2025年問題をご存知でしょうか?
端的に言えば、「後期高齢者が急増する。それに伴い産業構造が著しく変化する」ということです。
医療や介護の現場では、以前から2025年問題を意識しています。今、後期高齢者じゃない50〜60代の方にとってはまだピンと来ないかもしれませんが、現在の医療や介護の制度や施設、従事者数では圧倒的に足りなくなるのです。
「将来は介護施設にお世話に……」と考えている方もいるかもしれませんが、このままでは、そのタイミングになったときにスンナリ入れる保証はないのです。
反面、先日ゴルフ場に行った際に目にしたのですが、「ゴルフ人口が激減する2025年問題」のポスターが張られ、「若い人をゴルフ場に連れて来ましょう!」と訴えていました。レジャー業界は別の意味で危惧感を感じています。なぜこのようなことになるのでしょうか。
2018年を迎え、あと7年で2025年です。日々、急増する認知症患者さんを診察している認知症専門医である長谷川の視点で2025年問題を予想します。
目次
1.2025年問題とは
日本では、世界でも例を見ないスピードで少子高齢化が進行しています。日本ではじめて、全人口に占める高齢者の割合(高齢化率)が7%を超える「高齢化社会」となったのは1970年のこと。そこからわずか25年足らずで高齢化率14%を超える「高齢社会」、さらに2007年には高齢化21%を超える「超高齢社会」へと進んできました。
日本の高齢化率は、今後も緩やかなカーブを描きながら上昇が持続すると見込まれています。団塊の世代である、第1次ベビーブーム(1947年~1949年)に生まれた約800万の人々が、後期高齢者(75歳以上)に達する2025年には、高齢化率は30%に到達し、人口の3人に1人が高齢者という時代が到来します。
長生きであることは大変喜ばしいことですが、日本の場合、高齢化率の上昇と共に、少子化(出生率の減少)が同時に起きているため、私たちの暮らしを脅かすさまざまな問題が生じる恐れがあります。これらの問題を総じて「2025年問題」と呼んでいます。
2.2025年に起こるとされている問題とは
この国の産業の中心となっていた世代が75歳以上になってしまうということは、労働人口に大きな影響を与えます。世間で言われている2025年に起こることを列挙します。
・一次、二次産業従事者が減る ’00~’10年の10年間で、事務職や工業系技術者は14%、農家や漁師は30%、また土木作業者や建設技術者は40%も減っています。2025年にはさらにこの傾向が強まっています。少子化や若者世代の就労意識変化に伴い、このタイプの産業人口減は避けられないでしょう。
・後期高齢者が増加する ベビーブーム世代が75歳以上になるわけですから、それに伴うサービス需要がさらに望まれます。医療や介護がまず影響を受け(すでに受けています)。「高齢者向けの〇〇」「介護生活者のための〇〇」といった商品やサービスが身の回りに溢れます。
・国の医療費負担が増加する 厚生労働省の推計によれば、2025年の医療保険給付は総額54兆円と、現在より12兆円以上増える見通しです。
・年金給付額が2割程度減る 物価や賃金の変動に合わせて給付額を減らす「マクロ経済スライド」が採用されているので、現在よりは目減りすることは避けられません。「年金制度が破綻する」と言っている方も少なくありません。
・外国人人口が増える 国内で働き手が不足すると外国からの出稼ぎ需要も今以上に増えます。
・限界集落が増え、都市部に人口が集中する 地方の高齢化はさらに進み、人のいない地方町村地区が増えます。子は都市部に近いところで暮らすようになり、一度離れた田舎には戻ってきません。
・レジャー産業が衰退する ゴルフは中年世代に特に人気の高いスポーツです。この産業を支えていた団塊の世代が75歳以上になるとゴルフを楽しめなくなります。冒頭にご紹介した「若い人を連れてこよう」というキャンペーンはまさに今後の対策の一環です。
以上のようなことが言われています。
3.長谷川が予測する2025年はちょっと違う
私は学者ではありません。しかし、毎月1000人の認知症患者さんと、その介護者と経済的状況を目にしています。2025年に高齢化率が30%に達した時を想像してみました。
3−1.年金は大丈夫
よく言われることが、「財政が厳しくなって年金が破たんする」です。金融機関が「これからは年金はあてにならない」と言って金融商品を勧めてくることもあります。しかし、国が国民と約束した年金を払えない時は、国が破たんした時です。そのときは、国より先に金融機関がつぶれています。
財政状況は厳しいですが私は何がなんでも年金制度は維持されていると思います。日々の外来をやっていると、年金の重要性を私自身だけでなく、医療スタッフも痛感しています。年金は、老齢年金だけでなく、障害を負った場合の障害年金、死亡した時の遺族に対する遺族年金も含めた年金制度です。根拠のない年金破綻論には、耳を貸さずに年金だけは払っておきましょう。
3−2.円安・インフレ
