帯状疱疹の患者さんが増えています。帯状疱疹は、神経の走行に沿って水泡が出現し、痛みを伴います。痛みは相当なもので、長期にわたって不快な感覚障害を残すこともあります。そんな帯状疱疹には出来れば罹りたくないものです。
最近外来で、帯状疱疹の予防接種についてご質問を受けることが増えてきました。患者さん自身も、接種すべきか否かを迷っているようです。今回の、記事では、帯状疱疹後神経痛を専門とする脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、帯状疱疹ワクチンについて解説します。なお、帯状疱疹については、以下の記事も参考になさってください。
目次
1.帯状疱疹とは?
帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルスに感染して発症する病気です。初めて感染したときは水ぼうそうを発症します。水ぼうそうが治った後、水痘帯状疱疹ウイルスは脊髄の根本に潜伏し、悪さをすることなく「年単位」で潜んでいます。
しかし、ストレスや疲れなどがきっかけとなりウイルスに対する抵抗力が低下すると、水痘帯状疱疹ウイルスが再活性化して帯状疱疹を起こします。発症年齢は60歳代を中心に、50歳代〜70歳代に多くみられる病気です。統計的には、約60%が50歳から70歳代で発症しています。しかし、若い方であっても水ぼうそうにかかったことのある人なら、誰でも帯状疱疹になる可能性があります。
身体の左右どちらか一方にピリピリと刺すような痛みが起き、これに続いて赤い斑点と小さな水ぶくれが帯状(おびじょう)にあらわれるため、「帯状疱疹」という病名がつけられました。
2.帯状疱疹ワクチンとは?
50歳以上の方は、帯状疱疹のワクチンがあります。水ぼうそうに罹ったことがある人は、水痘帯状疱疹ウイルスに対する免疫を持っていますが、加齢とともに弱まってしまうため、ワクチン接種で、免疫力を強化して、帯状疱疹を予防をサポートすることができます。予防接種は、帯状疱疹を完全に防ぐことはできませんが、発症しても軽症で済むと報告されています。ワクチンには以下の2種類があります。
2-1.乾燥弱毒生水痘ワクチン
水ぼうそうに対するワクチンと同様の、生ワクチンです。そのため、著しく免疫が低下した患者さん(エイズ感染、抗ガン剤使用、免疫抑制剤使用、ステロイドホルモン使用中)には使用できません。1回の接種で、5〜10年効果が持続し、帯状疱疹の発症が半減し、神経痛の発症は1/3ほどに抑えられます。
2-2.サブユニットワクチン(シングリックス®)
2020年1月に発売されたシングリックスは、生ワクチンではないため、免疫が低下した人にも使用できます。帯状疱疹に対する予防効果は、50歳以上の方で約97%、70歳以上の方で約90%と報告されており、水痘ワクチンよりも有効性が高いと考えられます。ただし、2カ月ほどの間隔をあけて2回接種することが基本となります。
2-3.どちらのワクチンを接種する?
副反応としては、生水痘ワクチンに比べ、シングリックスの接種で多くの方に注射部位の痛みや腫れがあらわれます。しかし、これらの症状は殆どが、3日以内に治まります。せっかく接種するのであれば、効果の高いシングリックスがお薦めです。
3.帯状疱疹がなぜ増えたか?
そもそも、なぜ帯状疱疹が増えたのでしょうか? 一因は、水痘ワクチンが定期接種になったことで、水ぼうそうに罹る子供さんが激減したことです。通常、水ぼうそうを発症した患者さんと接すると、免疫が再活性化(ブースター効果)することで抗体価が高く維持されます。予防接種の普及で水ぼうそうの患者さん自体が減ったことで、水痘ウイルスに対する免疫が低下することで、帯状疱疹が発症しやすくなったのです。
先行して、アメリカでは同じ現象がおこっています。1995年に子どもに対して水痘ワクチンが導入され、その5年後から成人の帯状疱疹が急増しました。そこで、2006年から60歳以上を対象に帯状疱疹ワクチンを導入しています(2011年から対象を50歳に引き下げ)。かなり遅れる形で日本でも、2016年3月以降過去に50歳以上の方を対象に、ワクチン接種が承認されたのです。
4.接種方法は
先程も紹介したように、接種するならば、シングリックスがお薦めです。但し、以下の問題があります。
4-1.2回接種
2ヶ月間隔で筋肉内に2回接種する必要があります。仮に、2回目の接種が2ヶ月を超えた場合であっても、遅くとも1回目から6ヶ月後までに接種する必要があります。
4-2.費用が高額
シングリックスは自費であるため、医療機関によって値段はまちまちです。私が調べたところ、2回接種で4万円前後が多いようです。ただし、ワクチンの原価もかなり高いので医療機関が暴利をむさぼっているわけではありません。名古屋市などの市町村によっては、半額程度の助成がある場合もありますので、調べてみることをお薦めします。
5.50歳以上でワクチンを接種すべき人
値段も高価で、接種するか否か悩むと思います。専門医としては以下の方には接種をお薦めします。
5-1.免疫力が低下している人
今までの生ワクチンでは、著しく免疫が低下した患者さん(エイズ感染、抗ガン剤使用、免疫抑制剤使用、ステロイドホルモン使用中)は接種自体ができませんでした。しかし、そういった患者さんほど帯状疱疹のリスクが高いわけです。その点、シングリックスであれば接種が可能ですから、予防目的でお薦めします。
5-2.水ぼうそうに罹らずに、ワクチン接種をした人
水ぼうそうに実際に、罹った人に比べ、ワクチン接種のかたは、免疫力が弱い傾向があります。子供の頃に、身体中が水疱だらけになった経験がなく、ワクチン接種しかしていない人は、シングレックス接種をお薦めします。もちろん、罹った人でも、希望されれば接種は可能です。
5-3.乳幼児を預かることが多い人
帯状疱疹の患者さんから、水ぼうそうにかかったことのない乳幼児などに、うつる場合があります。大事なお孫さんなどに水ぼうそうを移しては大変です。このような方は、シングレックス接種をお薦めします。
6.まとめ
- 水ぼうそうワクチンの定期接種により、水ぼうそう患者さんが激減しています。
- 水ぼうそう患者さんが激減のより、免疫のブースター効果が得られず、帯状疱疹が増えています。
- 50歳を超えて、免疫力低下している人、乳幼児と接することが多い人、希望者にはワクチンのなかでもシングリックスの接種がお薦めです。