外来をやっていて、「喉が痛い」という症状で受診される患者さんはたくさんいらっしゃいます。「喉が痛くて食事も水分も取れない」「喉が痛くて夜も眠れない」等、訴え方も様々です。同様に、診察所見も、訴えほど赤くなかったり、逆にひどく腫れて膿がついているなど様々です。
そんな誰もが経験する喉の痛みですが、原因や状態によって対応方法は異なります。今回の記事では、総合内科専門医の長谷川嘉哉が、喉の痛みの正しい診断・対応方法についてご紹介します。
目次
1.なぜ喉が痛くなる?
そもそも、なぜ喉は痛くなるのでしょうか? 喉は、空気や食べ物の通り道であるため、外敵の侵入を防ぐ機能を備えています。そのため喉は粘膜で守られていますが、ウイルスや細菌などによって破壊され傷つくと、防御反応によって炎症が起こります。炎症が起きた部位は、赤くなり、熱を持ち、腫れ上がり、痛みを感じるのです。
外敵によって攻撃された細胞は、化学物質を放出します。放出された化学物質は、外敵と戦う白血球を集めるために血管を拡げます。すると血液量が増え、毛細血管から血液成分が出て、リンパ液とともに溜まります。これが「腫れ」です。この腫れがまわりの神経を刺激するため、痛みが発生します。この炎症が喉に起こることで、「喉の痛み」を引き起こすのです。
2.喉が痛くなる原因
喉が痛くなる原因も様々です。
2-1.風邪、扁桃炎
風邪や扁桃炎で、喉の粘膜にウイルスや細菌が侵入すると、咽頭や扁桃に炎症を起こします。
2-2.喉の酷使
大声を出したり長時間歌うなどして、無理に声を出し続けると、喉の炎症の原因となります。
2-3.アルコールの影響
お酒を飲みすぎた後に、喉が痛くなって、「風邪を引いた?」と思うことはありませんか? 飲酒後は、アルコール分解のために大量の水が必要なため、細胞から水分が奪われます。そのため、喉が乾燥して炎症を引き起こすです。また、アルコールがダイレクトに喉の粘膜を傷つけ、痛みが出たり声が枯れる場合もあります。
2-4.喫煙の影響
有害物質が含まれるタバコの煙が、喉に直接悪影響を及ぼし、声帯に炎症を引き起こします。
2-5.乾燥
喉が潤っていると、のどの粘膜が外敵の侵入を防いでくれますが、喉が乾燥していると外敵が侵入しやすくなり、炎症が起こりやすくなります。喉のうるおいを保つ湿度は約60%と言われていますが、夏場でもエアコンをつけた部屋の湿度は40~50%、冬は20%程度になるため、適切な加湿が必要です。
2-6.アレルギーの症状
初めて花粉症になった患者さんは、執拗に「喉の痛み」を訴えます。しかし、これは「痛み」というよりは「痛痒い」です。当然治療も原疾患を治療するために抗アレルギー剤を使うことになります。
3.対処法
喉に痛みには以下のように対応します。
3-1.加湿
部屋の加湿により湿度を適度に保つと痛みは緩和されます。マスクをすることで喉が加湿されるので痛みを緩和します。マスクをしてもウイルスなどはマスクの目を通過します。そのことは承知の上、我々医療従事者は、感染防止よりは喉の加湿目的でマスクを使用しているのです。
喉に潤いを与えるのど飴も、のどの湿度を保ち、のどの痛みに効果的な対処法です。のど飴は、医薬品から指定医薬部外品、食品に至るまで様々な種類が販売されていますが、あくまで保湿目的ですから効果に大きな差はありません。
3-2.殺菌
うがいや、直接塗ったり吹き付けることで喉を殺菌します。医療機関では「イソジン」といううがい薬を処方します。イソジンに含まれるポビドンヨードは、ヨウ素を遊離し、口中から喉の細菌、真菌、ウイルスなど広範囲の微生物に対して迅速な殺菌・消毒効果を発揮します。
薬局等では、ポビドンヨードを含んだ、より使いやすい、スプレー/うがい薬/ドロップなどのタイプが販売されています。具体的には以下のような製品です。Amazon広告から紹介します。
3-3.解熱鎮痛剤
医師の処方としては、解熱鎮痛剤を使用します。解熱鎮痛剤は、発熱や頭痛などにも使う薬ですが、喉の炎症や痛みも抑えます。但し、あくまで対処的に炎症を抑えるだけであり、根本を治療するわけではありません。人間の身体は、自然治癒の過程として、喉があれ、痛みが生じています。
