ヒゼンダニによる「疥癬」は決して軽視できない!高齢者が注意するべき7つのポイント

ヒゼンダニによる「疥癬」は決して軽視できない!高齢者が注意するべき7つのポイント

疥癬(かいせん)という病気をご存知でしょうか? この病気はダニを介して伝染する病気です。さすがにコロナウイルスのように生命的危険を伴うことはありません。しかし、診断が遅れることで多くの方に伝染させてしまう可能性があります。そのため高齢者の方が感染すると、介護サービス等の利用が制限されます。実際、ブレイングループが介護事業を提供する地域でも、疥癬が発生した患者さんのデイサービスの利用が制限されました。結果、疥癬を機に運動や日常行動が不足してしまい、ADL(日常生活動作)を低下させてしまうのです。それがひいては寝たきり生活となったり認知症が進んでしまうということになります。

疥癬患者は年間8〜15万人発生し、数年に一度は集団発生も起こります。そのため医療・介護を含めた多くの方に疥癬の知識を持っていただく必要があります。今回の記事では、老年病専門医の長谷川嘉哉が、高齢者における疥癬で注意すべき7つのポイントをご紹介します。

1.疥癬とは?

疥癬はヒゼンダニというダニが皮膚に寄生して起こる、掻痒感を伴う皮膚の病気です。

1-1.ヒゼンダニとは?

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ヒゼンダニ(出典:https://web.stanford.edu/

ヒゼンダニのメスの成虫は、オスと交尾をした後に、手のひら、指の間、手首、わきの下、足の裏や足首、外陰部といった体温が高い所に、疥癬トンネルと呼ばれる横穴を掘り、卵を産みます。温かいところが好きなのですが、高熱には弱く、50度以上、10分で死滅します。

1-2.潜伏期間

ヒゼンダニ自体の卵は、3〜4日でかえり、成長しても10〜14日でなくなります。しかし、これらのサイクルが繰り返されるうちに疥癬の症状が出現します。通常、疥癬に感染してから、潜伏期間の1〜2か月後に皮膚症状が出現します。(あとでご紹介する、角化型の場合は、潜伏期間がさらに短くなることもあります。)

1-3.強い皮膚症状

皮膚は、赤くなったり、ブツブツができたように見えます。痒みが強く、睡眠が妨げられることさえあります。私の認知症患者さんでは、他の症状では訴えが少ないことが多いのですが、疥癬による掻痒感はかなりの方が訴えられます。それほどに強い痒みであるようです。

senior Japanese man scratching his neck
我慢できないほどの痒みを訴えます

2.疥癬には2種類ある

疥癬といっても、症状の強さによって2種類あります。少数のダニであって痒みが強い通常型疥癬多数のダニの寄生が認められる角化型疥癬の2つです。

通常型疥癬 角化型疥癬
ヒゼンダニの数 数10匹以上 100万~200万
他人へうつす力 弱い 強い
症状 赤いブツブツ 皮膚の角質が厚くなった様
かゆみ 強い 不定
好発部位 顔や頭を除いた全身 全身

3.診断の流れは?

疥癬が広がってしまう理由としては、診断が難しいことです。

3-1.最初は皮膚科専門医以外が見ることが多い

皮膚の症状が出た患者さんが、全員皮膚科に受診するわけではありません。特に、高齢者などは数カ所の通院が大変なため、内科医が通常の診察の中で皮膚も診ることが多いのです。また、診療科目に皮膚科が入っていても、皮膚科の専門医でないことがあるので注意が必要です。診療科目の最初に、皮膚科が入っていない場合は、内科の医師が診るのと同様に専門でないことが多いのです。特に、「泌尿器科・皮膚科」、「内科・皮膚科」などには注意してください。

3-2.ステロイドが効かなかったら要注意

通常、皮膚症状に対しては、多くの医師は、ステロイドを処方します。また、陰部なのであれば、抗真菌剤を使用します。これらのいずれでも症状が改善しない、さらに悪化する場合は、疥癬を気にする習慣を、医師だけでなく家族や介護者も持つ必要があります。

3-3.皮膚科専門医でも診断できないことがある

疥癬の確定診断は、ヒゼンダニを検出することです。しかし、経過や症状から疥癬が疑われる患者さんのヒゼンダニの検出率は、皮膚科医が行っても60%前後とされています。そのため、検査が陰性でも症状が残る場合は、数週間おいて繰り返し検査をする必要があります。実際、ブレイングループのデイサービスでも、皮膚科医で疥癬でないと言われた数週間後に、疥癬の診断がされたケースが何例もあり、現場が混乱しました。この期間内に他の方にうつしてしまっている可能性があるからです。

4.治療方法

診断がついた場合は、飲み薬と塗り薬で治療を行います。


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4-1.飲み薬

ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智先生が発見したアベルメクチンを元に開発されたイベルメクチンを空腹時に服用します。

4-2.塗り薬

保険適応薬としては、フェノトリンローション、イオウ剤が使用されます。塗り薬は、正常なところも含めて塗り残しがないように全身に塗る必要があります。

5.感染経路

治療も重要ですが、予防も重要です。そのため疥癬のタイプ毎の感染経路を知っておく必要があります。

5-1.通常型疥癬

少し、触れる程度では感染することはありませんが、長時間肌と肌が触れ合うと感染します。患者さんの使用した寝具や衣類で感染することも全くないわけでは無いので注意が必要です。

5-2.角化型疥癬

感染力が強いため、短時間の接触や、衣類や寝具を介しても感染します。皮膚から剥がれ落ちた角質(あか)にも多数のダニが含まれているので感染の原因になります。

6.介護施設での対応は?

疥癬の診断がされた場合、通常型であろうと角化型であろうと人にうつす可能性は否定できません。そのため、介護施設では疥癬患者さんの利用はお断りします。その再開も、治療による症状の改善後、必ず皮膚科専門医による許可をもらってから利用再開をする必要があります。

ADL低下を防ぐには、介護施設の利用制限は最低限にしたいのですが、他の利用者さんへのリスクを考えるとやむを得ないのです。

7.家族の対応方法

家族の対応は、介護施設程厳しくする必要はありません。通常型疥癬の場合は、皮膚の直接接触を避ければ感染の心配は殆どないので、隔離の必要はありません。ただし、角化型疥癬の場合は、個室管理として、感染予防に注意をする必要があります。

衣類や寝具おいては、通常型も角化型も念のために50度以上のお湯に10分以上浸すか、大型の乾燥機で20〜30分処理すれば、すべてのヒゼンダニは死滅します。

8.まとめ

  • 疥癬は、命の危険はないが、年間8〜15万人発症し、集団感染も起こしています。
  • 早期発見のためには、ステロイドや抗真菌剤は効果がない場合は、早急に皮膚科専門医の受診が必要です。
  • 皮膚科専門医で疥癬が否定されても、症状が改善されなければ、再度皮膚科専門医を受診しましょう。
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