年明け。
久しぶりに実家へ帰省し、両親と顔を合わせた方も多いのではないでしょうか。
「元気そうでよかった」
「相変わらず口うるさいな」
「まあ、年相応かな」
そんな言葉で、心に浮かんだ違和感にフタをしていませんでしたか。
私は認知症専門医として、日々多くのご家族の相談を受けています。
そして年明けに、どうしてもお伝えしたいことがあります。
――久しぶりに会った“あなたの感性”こそが、最も重要です。
目次
1.「毎日一緒にいる人」は、変化に気づきにくい
認知機能の低下は、ある日突然ガクンと起こるものではありません。
多くの場合、少しずつ、静かに、確実に進行します。
毎日一緒に暮らしている配偶者や同居家族は、その変化に徐々に慣れてしまいます。
・昨日も同じ話をしていた
・今日も鍵を探している
・また買い物を間違えた
それが日常になると、
「まあ、前からこんな感じだし」
「年だから仕方ない」
と、違和感が“日常風景”に溶け込んでしまうのです。
一方で、年に数回しか会わない子ども世代は違います。
「前と違う」
「こんな人だったっけ?」
「何かおかしい」
この感覚は、非常に鋭く、非常に大切なサインです。
2.年明けに確認してほしい、8つのポイント
帰省中、ご両親に次のような変化はありませんでしたか。
① 同じ話を何度も繰り返す
数分前、数時間前にした話を、同じ調子・同じ言い回しで繰り返す場合は要注意です。
② 物忘れが目立つ
約束を忘れる、予定を勘違いする、物の置き場所が分からない。
「頻度」と「生活への支障」が判断のポイントです。
③ 料理の味・金銭管理の変化
味付けが極端に濃い・薄い。
お釣りの計算が怪しい、請求書を放置している。
生活能力の低下は重要なサインです。
④ だらしなくなった
身だしなみに無頓着、同じ服ばかり着る。
几帳面だった人ほど変化が際立ちます。
⑤ 部屋が汚れている・片付けられない
ゴミが溜まる、冷蔵庫が賞味期限切れだらけ。
「見えているのに対処できない」状態は要注意です。
⑥ 不要な買い物が増える
同じ物を何度も買う、明らかに使わない物を購入する。
詐欺被害の入り口になることもあります。
⑦ 車の傷が増えた
本人は「覚えていない」「大丈夫」と言う。
運転能力の低下は、他人の命にも関わります。
⑧ 薬の飲み忘れ・飲み間違い
これは極めて重要です。
慢性疾患のある方では、命に直結します。
「一つだけなら大丈夫」は危険です
強調したいのは、
8つすべてが揃う必要はないということです。
実際には、
・同じ話だけ
・買い物だけ
・片付けだけ
たった一つの違和感から始まるケースがほとんどです。
しかし、その「一つ」を放置すると、
半年後、1年後には複数の問題が絡み合って現れます。
そのとき初めて受診しても、
「もっと早ければ…」
この言葉を、私は何度もご家族にお伝えしてきました。
3.先送りは、優しさではありません
多くの子ども世代が、ここで立ち止まります。
「親を傷つけたくない」
「怒らせたらどうしよう」
「まだ様子を見てもいいのでは」
ですが、はっきり申し上げます。
先送りは、優しさではありません。
早く気づき、早く動けば、
・進行を遅らせられる
・生活を整えられる
・家族全員が苦しまなくて済む
可能性は大きく広がります。
4.受診は「診断」だけが目的ではありません
認知症外来やかかりつけ医への相談は、
「すぐに認知症と診断される場」ではありません。
・本当に病気なのか
・他の原因はないか
・生活で工夫できる点は何か
これを一緒に整理する場所です。
むしろ、
「何もなかった」と確認できれば、それが一番の安心です。
5.最後に――その違和感は、親を守る力です
親は、いつまでも親でいてくれる存在ではありません。
そして、親自身は「自分の変化」に最も気づきにくいものです。
だからこそ。
年明けに、久しぶりに会ったあなたが感じた「何か変」は、
ご両親を守るための、大切なサインです。
どうか、その感覚を軽視しないでください。
どうか、躊躇せず、先送りしないでください。
それは決して冷たい行為ではありません。
最も現実的で、最も深い「思いやり」なのです。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。