それに減量を加えることで血圧やインスリン抵抗性、中性脂肪も優位に改善します。

6-2.持続陽圧呼吸療法

Continuous Positive Airway Pressure(CPAP:シーパップ)と呼ばれます。閉塞性SASに有効な治療方法として現在欧米や日本国内で最も普及している治療方法で、寝ている間の無呼吸を防ぐためにCPAP装置からチューブを通して鼻や口に装着したマスクに空気を送り続けて気道を広げておくものです。

CPAPを開始した患者さんの多くが、「今までの睡眠は何だったのかと感じるほど、本当に良く眠れる。」とおっしゃります。月一回の通院、CPAP装置のレンタル持続陽圧呼吸療法が必要となります。保険が適応されると、治療費は月5,000円程度となります。

但し、保険が適応されるには以下の基準を満たすことが必要です。私の患者さんでは、(A)を満たすことで保険適応条件を満たす方が大部分です。

【保険適応条件】
(A)以下の項目全てを満たす症例であること

・無呼吸低呼吸指数(1時間当たりの無呼吸及び低呼吸数をいう)が40以上
・日中の傾眠、起床時の頭痛など自覚症状が強く、日常生活に支障をきたしている症例

(B)以下の項目全てを満たす症例であること

・無呼吸低呼吸指数が20以上
・日中の傾眠、起床時の頭痛など自覚症状が強く、日常生活に支障をきたしている症例
・睡眠ポリグラフィー上、頻回の睡眠時無呼吸が原因で、睡眠の分断化、深い睡眠が著しく減少または欠如し、持続陽圧呼吸療法(CPAP)により睡眠ポリグラフィー上、睡眠の分断が消失、深睡眠が出現し、睡眠段階が正常化する症例

Man sleeping in bed wearing CPAP mask ,sleep apnea therapy
CPAPマスクの例

6-3.マウスピース

主に肥満がなく顎が小さい方が対象となります。マウスピースの装着により、下顎が前に出た状態で固定し、気道の狭窄を防ぎます。

6-4.外科的治療

口蓋垂(いわゆるノドチンコ)・口蓋扁桃・軟口蓋(口蓋垂の周りの部分)の一部を切除し気道を広げます。歯列矯正などが有効なこともあります。

7.まとめ

・睡眠時無呼吸症候群は重大な事故を引き起こすだけでなく、身体にも多大な負担を与えます。
・しかし、睡眠中であるため気が付かれていない方が多く、潜在患者数は300万人と言われています。
・睡眠中の呼吸停止が頻回に起こる方は、医療機関を受診してCPAP等の治療を行うと劇的に症状が改善します。

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