毎年、冬場になるとインフルエンザワクチンが話題になります。私は、毎年1,000人以上にインフルエンザワクチンの予防接種をします。しかし、その私自身は注射を打たれることは苦手です。そのため、毎年、全スタッフの予防接種が終了後、周囲にせかされて「嫌々」打ってもらっています。
やはり、医師とは言え針を刺されることは嫌なのです。そんな注射嫌いの方に朗報なのが、「インフルエンザの経鼻ワクチン」です。鼻にスプレーをするだけでインフルエンザを予防できる「経鼻ワクチン」が実用化に近づいています。今回の記事では、この「経鼻ワクチン」の痛み軽減だけではない、優れた効能についてご紹介します。
目次
1.経鼻ワクチンとは?
現在、インフルエンザの予防接種と言えば、注射によるワクチン接種が世界的に普及しています。今回の「経鼻ワクチン」は鼻の中に、噴霧することで予防効果を得ます。アメリカなどではすでに行われているのですが、日本国内ではまだ承認されていません。
2.従来の予防接種は体内への侵入は防げない
インフルエンザワクチンは皮下に注射するタイプが従来型です。実はこの注射では、ウイルスが身体に入り込むことは防げません。それはなぜかというと、ウイルスは気道を通じて体内に入ってくるからです。
気道にウイルスが侵入してくると、それを防御するのは粘膜免疫になります。これを突破されると、身体に侵入してしまいます。つまり、インフルエンザワクチンを接種していても、インフルエンザウイルスに「感染」してしまうのは普通にありえることなのです。
しかし、ワクチンの効果はここから発揮され、免疫の働きでウイルスを抑制して発症を抑えることができるのです。ところが、小児や高齢者のように免疫の働きが不十分だと、たとえワクチンを接種していても症状が生じてしまうのです。これが注射による予防接種のデメリットです。
3.感染を予防する経鼻ワクチン
経鼻ワクチンは、鼻から吸入するので接種時の痛みがないだけではなく、優れた効果があるのです。
3-1.感染を予防する
経鼻ワクチンが鼻やのどの粘膜に取り込まれると、体内の免疫が活発になり、侵入したインフルエンザウイルスを対する、「抗体」が粘膜表面に大量に放出されます。これが門番のように、体内へのウイルスの侵入、つまり感染自体を予防するのです。
3-2.血中にも抗体ができる
従来の皮下注射は、血中にしか抗体ができなかったため、感染自体は防げませんでした。しかし、経鼻ワクチンは、ウイルスの侵入を抑えるだけでなく、血中にも抗体ができ二重の防御をするのです。
3-3.感染予防の効果は?
大阪大微生物病研究会(大阪府吹田市)らの研究で、「経鼻ワクチンを2回投与すると注射を1回した場合に比べて、鼻の粘膜での抗体の働きが約3倍に高まった。」との報告あります。
4.新型にも効果?
感染自体を防ぐ経鼻ワクチンは、新型ウイルスへの効果も期待されています。
インフルエンザは構成するタンパク質の組み合わせで100種類以上の種類があります。特に新型のウイルスが発生すると従来の予防接種では効果が期待できません。
しかし、経鼻ワクチンは、噴霧した鼻やのどの粘膜表面に、血中の抗体とは異なる種類の「IgA」が産生されます。IgAは複雑な形状をしているため様々なタイプのインフルエンザウイルスに対応することができるのです。
実際、異なるタイプの皮下ワクチンをうったケースでは、他のタイプの感染で全例死んだにもかかわらず、経鼻ワクチンでは約8割が生き残ったことが証明されています。
5.副作用・対象は?
このように、経鼻ワクチンは現状のところ良いところだらけです。
5-1.予想される副作用
詳細な臨床データは、まだ公開されていません。しかし、鼻水や発熱、喉の痛みなどが予想されます
5-2.対象は?
やはり、痛みがない点では子供さんにはとても有効と考えられます。しかし、痛みの改善以上に効果を考えると全年齢の方が対象になると思われます。
5-3.認知症患者さんは?
少し心配なのは、私の外来の認知症患者さんです。認知症があっても、一瞬の痛みである注射は何とか対応できます。しかし、自分の鼻の中に噴霧することは、かなりの抵抗が予想されます。もしかすると当院では、一部注射による予防接種も残す必要があるかもしれません。
6.まとめ
- アメリカでは、インフルエンザの経鼻ワクチンが実用化されています。
- 経鼻ワクチンは、痛みがないだけでなく、感染自体を防ぎます。
- さらに、新型ウイルスへの効果も期待できるのです。