多くの介護者さんが、特別養護老人ホーム(特養)の入所を希望されます。しかしながら、待期期間が長く、入所のための介護度の制限もあります。それでも、日々の介護は待ってくれません。そんなときは介護老人保健施設(老健)を検討しましょう。「老健は3か月で退所しなければ」と言われますが、長期入所されている方もいます。実際に老健で特養を待っておられる方もたくさんいらっしゃいます。
しかし、老健には期間以外にもデメリットもあることを知っておいてください。それをクリアして、老健を上手に使うことができれば介護の精神的・経済的負担を減らすことができます。今回の記事では、認知症専門医でケアマネ資格をもつ長谷川嘉哉が、意外に知られていない老健を上手に使う6つの知識を紹介します。
目次
1.介護老人保健施設とは
老健とは、特養やグループホーム、有料老人ホームとは異なる特徴があります。
1−1.概要
老健とは、病院と自宅の中間的施設として位置づけられる公共型施設です。専門スタッフによるリハビリを通じ、要介護高齢者(要介護1以上)が在宅復帰することをその目的としています。「入院はもう必要ないけれど、自宅の暮らしに戻るのはまだ不安」という方に老健は役立ちます。
老健には医師や看護師が配置され、リハビリ・医療ケアが充実しているので、暮らしの準備が整うまでの待機期間を安心して過ごすことができます。また、次の老人ホームが見つかるまでの仮住まいとして活用されることも多いようです。
1−2.経営母体
老健は、営利法人では経営できません。老健を運営できるのは、医療法人もしくは社会福祉法人です。そのため、比較的規模も大きく、突然つぶれてしまうといった心配はありません。
1-3.特養との違い
老健が在宅復帰を目指しリハビリを行なう施設で、入所期間が限定されているのに対し、特養は寝たきりなど重度の介護にも対応した生活施設です。入所期間に制限はなく終身利用が可能です。
また、老健には常勤医師がおり、特養と比べると看護師の配置人数が多く、理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職の配置も義務付けられています。機能訓練の設備も充実しており、老健は在宅復帰に特化した施設と言えます。
2.老健に向く人
高齢化が進んだ現在は、以下の方が老健を検討すべきです。
- 回復期リハビリの期限が終了したが、自宅での介護は難しい方
- 介護度が3以上だが、寝たきりではなく特養入所には抵抗がある方
- 年金が少ないため特養に入りたいが、介護度が3未満の方
理想を言うと、「入院はもう必要ないけれど、自宅の暮らしに戻るのはまだ不安」な人に対して、リハビリを行い3か月後には自宅に帰ることができる人が理想です。しかし、現在ではそういった方は回復期リハビリ病床で対応することが大半です。
例えば脳梗塞でリハビリが必要な方は以下の記事も参考になさってください。
3.老健ならではのメリット
老健入所のメリットをご紹介します。
3-1.介護度1から入所できる
要介護3以上でないと入所の申込みすら受け付けてくれない特養に比べ、老健は介護度1から入居することができます。この要件基準の低さが大きなメリットといえます。
3-2.医師が常駐している
医師の常勤が義務付けられている点も特養とは異なるメリットといえます。
老健では入所定員100人あたり最低1人の医師が常駐し、利用者の医療ケアや健康管理、緊急時対応などを行うことが義務づけられています。
一方、特養では医師の配置は義務づけられているものの、非常勤でも可能なため、施設で診察などを行うのは週に2回程度です。一方、老健であれば常勤で医師がいるので、利用者の状態をこまめに把握したうえで医学管理を行うことが可能となります。
但し、現実には、老健の医師は、基幹病院を定年退職した人の「第二の職場」であることが大半です。そのため、最新の医療や積極的な診療は期待できないと考えてください。
3-3.費用が安い・・・魅力ある減免制度
実は老健の最大の魅力は、所得に応じて費用が安くなることです。公的な介護保険施設である、特養・老健・療養型病床群では、特定入所者介護サービス費制度を使うことで、自己負担を軽減することができます。
*特定入所者介護サービス費:介護施設利用の際の「食費」と「居住費」の負担については全額利用者の負担となります。そのため、所得の少ない人の介護施設利用が困難とならないように、所得に応じた負担限度額を設けることにより、サービス利用者の「負担の軽減」を図ります。
4.老健のデメリットは
良いことばかりの感じがしますが、デメリットもあります。併せて検討したいものです。
4-1.内服薬が制限される
これは老健だけにみられることです。老健に入所している利用者さんは原則医療保険が使えず、介護保険から支給される限度額内の包括医療になります。つまり、経営側が受け取る介護報酬に薬代が含まれているのです。
そのため、薬が多ければ多いほど、高い薬であればあるほど、施設側の持ち出しとなり、赤字となっていくのです。そのため、高額な薬を出すことができないのです。ちなみに、抗認知症薬のアリセプト、リバスタッチパッチ、レミニール、メマリーなどは高額なため、処方を継続することは不可能となります。
これが特養であれば、診療所を併設しているケースがあったり、嘱託医がいます。その際は、往診料や診察料に一定の制限はありますが、医療保険を使用することが出来ます。グループホームは在宅に準ずる施設なので、通常通り医療保険を使用しての病院受診となり、従来の薬が継続処方できるのです。
4-2.入所期間が限定される
原則、3か月ごとに入退所判定が行われ、長くても半年から1年までの入所になることが多く、長期入所はできません。
5.老健利用の裏ワザ
老健の上手な使い方をご紹介します。
5-1.3ヶ月以上の入所が認められるかも?
