突然の顔面神経麻痺・・緊急受診すべきかを見極めるたった一つの方法

突然の顔面神経麻痺・・緊急受診すべきかを見極めるたった一つの方法

皆さん、想像してみてください。

「朝起きたら顔が動かない」、「気がついたら顔がまがってきた」、「食事をしようとすると口から食べ物がこぼれ落ちてしまう」、そんな症状が出たら大変心配になります。まずは一刻も早く治したいと思いますし、大きな病気の前兆の予感がします。

これらの症状は、顔面神経麻痺と言います。このように突然起こる顔面神経麻痺には大きく分けて2種類の原因があります。その2種類それぞれに、受診する科、治療方法、予後が全く異なります。そのために原因の鑑別はとても重要になります。

それ以外にゆっくりと進行する顔面神経麻痺もあります。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、顔面神経麻痺の簡単な鑑別方法とそれぞれの対応方法をご紹介します。

目次

1.顔面神経麻痺とは?

顔面神経は、12ある脳神経の一つで第七脳神経とも呼ばれます。顔面神経は脳から発し、側頭骨の中の顔面神経管という骨管の中を通り、耳下腺を貫き顔面に分布しています。そのいずれの部分の障害でも顔面神経麻痺が起こります。

顔面神経麻痺が起きると、顔面の表情筋が麻痺し、いわゆる「顔がまがった」状態になります。額のしわ寄せが出来なくなり、まぶたを閉じるのが困難となります。また、水を飲むと口から漏れてしまうこともあります。

顔面神経には味覚を伝える神経、涙や唾液の分泌を調節する神経、大きな音が耳に入った場合に音から耳を守るために鼓膜を緊張させる反射(耳小骨筋反射)を起こす神経が含まれるため、顔面神経麻痺では、表情筋の麻痺ばかりでなく、味覚障害、涙や唾液の分泌低下、音が響くなどの症状を伴うこともあります。

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顔面神経。顔は脳や感情、生存のための動作に大きく関わっているので、神経系も発達しているのです(出典:慶應大学)

2. 突然起きた顔面神経麻痺の診断方法

顔面神経麻痺の診断の上で重要なことは、まず顔面神経の障害の有無を知ることです。それにより後述する2種類のどちらになるかがおおよそ判定できるからです。そのために以下の検査を行います。

2-1.額のしわ寄せ

額のしわ寄せができるか否か、左右差があるかを診察します。とはいえ、いきなり医師から「額にしわを寄せてください」と言われても、できないことが多いものです。そんなときは、「上を向いてください」とお願いします。そうすると、自然に額にしわを寄せる行為ができます。

2-2.目の閉眼

眼を強く閉じてもらいます。それも力を入れて閉眼してもらいます。医師は目をこじ開けようとして、それに抗することができて初めて正常と判断します。

症状が強い場合は、全く目を閉じることができず、白目をむいた状態になることもあります。その場合は、顔面神経麻痺の治療だけでなく、涙液の代わりになる目薬を処方して、患者さんには頻回に指してもらいます。この目薬の処方を忘れると、角膜炎をひきおこすこともあるからです。

力強く開閉できるか、で判断できます

2-3.口の開閉

口を大きく開けてもらいます。顔面神経麻痺があると、麻痺のある側の動きが悪いため、口の開き方に左右差が認められます。さらに、力を入れて、口を閉じてもらいます。医師は口をこじ開けようとしても、それに抗することができて初めて正常と判断します。

3.2つに大別できる「突然起きた」顔面神経麻痺の種類

顔面神経麻痺は、どの部分に問題があるのかによって中枢性神経麻痺末梢性神経麻痺に分かれます。私が専門とする脳神経内科は、中枢性、末梢性のいずれにも対応が可能な唯一の科です。

3-1.中枢性顔面神経麻痺

脳血管障害(脳出血や脳梗塞)の症状で急に顔面神経麻痺が発症することがあります。多くは呂律が回らなくなったり、頭痛、意識障害、手足の麻痺やしびれなどの症状が合併します。


