ハルシオンの効果、副作用について。体に優しく変更する方法を医師が解説

ハルシオンの効果、副作用について。体に優しく変更する方法を医師が解説

外来をやっていると「先生、眠れないので睡眠薬をください」と簡単に依頼されることがあります。しかし、脳神経内科専門医としては、睡眠薬には副作用があり、慎重に検討する必要があるため安易な処方は行いません。

しかし残念ながら、専門外の先生の中には、安易に睡眠薬を処方される先生もいらっしゃいます。その中でも特に大きな悪影響を与えるのが、ハルシオン(一般名:トリアゾラム)の処方です。30年以上前に私が地域の基幹病院で勤務していた時でさえ、あまりの副作用のために脳神経内科5名によって処方をしないことを取り決めたほどでした。現在では、ハルシオンの代わりになり、安全性も高い薬も出ています。それなのに相変わらず専門外の先生によって処方されるケースが残っているようです。

今回の記事では、脳神経内科専門医である長谷川嘉哉が、ハルシオンの効果、副作用について紹介し、体に優しく変更する方法を解説します。「眠れない=睡眠薬=ハルシオン」とお考えの方にぜひご一読していただきたいと思います。

目次

1.ハルシオンとは?

ハルシオンは、1983年に発売されたベンゾジアゼピン系に分類される睡眠薬になります。不眠を訴える患者さんは、簡単に分けると「寝付けない」「途中で目が覚める」「寝付けないし、途中で目が覚める」に分けられます。

ハルシオンの特徴は、効果の早さと入眠作用の強さです。作用時間が短く、翌日に眠気が残りにくい睡眠薬になります。このためハルシオンは、「寝付けない」、いわゆる入眠障害に使われることが多い睡眠薬になります。逆に、寝付けるが途中で覚醒するタイプの方には効果は期待できません。

800px-ハルシオン0.25mg
ハルシオン0.25mg錠(出典:wikipediaより)

2.ハルシオンの効果

睡眠薬は、その作用メカニズムの違いから2つに分けることができます。

  • 脳の機能を低下させる睡眠薬
  • 自然な眠気を強くする睡眠薬

ハルシオンは、前者の「脳の機能を低下させる睡眠薬」になります。脳の覚醒に働いている神経活動を抑えることで、眠気を促していきます。「疲れきって眠ってしまうとき」に近い状態を作り出すため睡眠導入剤と呼ばれます。この作用はとても強く、私が研修医の時の同僚が、ハルシオン飲んで寝た際に、虫垂炎から腹膜炎を起こしていても覚醒せずに、薬が切れたころに激痛により覚醒。その後、緊急手術になったほどです。

3.人気があるためジェネリックもたくさん

ハルシオンは専門外の先生には人気のある睡眠薬であり、多くのジェネリック医薬品が発売されています。しかし、これだけ1つの薬にジェネリック医薬品が発売されると、50歳を超えた医師には大変です。「これって何の薬?」と思って、その都度調べては、「なーんだハルシオンのジェネリックか」と納得しています。また患者さんにとっても「これって何のお薬なの?」と分からなくなってしまいます。以下の薬は、すべてハルシオンのジェネリックです。

  • ハルラック
  • ミンザイン
  • アサシオン
  • トリアゾラム
  • パルレオン
  • トリアラム
  • アスコマーナ
  • カムリトン
pills and stethoscope
多くのジェネリック医薬品がハルシオンとは別名で販売されています

4.ハルシオンの副作用

ハルシオンの作用の強さは、依存性の高さにもつながります。その錠剤が青いため、今でも「あの青い薬は絶対に止めないでください」と訴えられる患者さんもたくさんいます。そのため以下のような副作用があるのですが、患者さんの依存性が強いため変更できないことも多いのです。

4-1.健忘

ハルシオンの副作用で最も怖いものです。健忘の中でも、ハルシオンの副作用として報告されているのは、普段生活している中で、一時的に記憶を失ってしまう「一過性前向性健忘」です。例えば、患者さんの例では、「朝起きたら寝る前にあった牛乳が飲まれていたので、周囲に確認したら自分が飲んでいた」、「夜間、一人で歩いているところを知り合いに指摘されたが全く覚えていなかった」などです。問題なのは自分がした行動を覚えていないところです。そのため継続して服用を続けると認知症になる可能性が高いと言われています。

4-2.めまいやふらつき

ハルシオンは効き目が強い睡眠薬なので、眠くなる前段階の時にフラフラする作用が出ると言われています。高齢者が服用すると転倒、骨折につながります。そこから行動量が落ち、認知症発生のリスクが増すのです。そのため、特に高齢者には、絶対にハルシオンの処方は控えてもらいたいのです。

4-3.眠気の延長感

ハルシオンの副作用に、持ち越し効果といって「眠気が必要以上に続いてしまう」症状があります。これも高齢者の場合、日中の覚醒度が下がるため、使ってほしくない理由です。

Memory loss due to dementia. Senior man losing parts of head as symbol of decreased mind function.
まさに脳が蝕まれていくような危険性があると感じています

5.これでもハルシオンを処方してもらいますか?

以下の現実を知ったうえで、専門外の先生はハルシオンを処方しているのでしょうか?

