先日、私の開業する地域の岐阜県恵那市の患者さんの家族が教えてくれたことです。徘徊などのリスクがある認知症患者さんに対して、市の負担で個人賠償責任保険に加入してもらえるとのこと。この制度は、地域で認知症患者さんが生活するうえでとても良い制度です。
なにしろ厚生労働省によると、2025年には認知症患 者は約700万人に達し、65歳以上の高齢者の 約5人に1人が認知症になると予想されていま す。こうなると認知症の患者さんが起こした事故や事件によって、家族が賠償責任を負うケースも増えてきます。
そのような不幸を最小限化するためにも、個人賠償責任の普及は急務です。今回の記事では、FP資格をもつ認知症専門医の長谷川嘉哉が、個人賠償責任保険ついてご紹介します。
目次
1.個人賠償責任保険とは?
日常生活の中で、誤って人の物を壊してしまったり、人にケガを負わせてしまうことはありうることです。それが、認知症の患者さんであれば、まったく予想することができません。実際に、2007年12月に起こったJR東海・共和駅での認知症高齢者の事故は、家族への賠償金請求で裁判になりました。結局、最高裁判決では「監督義務者不在」と判断され、賠償請求は棄却されました。 しかし、認知症高齢者が起こした事故に対し損害賠償請求を受けることは、今後もありうるのです。
そんな時に、損害賠償金や弁護士費用を負担した場合の損害を補償するのが個人賠償責任保険です。
2.認知症高齢者で予想される個人賠償
認知症専門医としては、以下のようなケースで個人賠償の恐れがあります。ただし、認知症患者さんは思いもかけない事をするものです。紹介した事故以外にも、下記のような多くのケースが予想されます。
- 認知症患者さんが店で商品を壊してしまった
- 認知症患者さんが水道の栓を止め忘れ下の階に漏水した
- 認知症患者さんが介護施設で暴れてスタッフや他の利用者にケガをさせた
- 認知症患者さんが火の不始末で火災を起こし延焼した
3.個人賠償責任保険は重複に注意
個人賠償責任保険は、年額1000~2000円程度と安価です。また、すでに加入している自動車保険、火災保険、傷害保険などの損害保険に、特約になっていることが多いものです。そのため、認知症の家族の方も知らないうちに、加入していることが多いのです。費用が安くても、加入しているか否かで万が一の際には、とても頼りになる保険です。以下を確認してみて下さい。
3ー1.対象者の確認を
自分の親が認知症の場合、補償の対象者を確認しましょう。通常、保険の対象は被保険者とその家族全員ですので、認知症の親が同居している場合は、問題ありません。しかし、別居の場合だと対象外とする商品もあります。一方で、別居であっても、生計をともにしていれば、対象になるケースもあります。一度、確認をされることをお勧めします。
3-2.補償内容の確認を
補償内容の確認も必要です。紹介したJRの事故では、電車遅延を引き起こして損賠賠償請求されましたが、人にケガをさせたり、物を壊してはいません。そのため、補償の対象外になる可能性もあります。JRの事故後、一部の保険会社では約款改定を行い、個人賠償責任保険の 補償を見直したところもありました。認知症の親のために、個人賠償保険を確認、もしくは加入する場合は、電車遅延が対象になっているかの確認が必要です。何しろ、電車遅延は、損害額が莫大ですから・・。
3-3.重複加入している場合は、何を残す?
損害保険を確認して、重複している場合は、保険料が無駄になるので整理しましょう。この場合は、補償額が高く、電車遅延も対象になり、示談交渉サービスなどの付帯サービスもついているものを残しましょう。
4.自治体負担で加入できるケースも
自治体が費用を負担して加入できるケースが増えています。一度、お住いの役所に問い合わせられることをお勧めします。ちなみに、私の開業する土岐市、両隣の多治見市、瑞浪市は対応していません。もう一つ隣の恵那市のみが対応しています。この点は、各市町村の意識の差が出ていると思われます。
4-1.団体加入契約となる
認知症の家族が自ら、自治体に事前に登録します。その後、自治体が契約者となって団体契約をむずびます。その際に、認知症患者さんを被保険者として登録すれば、補償の対象となります。
4-2.保険料の支払い
契約者は自治体になるので、保険料は自治体が負担してくれることになります。一つ疑問ですが、多くの市町村の契約において、補償額は1億円(免責金額なし)になっていますが、1億円でも無制限でも、殆ど保険料は変わらりません。できれば、鉄道事故なども考え、無制限にしてくれるとより良いと思われます。
4-3. それぞれが申し立てるのではなく、国で対応すれば?
このような制度ですが、せっかくその制度があっても、自ら登録をしなければ利用ができません。幸い、この制度が導入されている市町村では、ケアマネを通じて周知しようとされています。一方で、これらの制度自体がない市町村が多いことも事実です。できれば自治体任せでなく、国が一律の公的支援として勧めるべきだと思われます。
5.まとめ
- 認知症患者さんが急増する時代、それに伴う事故などで家族が損害賠償請求をされることが増加します。
- それに対応する保険が、個人賠償責任保険です。自動車保険、火災保険、傷害保険などの損害保険の特約になっていることが多いので、対象・保障内容を確認することが必要です。
- 自治体が保険者となって団体加入できる市町村もありますので、確認をなさってください。