解熱鎮痛剤の使用でかえって、治りが遅くなることもあります。個人的には、喉の痛みに対してはできるだけ、解熱鎮痛剤は処方を控えるようにしています。もちろん、患者さんへの説明は必須です。
3-4.抗生剤
喉に膿がついて細菌感染が疑われる場合は、抗生剤を投与します。通常のウイルス性の風邪には抗生剤は不必要ですが、細菌感染の場合は積極的に使用します。
4.喉に白い膿がある場合の判別法
鏡で喉の奥を診た時に、牛乳のカスのような白っぽいものがついている場合、膿の可能性があります。喉に膿ができることによって痛みを感じる場合もありますが、逆にまったく痛みを感じない場合もあります。
4-1.喉に痛みがあるとき
喉の痛みや発熱がある場合は、細菌感染を疑います。この場合は、A群β溶連菌の検査は必須です。最近はキットが出ており、開業医レベルでも検査は可能です。A群β溶連菌の場合、確実に溶連菌を退治しないと心臓弁膜に障害などを起こすリウマチ熱や、急性糸球体腎炎といった合併症につながります。そのため、小児に多い病気ですが、成人でも必ず検査を行います。A群β溶連菌の場合、抗生剤を通常より長期(10-14日)に服用する必要があるので、患者さんへの丁寧な説明が必要となります。
A群β溶連菌が否定されても、血液検査で炎症反応としてCRPや白血球が増えている場合は細菌感染として抗生剤を点滴もしくは経口投与します。成人で年に何度も扁桃炎により38度以上の発熱を繰り返す場合は、口蓋扁桃を取り除く手術を検討します。
4-2、喉に痛みがないとき
喉に膿があるように見えるけど痛みは感じないという場合は、「膿栓」ができているかもしれません。口を「アー」と開けると、喉の奥、左右の脇に見える扁桃腺があります。扁桃腺にはくぼみがあり、炎症があると、そのくぼみに細菌の死骸などがたまりやすくなります。この貯留物が膿栓です。
膿栓があるのは扁桃に炎症があるためですが、特に症状がなければ治療の必要はありません。膿栓のために喉に異物感や異常感がある場合は、取り除くことがあります。耳鼻咽喉科で、圧迫して押し出す、吸引やピンセットで取り除く、薄めた食塩水で洗い出すといった処置を行います。
5.喉にルゴールを塗って効果はあるの
昔、風邪を引くと母親に喉の奥に、ルゴールという消毒液を塗ってもらったものです。塗られた後は、かなりしみて痛いのですが、風邪症状は楽になりました。最近は内科医でもこのルゴールを塗る機会が減ってるとは思いませんか? 通常、口を開けて見えるのは、中咽頭と言って上咽頭より下の部分です。そのため、中咽頭に薬を塗るのは意味がないと、内科医は思っています。
しかし、耳鼻科の先生は上咽頭の炎症にはとてもよく効くことを知っています。この治療、実は耳鼻科の先生の中では「Bスポット療法」といって評価されているのです。Bスポット療法とは、消炎剤を鼻の奥にある口蓋垂(通称:のどちんこ)の後ろの部分である上咽頭に塗布する治療法のことです。少々痛い思いをしますが、塗布後は楽になるのです。
私の母親が塗ってくれたときは、自分が横になり声を出した状態で、かなり喉の奥を塗ってくれました。そのためか、自分は内科医ですが効果を体感していたようです。
6.喉の痛みの予防策
のどの痛みの予防策をご紹介します。
6-1.病原体が体に侵入しないように免疫力をアップする
常日頃から、規則正しい生活をしましょう。不思議と夜更かしをしたり、遅くまで飲み歩くと喉が痛くなって風邪を引くものです。言い換えれば、規則正しい生活をして、睡眠・栄養・運動をしていれば免疫力がアップするのです。
6-2.喉が乾燥しないように日常的にケアする
今の時代、季節を問わずに乾燥には注意が必要です。加湿器を適切に使用し、マスクも適宜使用しましょう。もちろん、内面から水分の摂取も気を配りましょう。
6-3.おかしいと思ったら
どれだけ気をつけていても、風邪の引き初めに「喉が痛い」ということがあるものです。私は個人的には、この段階で漢方の総合感冒薬「葛根湯」を飲み、綿棒にイソジンを含ませて喉の奥が染みる程度まで塗ります。これだけで、さらに悪化することはかなり防げています。参考になさってください。
7.まとめ
- 喉の痛みは、多くの原因で起こります。
- 喉に膿がついて、痛みや発熱がある場合は、医療機関で抗生剤治療が必要です。
- 風邪の初期症状としての「喉の痛み」には、葛根湯と喉の奥の消毒がお勧めです。