先日、同年代の知り合いの女性が、アキレス腱の断裂をしてしまいました。アキレス腱の断裂というと、プロのスポーツ選手や、アマチュアでも本格的にスポーツをやっている人に多いという印象あると思われています。しかし実態は、中高年の方の何気ない日常でおこる頻度が高くなっています。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、中高年のアキレス腱断裂について解説します。
目次
1.アキレス腱断裂とは?
アキレス腱断裂は以下のような特徴があります。
1-1.アキレス腱とは?
解剖学的に、骨と筋肉を結びつける組織を「腱」と言います。アキレス腱とは、ふくらはぎの筋肉と踵の骨を結ぶ身体の中で最も大きな腱です。歩いたり、走ったり、ジャンプしたり日常生活を送るうえでも重要な働きをします。
1-2.アキレス腱は一番の弱点?
アキレス腱のアキレスの語源は、「アキレウス」のラテン語形でギリシャ神話の英雄を指します。母親が踵を持っていたため、全身を浸すことで不死身になるステュクス河の水を踵につけることができず、唯一の弱点になってしまったのです。この神話から、踵にある腱を「アキレス腱」と呼ぶようになり、さらに、「一番の弱点」の意味として使われるようになったのです。
1-3.切れた時はどんな感じ?
運動などで、急激にふくらはぎの筋肉が収縮した時や、着地などで筋肉が延ばされたときに、アキレス腱が断裂してしまいます。その際には、蹴られたような衝撃を受け「バチッ」「パーン」といった音を自覚することもあります。そのため、強い痛みが続くと思われがちですが、痛みは一時的です。
ただし、直後は、足に力をかけることができないため、転倒したり、しゃがみこんでしまいます。救急車で運ばれる人もいらっしゃいますが、負荷をかけないようにすれば歩行も可能です。アキレス腱が切れた部位は、大きくへこむことがあり、それによって診断されます。
2.若い人と中高年では原因が違う
同じように運動中におこるアキレス腱の断裂でも、若い人と中高年では原因が異なります。若い人の場合は、アスリートのように運動のし過ぎや、無理をし過ぎることが原因であることが多いのですが、中高年の方の場合は、アキレス腱の老化が主な原因となっています。アキレス腱も老化すると考えると寂しくなります。しかし、アキレス腱は、コラーゲン繊維でできているので年とともに硬くなり、柔軟性がなくなります。そのような状態で、急激な負荷がかかると、耐えきれなくなり断裂してしまうのです。
3.アキレス腱断裂の予兆とは?
運動をしていると、ふくらはぎから踵にかけて、痛みが出ることがあります。 単なるふくらはぎの筋肉痛か、踵の打撲と思って様子を見ている方が多いのですが、それはアキレス腱もしくはアキレス腱の周囲に炎症が起きている可能性があります。この状態は、アキレス腱炎もしくはアキレス腱周囲炎といい、アキレス腱を診察すると腫れていたり、触ると痛みを感じます。中高年の場合は、運動による炎症だけでなく、運動をしていなくても腱の老化で小さな傷が入り炎症が起きます。このような状態では、何気ない動作でも断裂が起きやすくなるのです。
以上から、中高年の方は、アキレス腱に痛みがある場合は、痛みが治まるまで2~3週間は安静が大事です。また運動をしなくてもアキレス腱に痛みがある場合は整形外科を受診しておくことがお薦めです。
4.アキレス腱断裂の治療と予後
治療には、以下の2つがあります。長期的には、両者に差はありませんが、手術の侵襲、再断裂のリスク、早期社会復帰を考えて選択します。
4-1.保存療法
手術を行わずに、ギブスや装具を使ってアキレス腱に負担がかからいないようにします。手術による侵襲が少ないメリットがありますが、正常な歩行が可能になるまでに3カ月かかり、約6か月でスポーツへの復帰が可能になります。長期的には、手術療法群と有意差は認めません。
4-2.手術療法
手術の侵襲はありますが、治療中の再断裂が少ないメリットがあり、早期社会復帰を希望される場合に選択されます。アスリートの場合、早期にリハビリが可能なため、筋力の低下が少なくて済みます。
手術後は、アキレス腱の負担を減らす装具を使用して正常な歩行が可能になるまでに2カ月、約6か月でスポーツへの復帰が可能になります。
5.アキレス腱断裂の予防
アキレス腱断裂の予防には以下が大事です。
5-1.運動直前のストレッチ
運動の前には必ずストレッチをしましょう。足首をゆっくり両方向に回し、アキレス腱を十分に伸ばすことが大事です。又、中高年の方は、急なダッシュや強いジャンプは避けるようにしましょう。特に、上り坂や下り坂はアキレス腱に平地に比べて負荷がかかるので注意が必要です。
5-2.常日頃のケア
運動前のストレッチだけでなく、アキレス腱の老化予防のために日頃からのケアが大事です。特にふくらはぎの筋肉が柔軟性を失うと、アキレス腱に不自然な負荷がかかり、断裂の一因となります。運動をするしないに関わらず、ふくらはぎからアキレス腱にかけてのストレッチに心がけましょう。
5-3.ブレイングボード®もお薦め
ふくらはぎの柔軟性の維持には、ブレイングループが開発した運動ツール「ブレイングボード®」もお薦めです。「ブレイングボード®」「有酸素運動」「筋力トレーニング」「柔軟性向上」「バランス性向上」の4つの運動を効率的に行うことができます。
「ブレイングボード®」に乗るだけで、ふくらはぎの裏が伸ばされること体感できます。さらに、足踏みをしたり、片足立ちをすると、より伸ばさされることが実感できます。
さらにブレイングボード®の上で膝の屈伸運動は効果的です。手で摑む場所を膝、ふくらはぎ、足首へと動かしていくことで、全身のストレッチになります。ブレイングボード®に乗る前は手が床につかなかった方も、運動をしてから降りると、あら不思議! 手が床につくように改善されるのです。
6.まとめ
- 中高年のアキレス腱断裂の原因は、運動だけでなく、アキレス腱の老化です。
- アキレス腱断裂は、予兆として「ふくらはぎから踵にかけて、痛みが出ること」が続くことがあります。
- アキレス腱断裂の予防には、運動直前のストレッチと、日ごろからふくらはぎの柔軟性を保つことが大事です。