近年、医療費・介護費の膨張にともない、「高齢者の負担をどう設定すべきか」という議論が活発になっています。特に注目されるのが高齢者の“高所得者”区分をどう定義するかという問題です。現行制度では、多くの場合“年金を含む所得額”で判定されます。しかし、現場にいる医師として、そして資産設計に日々触れるFPとして思うのは——本当にそれで公平と言えるのか?
目次
1.所得だけでは実態を反映できない
外来で患者さんと話をしていると、こういうケースを非常によく目にします。
- 年金収入は「低い」
- しかし預貯金は数千万円〜1億円規模
- 投資資産や不動産を多数保有
- それでも制度上は「低所得者扱い」
つまり、“高齢者の生活実態”と“所得区分”がミスマッチになっているのです。
高齢者の場合、現役世代と違い「所得」よりも「資産」の方が生活の豊かさを大きく左右します。
特に、長年の退職金・自宅売却益・相続財産などにより、資産だけが大きい“低所得・高資産層”は非常に多いのです。
にもかかわらず、現行制度の多くは「所得」だけを基準にするため、実態以上に優遇されるケースが生じます。
2.制度の“歪み”が現場に与える影響
医療や介護の現場では、この歪みが具体的な負担差となって現れます。
例えば、
- 同じ医療を受けても支払額が大きく違う
- 介護サービスの自己負担割合が変わる
- 公費負担の公平性を疑問視する声が現場から上がる
「本当に経済的に困窮している高齢者」が、相対的に損をしている—そんな逆転現象まで起きています。
これは単なる財政問題だけでなく、社会保障の信頼そのものが揺らぐ問題です。
3.公平性を求めるなら「資産」を含めるべき
では、どうあるべきなのか。結論は明確です。
高齢者の区分判定には、所得だけでなく「預貯金・金融資産」を含めるべき。
海外ではこの考え方がむしろ一般的です。
英国の介護費用負担では、資産(預金・不動産)を総合的に評価します。
北欧でも同様に、所得と資産を合わせて“支払能力”を判断します。
日本だけが、「所得」だけで判断する極めて特異な方式になっています。
とはいえ、資産を完全に把握するためには当然ながら課題があります。
- 預貯金の把握はどうする?
- 不動産の評価は?
- 投資口座は複数に分散している場合は?
これらを解決する答えは、すでに国が持っている仕組みです。
4.避けて通れないマイナンバーカードの本格利用
資産を含めた公平な負担判定を行うには、マイナンバーの活用が不可欠です。
マイナンバー制度には、もともと以下の利点があります。
- 銀行預金口座との紐づけ
- 証券口座との紐づけ
- 不動産情報との連携
- 税情報の一元管理
日本は世界でも珍しく、これだけの基盤を持ちながら「公平な社会保障」に十分活かせていないだけなのです。
たしかに、マイナンバーには慎重論もあります。しかし、
- 不正受給の防止
- 不公平な軽減制度の是正
- 本当に困っている人への支援集中
- 医療・介護財政の安定化
こうしたメリットは、反対論を上回るだけの価値があります。
特に今後、高齢者人口はピークを迎え、医療費・介護費は確実に増加します。
制度を維持するには、「誰がどれだけ負担するべきか」をより精緻に判定する仕組みが避けて通れません。
5.資産把握なしに“公平”は語れない
私は長年、医療とFPの両面から高齢者の生活実態に触れてきました。
そこで痛感するのは、「所得だけで負担能力を判断するのは、もはや時代遅れ」ということです。
資産の把握は難しい——その通りです。しかし、だからこそマイナンバーの基盤を活用すべきなのです。
もし本当に公平性を求めるなら、
- 年金額だけで負担区分を決める
- 預金1億円あっても「低所得者」扱い
こうした“矛盾だらけの制度”は改める必要があります。
6. まとめ:高齢者の負担は「所得×資産」で判断
高齢者の「高所得者判定」は、今こそ大きく見直すべき時期に来ています。
- 所得だけでは不十分
- 預貯金・金融資産も含めるべき
- そのためにはマイナンバー活用が不可欠
- 公平性を高めるほど、支援は本当に必要な人に届く
医療や介護は“助け合いの仕組み”です。
だからこそ、負担のルールには公平さが求められます。
日本の社会保障を持続可能にするためにも、「所得+資産」で負担能力を判断する仕組み」へ進むべきだと強く感じています。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。