理解できる、“理解できない高齢者の時間感覚”

2013-04-24

外来をやっていてよくある会話です。『先生、こないだ出してもらった塗り薬を処方しておいて下さい』。しかしカルテを見かえしても塗り薬の処方は出てきません。ようやく見つけると、なんと2年前です。2年前が、こないだ??

『今日は、血液検査をさせていただきます』『先生、こないだ採血したばかりでは?』。確かに採血しましたが、3か月前です。このように、高齢者の方々の時間の感覚は、かなりいい加減なようです。「加齢とともに時間が早く過ぎる」 という感覚は多くの人たちに共通したものらしく、その理由を説明する理屈には諸説あります。

有名な説として、「ジャネの法則」 というものがあります。これは、「10歳の子供にとっての 1年間はそれまでの人生の10分の 1であるが、50歳の人間にとっては、自分が経験してきた人生のわずか50分の 1。だから年をとるにつれて、時間は短く感じられるようになる」というような理屈を説いたもの。

次のような説もあります。 「年齢を重ねていくと、体の動きが緩慢になるだけではなく、モノを見て判断するのにも時間がかかるようになる。そのため、 “まだそれほど時間は経っていないだろう” と感じていても、実際には時計が刻む 1分、1秒に、その人の時間感覚が追いつかなくなってしまっている。だから実際の時間の方が早く過ぎていくような錯覚に陥り、それが “あっという間に時間が経つ” という感覚をもたらす」


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別の切り口では、こんな説も。 「若い頃は脳細胞の分裂が活発なので、日々の出来事がすべて刺激的に感じられる。刺激に満ちた時間というのは、後から思い起こすと長く感じられるものだ」 つまり、 「子供の頃は、運動会や文化祭、遠足や修学旅行など、はじめて体験するようなイベントが月ごと、年ごとにある。そういう新しいイベントはみな新鮮であり、それが自分にもたらす意味を考える時間も長くなって、記憶も充実する。しかし、大人になると、すべてのイベントは経験済みとなるため、あまり記憶にとどまらない。だから、脳内に “空白” が生まれる。このスカスカ感が、すなわち時間感覚を短いものにしてしまう」

諸説ありますが、自分は脚本家の内館牧子さんの説がしっくりきました。人間が 1年の早さをどう感じるかというと、それはその人間の年齢を、「あたかも “時速” に換算したような感覚で過ぎていく」 。つまり、10歳の人間にとって、時間が過ぎていく感覚は、まさに「時速10km」 。 18歳なら、時速18km。53歳なら、時速53km。75歳なら、時速75km。
どんどん加速していくわけです。もちろん、これはただの主観的な目安に過ぎないけれども、年を取れば取るほど、1年が過ぎ去っていく早さは、そんなように体感されるのです。

残念ながら自分でも、月日の経つのが早く感じるようになってきました。“時速”が早くなってきたのかも知れません。

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