在宅復帰を目標とし、入居期間は原則として3~6ヶ月の期間限定になっていますが、現状は「リハビリがうまく進まず目標とする身体状態まで回復していない」、「家族の受け入れ態勢が整わない」などの理由から、その期間で自宅に帰れないケースもあります。
実は、経営面から見れば、自宅に復帰する利用者さんも必要ですが、入所を継続する利用者さんも必要でしょう。そのため、介護力から在宅復帰は難しいことを強く施設側に訴えましょう。そうすると、入退所判定で案外入所を継続させてもらえることもあるようです。
5-2.必要な薬が出ない! 一時退所で薬を処方してもらう
老健にいる間は、高額な薬は出ないことをお伝えしました。
しかし、私の外来には、パーキンソン病や認知症の方で薬の中止・減量が難しい方がたくさんいらっしゃいます。そういう方は、3か月に一度、1泊2日程度で老健を退所なさいます。その日に当院を受診して、3か月分薬を処方して、翌日再入所。この方法で、必要な薬を切らすことなく入所を継続されているようです。
5-3.老健以外の施設も運営をしているグループがお薦め
老健を単独で運営している施設でなく、老健以外に特養やグループホームなども運営しているグループがお薦めです。仮に老健を対象する場合でも特養へ優先して入所させてくれたり、老健で特養を待つなどの融通が利くのです。
5-4.医療費控除が全額使える
老健利用時に支払った施設サービスの対価は、全額医療費控除になります。ちなみに、特養は半分しか医療費控除になりません。利用者のご家族は「老健に入所してかかった費用も、医療費控除になるの?」と思われるかもしれませんが、税制上認められている制度ですので、ぜひ活用なさってください。
5-5.世帯分離で利用料を抑えられる方も
利用者さんの所得が少なくて、介護者の収入が多い場合は、減免制度の恩恵を預かることができなくなります。その場合に世帯分離されて、所得を分けられている方がいます。世帯分離の詳細は、以下の記事を参照してください。
6.現状
日々、認知症専門外来をしていて感じる老健の現状をご紹介します。
6-1.特養との取り合いもある
本来は、特養と老健は対象とする入所者が異なります。しかし、超高齢化社会が進行して介護度が重くなると、2つの施設に入所している要介護者に大きな違いはありません。施設としては、同じ人数を看るならば、介護度が重い人を診たいのです。結果、重介護者を特養と老健で取り合っていることさえあるのです。
6-2.経営のジレンマ
在宅復帰を原則とする老健。しかし、全員が在宅復帰してしまうと、入所者が定員を大きく下回ってしまいます。そのため、一定数は在宅復帰してもらい、残りは施設にとどまって欲しいというのが実情です。その点を踏まえれば、利用者としては継続して入所することも可能となるのです。そのため、老健の平均在所日数は、平成27年度では300.1日です。皆が3か月で退所しているわけではないのです。
6-3.在宅強化型老健が増えていく?
老健は在宅復帰率とベッドの回転数によりその種類が分けられています。在宅復帰率もベッドの回転数も高い「在宅強化型老健」は、介護報酬が高くなるため、増える傾向にあります。在宅強化型老健においては、長期入居が難しくなっていくかもしれません。
7.まとめ
- 老健は特養と違い、介護度1以上で入所が可能です。
- 処方薬や入所期間に制限がありますが、回避する方法があります。
- 介護度3未満で年金が少ない方には、老健入所を検討してみてください。