5-1.世界総販売額の約6割が日本で販売

ハルシオンは、米国で1976年に新薬申請され、82年に承認されました。承認に時間がかかったのは記憶喪失、筋肉運動失調症、混乱などの副作用が多く、繰り返し服用で効果減少、中止でリバウンドが出るなどの問題が指摘されたからです。欧州諸国では発売後、副作用報告が続き、オランダは77年に承認されましたが、79年8月に承認を一時停止し。ベルギー、ルクセンブルグもそれにならっています。オランダは80年1月、承認を一旦取り消し、その後、警告付きの販売。イギリスは78年に承認されましたが、91年10月に販売中止。フランスは87年、0.125mg錠のみ、一日最大0.25mgと制限。ちなみに世界総販売額の約6割(75億円)が日本で販売されているそうです。


長谷川嘉哉監修の「ブレイングボード®︎」 これ1台で4種類の効果的な運動 詳しくはこちら



当ブログの更新情報を毎週配信 長谷川嘉哉のメールマガジン登録者募集中 詳しくはこちら


5-2.高齢者に慎重投与する必要があるとの見解

日本老年医学会は高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリストを発表しました。その中で健忘症状が出現する理由でハルシオンの慎重投与が指摘されています。

6.ハルシオンを処方した医師は、副作用が出現した時に関わらない!

私が地域の基幹病院で脳神経内科専門医として働いていたとき、意識障害の患者さんが病院に受診された際は、すべて我々が診察・治療していました。その中には、睡眠薬の副作用の患者さんもいらっしゃいました。そして脳神経内科医が対応して、改善して帰宅・退院されました。

つまり、ハルシオンをはじめとした不適切な薬を処方した医師は、副作用が出現したときには関わらないのです。専門外の開業医であれば、自分の処方による副作用でも、知らないうちに救急で受診をしているケースがあり、これがその医師にフィードバックされないのです。その結果、副作用が強いハルシオンを漫然と処方する医師が減らないのです。

7.ハルシオンの変更の仕方

高齢者でハルシオンを服薬している場合は以下のような対応があります。

7-1.中止できることも

これだけ習慣性の強いハルシオンですが、中止しても全く問題ないこともあります。処方自体が不要であったのかもしれません。本人に確認して一度中止してみてもよいかもしれません。

7-2.同系統の薬で変更を

本人に、聞いてみて「睡眠薬は絶対に欲しい」と言われれば、ハルシオンに似た作用機序の薬に変更します。具体的には、入眠障害を改善するお薬として、比較的安全性の高いゾルピデム(商品名:マイスリ―)やゾピクロン(商品名:アモバン)などの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬に変更します。

7-3.自然な眠気を強める睡眠薬

睡眠薬の継続を希望された際に、より安全なタイプの薬に変更することもあります。近年では、睡眠に関係する生理的な物質を調整する薬が発売されています。現在発売されているのは、2つの物質に関係する薬です。ハルシオンから変更しても眠れるという患者さんもいらっしゃいますので、試してみる価値はあります。

  • メラトニン受容体作動薬ラメルテオン(商品名:ロゼレム)は、体内時計のリズムを司っているメラトニンの分泌を促します。メラトニンは20時頃から分泌され、深夜1~2時頃をピークに、明け方になると光をあびて消えていくという物質です。年齢を経るごとに分泌量が減少するといわれていて、ロゼレムはこのメリハリをつけるお薬です。
  • オレキシン受容体拮抗薬:スボレキサント(商品名:ベルソムラ)は、覚醒状態があるときに働いているオレキシンという物質の働きをブロックし、睡眠状態へスイッチを切り替えていくようなお薬です。

8.睡眠薬を積極的に使用するケースもある

今回は、ハルシオンの副作用についてご紹介しました。しかし、決して睡眠薬の使用自体を否定しているわけではありません。以下のような場合は、積極的に使用します。

8-1.不眠の明確な原因がある場合

例えば、配偶者を亡くした時、子供さんが亡くなった時のように、明確な原因があって不眠になることがあります。そんな時は、睡眠薬の力を借りてでも睡眠を確保することが大事です。人は睡眠さえ確保できていれば、人生の困難を乗り越えることができるものです。

8-2.不眠が日中の生活にまで影響を及ぼす場合

眠れないことが、昼間の生活・仕事にまで影響を及ぼす場合も睡眠薬の力を借ります。もちろん、その際には、寝付けないのか、途中で覚醒するのかなど、タイプにあった睡眠薬の服用が大事です。まずは、前章で紹介した「自然な眠気を強める睡眠薬」から開始することがお勧めです。

8-3.使用する場合は、副作用を心配しない

いったん服用すると決めたら、やみくもに副作用を心配することはやめましょう。「自分は薬を飲んでしっかり寝て、昼間しっかり働くんだ」という気持ちで服薬するようになさってください。ときどき処方する医師が副作用を伝えすぎて、効果が半減してしまうこともあるのです。

9.まとめ

  • ハルシオンは、副作用の点から特に高齢者への使用は避けたい薬です。
  • 海外でも中止・制限されている国が多く、世界総販売額の約6割が日本で販売されています。
  • 依存性が強いため変更もしにくいため、専門外の医師の方には、極力処方を控えていただきたいです。
長谷川嘉哉監修シリーズ