若くても安心できない、若年性脳梗塞の実態【脳神経内科専門医が解説】

若くても安心できない、若年性脳梗塞の実態【脳神経内科専門医が解説】

最近、30歳代、40歳代の女性アナウンサーやタレントが脳梗塞を起こすケースがみられます。多くの人は、「脳梗塞は高齢者の病気?」と思っています。しかし、臨床の現場では、昔から一定数の「若年性脳梗塞」が存在します。若年性脳梗塞は、その名称からわかるように、45歳未満の若い世代に起こる脳梗塞を指しています。

そんな、若年性脳梗塞が、国内だけでなく世界的にも頻度が増えてきているようです。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、若年性脳梗塞の実態と予防のポイントをご紹介します。

目次

1.若年性脳梗塞とは

実は、若年性脳梗塞の年齢の定義は明確には規定されていません。しかし、一般的な専門医の感覚では、45歳未満で発症する患者さんを「若年性脳梗塞」としていることが多いようです。

若年性であっても、脳梗塞では、脳の血管が閉塞することが原因であるため、中高年で発症する場合と同じです。典型的な症状としては、片麻痺(体の半身が動かない)、感覚障害(しびれ、感覚が鈍くなる)、言語障害(うまくしゃべることができない)、視覚障害(視野の一部が欠ける)などです。

症状は、一緒であっても原因は異なります。中高年で発症する場合は、生活習慣病に伴う動脈硬化が原因の大部分です。一方で若年性脳梗塞は、動脈硬化以外のさまざまな原因で引き起こされます。その原因によって再発予防の方法が変わりますので、原因の検索が重要となります。

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若年性であっても脳の血管が詰まって起こる「脳梗塞」と変わりはありません

2.主要な原因は

脳神経内科専門医が若年性脳梗塞を見た時にまず思い浮かべる原因は、以下に示すように実に多くのものです。いきなり発症するのではなく、なんらかの基礎疾患があって、その経過によりある日突然、脳梗塞が起こることもあります。

2-1.脳動脈解離

首の捻転や、外傷によって、脳の血管がはがれることで発症します。壁がはがれると血管が狭くなって脳梗塞を引き起こします。脳梗塞の症状に加え、首や後頭部の痛みを伴うことが特徴です。車をバックさせるために後ろを向いた際や、カイロプラクティック、ヨガなどで発症することもあるので、注意が必要です。

2-2.もやもや病

原因不明に脳の太い血管が徐々に閉塞することで発症します。人間は、太い血管が細くなると、側副血行路といって、細い血管が自然に発生します。その細い血管網が煙のように「もやもや」見えることからこの病名になっています。もやもや病の血管は、細くなっているため閉塞による脳梗塞をおこしやすくなります。詳しくは、以下の記事も参考になさってください。

2-3.抗リン脂質抗体症候群(APS)

血液中に、抗リン脂質抗体とよばれる自己抗体ができ、血液が固まりやすくなるなる疾患です。その結果、脳梗塞を起こしやすくなるだけでなく、心筋梗塞、肺梗塞、深部静脈血栓症も引き起こす可能性が高くなります。膠原病の患者さんに合併することも多いので、注意が必要です。

2-4.血液凝固異常

血液の固まりやすさのバランスが、先天的に崩れてしまう疾患があります。先天性血栓性素因や多血症などでは、血液が固まりすぎることで若年でも脳梗塞を発症させてしまいます。

2-5.避妊薬

若年性脳梗塞の女性患者さんをみると、医師は「ピルの服用があったのかどうか、今後は飲んでも大丈夫か」と考えます。ただし、最近では、「低用量ピル」が主流であるため、副作用によって血栓症になるリスクは、1万人に1人発生する程度で大きな心配は必要ありませんが。ただし、ピル服用よって血栓症になるリスクも2~3倍上がると言われてるため、脳梗塞の家族歴や生活習慣病の合併がある患者さんは、主治医と相談の上、慎重な服用が必要です。

3.原因のわからない若年性脳梗塞もある

紹介したように若年性脳梗塞の原因は多岐にわたります。そのため、入院するとすべての疾患の鑑別を行いますが、どれも原因が当てはまらないケースも多々あります。その場合は、中高年発症と同様に以下も原因となっています。

3-1.個人的印象としては喫煙が最も多い?