年金制度は維持されたとしても、国の借金はとどまることはなく、社会保障費も増大します。そうなると、さすがに国の信用力も低下し、結果的に円安に進行します。ちなみに、堺屋太一さんは小説「平成30年」の中で、1ドル220-240円を想定しています。
バブル崩壊後、どれだけ国がデフレを誘導しても成功しませんでしたが、円安が進行すれば必然的に石油の高騰を起点として、電気代も高騰し、結果としてインフレとなります。
3-3.就労環境&住宅環境&レジャー環境も思いのほか悪くない
給与については、人手不足、インフレにより額面は確実に上昇します。しかし、社会保障費の負担も上がるため、思った以上に手取りは増えないでしょう。そのうえ、インフレにより物価は上昇します。
そこで、若者は車や住宅のような贅沢品を購入しない消費行動をとります。なにしろ、車は維持管理が大変です。所有しなくても必要なときにレンタルすれば済んでしまいます。住宅も、少子化で親の自宅が自分のものになるのですから、無理して購入する必要はありません。車や住宅にお金をかけなければ、生活は結構豊かなものです。夫婦共働きならば、さらに自由になるお金も増えるわけです。
そのうえ、労働時間も以前のような長時間労働から解放され、自由になる時間も増えます。若者は、仕事は仕事と割り切り、家族との時間を取りながらレジャー娯楽趣味にもお金や時間を費やすようになるのです。
3−4.介護職は人気職種
2025年度には要介護者数も相当な数に上ることが予測され、介護職員が全国で約38万人不足するという推計が発表されています。しかし、介護職は結構な人気職になっているかもしれません。何しろ現在でも、介護事業に支給される、処遇改善加算により確実に給与は増えています。さらに最近では、介護経験10年をこえた人に年収で100万円の処遇改善加算まで検討されています。
こうなれば介護職の賃金も一般企業に引けを取りません。そうなると以下のような介護職のメリットが出てきます。
- 都会でなくでも仕事がある。都会に出なくても地方でも介護の職はいくらでもあります。
- その結果、地方に残れば親の家や土地があり、住居費はわずかですみます。
- 介護事業は安定しています。忘れていけないのは、リーマンショックの際にトヨタ系の企業が賞与を減らす中、介護事業は通常の賞与を支給したのです。
3−5.無用な延命が激減
さすがにタブーとされていた終末期の過剰な医療費についても国民全体が考えるようになるでしょう。高齢者や重度の認知症患者さんへの、胃瘻造設や透析などの過剰な医療は皆が控えるようになるでしょう。「成人には胃瘻は増設しない」が常識になれば、30万人前後の患者さんが自然に亡くなることになります。その結果、介護施設にも余裕ができるのです。
何も新しい取り組みをしようとしているわけではありません。「食べられなくなったら最期」。昭和30年代では、日本中で普通に行われていたことをするだけなのです。
4.2025年問題はこう解決しよう!
国や、事業者、個人関係なく対応が必要です。
4−1.一生使える身体と頭を維持しよう
生涯現役であれば、2025年問題も全く怖くありません。私の拙書「一生使える脳」では、3つの法則を紹介しています。
法則一「一生使える脳を育んだ人は、脳の整え方を知っている」
法則二「一生使える脳を育んだ人は、健康のコツを知っている」
法則三「一生使える脳を育んだ人は、周りに頼れる環境をつくっている」
詳しくは以下を参照ください。
4-2.無理に住宅を購入しない
インフレが予想される社会では、給与の額面が増えても実質手取りは増えません。生活費の中で最大の比重は住宅です。いずれ親の家を引き次ぐことができると予想されれば、無理な住宅購入は控えましょう。
そうすれば職業選択の自由も広がり、家族との時間も増え、自身の趣味やレジャーに使えるお金も手にすることができるのです。
4-3.外貨に分散
デフレの時代は、日本円で銀行に預けることが最良でした。これからの円安・インフレ時代は、それなりに資産を分散する必要があります。外貨預金で結構ですので、一部を外貨、お勧めはドルにしておきましょう。
その時に銀行員が投資信託等を進めてきますが、相手にしてはいけません。リスク商品を売って儲かるのは金融機関だけです。長谷川家の家訓は、「銀行員に勧められる商品を購入してはいけない」です。元銀行員の私の父親が言うのですから間違いはありません。
4-4.教育
どんな時代になっても最後に残るのは教育・資格です。子供たちには、貴重な大学時代をアルバイトと遊びに費やすなら、資格が手に入れられる専門学校や大学を勧めましょう。若い時代は涙を流すほど努力すべきです。そうでないと年を取ってから涙を流すことになるのです。
5.まとめ
- いろいろな問題を抱えた2025年問題ですが、視点を変えれば良いことだらけです。
- そのためには、教育を重視して、男女問わず仕事を持って、年金には必ず加入しましょう。
- あとは、身の丈に合わせて無理に住宅を購入せず、資産を外貨に分散しましょう。