検診でおなじみ・アルブミン値は、高齢者の健康にとっても大事な指標である理由

検診でおなじみ・アルブミン値は、高齢者の健康にとっても大事な指標である理由

高齢者を中心とした当院では、「最近お婆ちゃんの食事量が減っているのですが大丈夫でしょうか?」という質問を良く受けます。そうすると我々医師は、血液検査をして血中のアルブミンを測定します。その結果、「食事量は減っていても栄養状態は保たれていますよ」とか「少し低栄養ですから食事に気をつけてください」などとアドバイスをします。

実は、健康診断でおなじみのアルブミンは栄養状態だけでなく、高齢者の方の全身状態をとらえることができる重要な指標です。そのため、入所する際の診断書にもアルブミンの値が求められることも多いのです。

今回の記事では、認定内科専門医である長谷川嘉哉が、高齢者の健康状態を広く把握するために重要なアルブミンについて解説します。

1.アルブミンとは?

検診を受けると、「総蛋白」や「アルブミン」という項目が必ず含まれています。「総蛋白」は血液中の蛋白の総量を、アルブミンは「タンパク質の一種であるアルブミンの量」を意味します。アルブミンは、100種類以上ある総蛋白の6割を占める大事な蛋白です。アルブミンは肝臓で作られて、栄養状態の指標になります。

アルブミンは、血中の濃度が半分になる半減期が、14〜21日のため、血液検査をした際のアルブミン値は、約2〜3週間前の栄養状態を意味します。アルブミンの正常値は4.0g/㎗以上で、3.5g/㎗以下であれば低栄養と判断します。

General practitioner doing blood test
健康診断では肝機能や腎機能をはかる数値として検査をすることもあります

2.アルブミンが減る原因

血液中のアルブミンは以下の原因で低下してしまいます。

2-1.栄養不足

アルブミンは、蛋白の一種ですから、食事量が低下して、タンパク質の摂取が不足すると低アルブミンになります。一般的に、食事量が低下すると「お粥」を摂りがちです。しかし、お粥は炭水化物でしかありません。低アルブミンを予防するにはタンパク質の摂取を意識する必要があります。

2-2.アルブミンの生成低下

アルブミンは肝臓で生成されます。そのため、慢性肝炎、肝硬変、肝不全などでは、低アルブミン血症になります。

2-3.アルブミンの漏出

アルブミンはいろいろな原因で、身体から漏出します。具体的には、腎不全やネフローゼ症候群では腎臓から漏出。広範囲の熱傷では身体の表面から、胃腸炎などで消化管からの漏出が原因となります。

2-4.アルブミン消費量の増大

肺炎、胆嚢炎、腎盂腎炎といった感染症や、悪性腫瘍、さらに手術などの侵襲が加わると、人体はアルブミンの消費量が増大して、低アルブミンとなってしまいます。

3.アルブミンが低くなると

低アルブミンになると、真っ先にみられる症状は、両足の浮腫みです。両側の足の浮腫みは、心不全の悪化でも見られるので、血液検査の際には、アルブミンと同時にBNPといった項目も測定する必要があります。なお、高齢者の場合は、低アルブミンと心不全を合併していることも多いのです。

低アルブミンが改善されないまま進行すると腎臓で尿がつくられなくなり、最終的には腎不全で死亡してしまいます。つまり、食事が摂れなくて、お粥しか摂取できなければ、人間は亡くなってしまうのです。


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*BNP:(脳性ナトリウム利尿ペプチド;brain natriuretic peptide)BNPはそのものが血管を拡げ、尿の排出を促す作用を持っており、心臓へのストレスを和らげる生理作用を持っている。したがって、その値の上昇は「心臓に負担がかかっている」状況を鋭敏に反映しており、「心不全」を診断する上で有用な指標となります。

4.アルブミンは栄養状態以外もわかる

アルブミンは栄養以外の関連性も見られます。

4-1.体力

アルブミンの数値は、高齢者の体力とも明確な相関があります。筋力(握力と膝伸展力)、バランス能力、歩行能力で身体評価をした場合、血清アルブミン値が正常群に比べ、低栄養群ではいずれの身体評価も優位に低下していると報告されています。

4-2.介護リスク

介護予防のためには、血清アルブミン値を高めることが最良の方法であることが判明しています。つまり、高齢者の低栄養を予防することが、生活機能の維持・向上に必要不可欠なのです。

4-3.死亡リスク

血清アルブミン値を、4.0g/㎗から3.5g/㎗まで変化させた場合、死亡リスクが優位に上昇することが分かっています。つまり血清アルブミン値は、体力・介護予防・死亡リスクすべてに関与しているのです。

5.アルブミンを増やすには

Elderly patient for hospitalization eating food
炭水化物主体の食事だけを取っていると低アルブミンの恐れがあります

アルブミンを増やすには、良質なタンパク質を摂取する必要があります。

5-1.タンパク質の摂取が大事

蛋白は20種類のアミノ酸から構成されています。そのうち、人間が合成できないため、食事から摂取しなければいけないアミノ酸を「必須アミノ酸」と言って9種類あります。良質な蛋白とは、9種類の必須アミノ酸がバランスよく含まれ「アミノ酸スコア」が100に近いものです。アミノ酸スコアが高い蛋白を含むものは、肉類、魚介類、牛乳・乳製品、卵類、大豆製品です。つまり、アミノ酸スコアが100に近い食品は、殆どが動物性たんぱくです。したがって、年をとっても植物性蛋白だけでなく、動物性蛋白も積極的に食事に取り入れることが必要です。

5-2.タンパク質を摂取するには歯が大事

アルブミンを増やすために良質な蛋白を摂取するには、動物性蛋白の摂取が必須です。動物性蛋白の摂取のためには、歯が大事です。歯がないと、楽に食べることのできる柔らかい炭水化物に偏ってしまいます。「食べられるものでなく、必要なものを食べる」には歯が大事なのです。

6.まとめ

  • 血清アルブミン値は、高齢者の栄養状態だけでなく、体力・介護リスク・死亡リスクの指標になります。
  • 血清アルブミン値を上げるためには、良質なタンパク質を摂取する必要があります。
  • 良質なタンパク質を摂取するには、健康な歯が必要です。
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