団塊の世代が75歳以上となる2025年には、認知症の人は約730万人になると予想されています。認知症になると財産管理ができなくなります。そんな高齢者を狙った犯罪も後を絶ちません。最近では、かんぽ生命も信用できません。
そんな高齢者の財産管理のために、薦められていたのが成年後見人制度ですが、最近では「家族信託」も導入され、利用者も増えています。しかし、すべてのケースで、成年後見制度と比較して家族信託が優れているわけではありません。今回の記事では、FP資格を持つ認知症専門医の長谷川が、成年後見人制度と家族信託とそれぞれのメリットとデメリットをご紹介します。
目次
1.家族信託制度とは?
「家族信託」とは、親(委託者という)が、子どもなどの信頼できる家族・親族(受託者という)に、不動産や預貯金などの財産の管理を任せる契約のことで、「民事信託」ともいわれます。親(委託者)が決めた目的に沿って、子ども(受託者)が、信託された財産を管理・処分し、親(受益者という)のために使用します。親が元気なうちから準備しておくことで、認知症で判断能力が低下しても、財産が凍結することなく親のために使うことができるということで、利用される方が増えています。
2.成年後見制度とは?
成年後見制度は、判断能力が不十分な方を法律面や生活面で保護したり支援する制度で、成年後見人が患者さん(被後見者)に代わって契約を行ったり財産の管理をするようになります。成年後見人の対象の多くは、認知症、精神発達遅延等となります。特に認知症患者さんは現在約462万人もおり、今後はさらに増加が予想されるので、成年後見制度を利用される方も増えていくと思われます。以下の記事も参考になさってください。
3.家族信託制度のメリット
家族信託には、成年後見制度に比べて以下のようなメリットがあります。
3-1.若いうちから始められる
成年後見制度は、親の認知症が発症・進行した状態から開始されます。一方、家族信託は、親が元気なうちから、親の財産管理を始めることができます。親の判断能力の低下が気になった場合に、すぐにスタートできるので安心です。ただし、多くの患者さんは認知症になっても自分の財産管理にはこだわります。元気なうちから管理を子供に任せてくれるかは疑問が残ります。
3-2.財産の一部でも可能
成年後見制度は、「全財産」を管理します。一方、家族信託は、親が「管理してもらいたい財産のみ」を選んで子どもに託すことができます。お金の管理に不安があるが、全財産を取り上げられるのは嫌という親の希望にもこたえることができるのです。但し、これも一部だけ財産管理をお願いするとはどういうケースなのか、疑問は残ります。
3-3.家庭裁判所への報告義務がない
成年後見制度は、毎年家庭裁判所に通帳等のコピーの報告義務があります。その準備が負担と言われる方もいらっしゃいます。また裁判所から、内容について必要か否かを指摘されることもあります。一方、家族信託なら家庭裁判所の監督をうけることなく、子どもが親のお金を最後まで管理することができます。
4.成年後見人に比べた家族信託のデメリット
最近の傾向として、成年後見制度より家族信託という風潮がありますが、デメリットもあります。
4-1.信託契約の内容によっては新たな相続問題を引き起こす
成年後見制度は、相続については全く別物です。つまり、後見人が専門家であろうが家族であっても相続とは別物です。しかし、家族信託は、相続対策として利用される制度なので、信託契約の内容によっては、相続問題につながるのです。
4-2.財産を守られないことが起こりる
成年後見制度の家庭裁判所への報告は確かに負担です。しかし、その報告が本人以外のために使われないようにするチェック機構にもなっているのです。家族信託の場合、委託者と受益者が同一人物の場合、チェック機能が弱くなる可能性もあるのです。
4-3.簡単にできる?
家族信託自体が、成年後見制度より簡単にできることがメリットとされています。実際、個人での申請も可能です。しかし、その場合何らかの不備や問題点があったとしても、それを指摘したり修正してくれる存在がいません。もちろん、問題が表面化するのは何年、場合によっては何十年と経った時なのです。
5.結局どちらが良いの?
家族信託と成年後見人とどちらが良いのでしょうか?
5-1.財産が多い場合は成年後見を
私の個人的意見では、職業後見人(弁護士、司法書士)への支払いの負担が可能なら、成年後見制度が安全な気がします。やはり、毎年の家庭裁判所への報告義務は、負担というより安全のためだと思います。ただし、親が元気なうちから、資産を有効活用して欲しい場合などは、積極的に家族信託を使うこともお勧めです。その場合は、家族信託に熟知している専門家を探す必要があります。
5-2.管理する財産が少ない場合は家族信託でも良いかも
逆に、管理する財産が少なければ、被相続人と相続人が話し合ったうえで、費用負担が少なくて済む家族信託が良いかもしれません。もちろん、話し合いにより相続問題を予防することは言うまでもありません。
5-3.どちらにせよ遺言作成が重要
やはり、家族信託と成年後見人のどちらを選ぶにしても遺言作成は必須です。そして、おおよその内容を相続人にも伝えておくことが重要です。以下の記事も参考になさってください。
6.まとめ
- 最近よく聞く家族信託制度ですが、メリットだけではありません。
- ケースによっては、成年後見制度の方がよいケースもあります。
- いずれを選ぶにせよ、遺言作成は必須です。