私の30年の脳神経内科専門医としての経験からすると原因不明の若年性脳梗塞で、最もリスクを高めていると思われるのは、喫煙です。特に、1日2箱、40本以上のタバコを吸う、ヘビースモーカーの方が多いようです。実際に、喫煙は若年でもリスクを2.6倍にするとの報告されています。


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3-2.偏った食事

動物性脂肪を取り過ぎると、中性脂肪やコレステロールが増えることで血液が固まりやすくなって、脳梗塞を起こしやすくなります。特に、遺伝的要素があると、若くても中性脂肪やコレステロールが高くなってしまうので注意が必要です。

3-3.極端な運動不足

デスクワークが中心で、極端に慢性的な運動不足になっている方がいらっしゃいます。年齢が若くても、適度な運動をしないと、体全体の血流が悪化し、血液が固まりやすくなって脳梗塞を発症しやすくなるのです。

4.結局、ストレスが原因?

原因がわからない患者さんん、タバコも吸わず、食事の偏りもなく、運動不足でもない方もいらっしゃいます。そうなると、「ストレス」が原因と考えざるを得ません。ストレスは、交感神経の過剰興奮を引き起こします。結果として、血管が狭くなり、血圧が上昇し、血液も固まりやすくなるのです。

世界的にも、脳梗塞の患者さんは、高齢化しているのですが、同時に若年者の頻度が増えています。これは、時代的にも、若年者のストレスが増えているのかもしれません。実際に営業マンなどで、全国ナンバーワンの成績を上げている人の突然死の話はよく聞きます。

5.ストレス予防

こうなると、若年性脳梗塞予防にはストレス予防が第一です。

5-1.仕事第一にならない

私がお勧めしているのは、なんでも一番を目指さないことです。目先の営業成績だけでなく人生全体を見ることが大事です。一言でいうと、「明日できることは、今日しない」の考え方が重要です。

5-2.睡眠時間の確保

どれだけ忙しくても、1日6時間の睡眠がとれるような生活を送りましょう。これができないような仕事であれば、転職も考えるべきです。若くして脳梗塞になっては意味がありません。

5-3.自分のストレス解消法を見つける

実は、私も40歳の時に、かなり忙しい生活を送っていました。その時「このままでは、突然死してしまう」と思ったものでした。そんな時に紹介されたのが、「鍼灸」です。すっかり、病みつきになり、以降約14年間、基本的には毎週。最低でも2週間に1回、鍼灸の治療に通っています。詳しくは以下の記事も参考になさってください。

6.生命保険での対策も大事

ご紹介したように、年齢が若くても脳梗塞にはなりえます。その結果、片麻痺などの後遺症を残す可能性もあります。多くの方が勘違いしているのですが、片麻痺は、生命保険の高度障害に該当しません。同時に、住宅ローンも免除されません。つまり、若くして片麻痺になると働けなくなって、借金だけ残る可能性があるのです。そのためには、片麻痺にも対応する保険に加入する必要があります。題名は、歯科医さん対象になっていますが、職種関係なく参考になりますので以下の記事も一読ください。

7.まとめ

  • 若年性脳梗塞の症状は、中高年発症と同様に片麻痺、感覚障害、言語障害、視覚障害(視野の一部が欠ける)などが代表的です。
  • 若年性脳梗塞の原因は、動脈硬化以外のさまざまな原因で引き起こされます。
  • 若年性脳梗塞の予防の第一はストレスのコントロールと考えられます。
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