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これが中枢性神経麻痺で、大脳から橋と呼ばれる部分にある顔面神経核までの間に何らかの問題があって起こるものです。脳出血、脳梗塞などの脳血管障害のほか、脳腫瘍やその他の脳の変性・炎症などが原因となります。生命的リスクのある重篤な顔面神経麻痺と言えます。主に私が専門とする脳神経内科や脳神経外科などの診療科が受け持つことが多い領域です。

脳血管障害が原因であれば、一刻も早期の治療が必要ですので、緊急で脳神経内科か脳神経外科を受診してください。

3-2.末梢性顔面神経麻痺

末梢性神経麻痺は顔面神経核およびその末梢で顔面神経が圧迫され、傷つくことによって起こるものをいいます。ウイルスが原因で、生命リスクはありません。主に耳鼻咽喉科や脳神経内科などの診療科で担当する領域になります。

4.中枢性と末梢性を鑑別するたった一つの方法

同じ顔面神経麻痺でも、命にかかわるか否かの判断のために、中枢性と末梢性を鑑別することが大事です。実は、その鑑別のためには難しい検査やCT、MRIといった検査機器は不要です。単に、額にしわが寄るか否かを確認すればよいのです。

中枢性顔面神経麻痺では,額の麻痺はないので額のしわ寄せが可能です。これは前額部の筋が大脳から両側性の支配を受けているため、脳梗塞等で片側の障害が起きても、反対側の神経によって動きが保たれるからです。

一方で、目の周囲の眼輪筋や口の周囲の口輪筋は、片側性の支配しか受けていないので、中枢性も末梢性のどちらでも障害を受けるのです。

ここで注意ですが、顔面神経の麻痺の程度だけ見れば、命にかかわる中枢性のほうが額に障害を受けないため軽く見えます。決してこれで安心することなく、逆に脳神経内科や脳神経外科の受診が必要であることを知ってください。

Gymnastics for the eyes.
上を見ることで、額にシワが寄りやすくなります

5. 末梢性顔面神経麻痺に多い特徴

末梢性神経麻痺は、ベル麻痺(約70%)ハント症候群(10%)に分類されます.ベル麻痺の原因は,単純ヘルペスウイルス-1型の再活性によるといわれています。また、ハント症候群は水痘帯状疱疹ウイルスが原因といわれています。顔面神経が炎症により腫脹し,顔面神経管の中で圧迫され変性することで発症すると考えられています。

これらの症状としては、「片方の眼瞼が閉じにくい」、「歯磨きをしていたら片方の口角から唾液がもれた」、「片方の顔面の違和感」などです。ハント症候群の場合は、さらに眩暈(めまい)、耳鳴り、難聴を合併することがあります。

外来をやっていると、ベル麻痺の場合は、まるで「流行り病」のように、患者さんが続きます。20歳代前後の若い女性に多いことも特徴です。若い女性が、突然顔の半分が動かなくなる。これは美容的にも、ショックが大きいものです。この世の終わりのような深刻さで受診されます。しかし、ステロイドの経口薬を処方することで2週間前後でほとんど改善。4週間でほぼ症状がなくなります。もちろん、高齢者でも起こりますが治る期間は長くなり、後遺症を残すことも多くなります。

6.「ゆっくりと生じる」顔面麻痺もある

特殊な神経や血管の病気によって顔面神経に障害が生じた場合、ゆっくりと顔面神経麻痺が生じます。また聴力の低下もみられる場合には聴神経腫瘍の可能性がありますので、まずは脳神経外科や耳鼻咽喉科を受診されることをお勧めします。

7.まとめ

  • 顔面神経麻痺が出現した場合は、命にかかわるか否かの判断のために、中枢性と末梢性を鑑別することが大事です。
  • 額にしわが寄る場合は、中枢性。よらない場合は末梢性になります。
  • 顔面神経の麻痺の程度だけ見れば、命にかかわる中枢性のほうが額に障害を受けないため軽く見えることに注意してください。
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